昔話 その十三
このオジサン、ホントまめだねぇ。
チケットを配る彼を僕は見上げた。
「いや、私は店があるし・・・第一・・・」
差し出されたチケットに戸惑う佳奈ちゃん。だけど結弦くんは強引だった。
「来ないとネットでこの店のこと、バラしますよ。」
・・・佳奈ちゃん、諦めなよ。結弦くんのほうが上手だよ。
今でさえ、このオジサンが、宣伝マンと化したせいか、小さい店がお客で一杯なんだからさ。
僕の鳴き声と視線に気づいた佳奈ちゃんは、笑いながら手を伸ばし、僕の頭を撫でた。
「分かった。行く。」
睡眠時間、少なくなるけど仕方ないねぇ。
一曲、吹いてきたら。
僕は佳奈ちゃんを見た後、ステージを見つめた。
僕の視線に気づいた京ちゃんも言ってくれた。
「二人で一回やらない?」
一回やらない=舞台に上がってセッションしようという意味。
京ちゃんは笑いながら、ステージを指差す。
佳奈ちゃんは頷くとカウンターから出た。
演奏が始まった。
今日は世界的に有名な泥棒アニメのジャズバージョン。
アルトサックスとコントラバス。
二人の歌姫が其処にいた。
佳奈ちゃんがサックスでダイナミックに歌い上げれば、京ちゃんがコントラバスで柔らかく歌い上げる。
この二人、かっこいい。
僕は京ちゃんが座っている席に座り、耳を傾けた。
「ゆづさんも報われませんねぇ」
葛城くんが、グラスを持ったまま結弦くんの隣に座った。
「・・・19歳も年下の子に、一目惚れしちまったんだからなぁ。でもまあ、仕方ない」
え。結弦くん、いくつだっけ?
「48歳と29歳か・・・負けませんよ。俺のほうが歳が若いですねぇ」
「まさか、お前も・・・」
結弦くんの顔色が変わった。
その眼差しはひどく鋭い。
葛城くんはその視線を受け、楽しげに笑った。
「まあ、乾杯」
「はい」
かちんとクラスが鳴る。
この場合、僕はどちらを応援すればいいんでしょうかねぇ。
ていうか、応援したくない。
佳奈ちゃんは僕のだもん。
・・・いっそのこと、出禁にしちゃいたいけど無理だしなあ。
2015年1月。
「ぱぱちゃん、つまんない!!」
雪の声で、僕は思い出を手繰るのを一度止めた。
柏木くんの家を一通り探検した雪。
やれやれ。京ちゃんの話は、子供には難しい話かもねぇ。
「ともにぃも、かしくんもあそんでくれない!!」
・・・殴っていいかな?
ああでも、子供の教育上、暴力は良くないしねぇ。
だけど・・・京ちゃんの話を、柏木も知兄ちゃんも真剣に聞いている。
僕は教育的指導をいれるために立ち上がった。
「琥珀・・・君ってホント・・・」
逃げる雪に追いかける琥珀。
どたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばた
がしり。
7キロの巨体が宙に舞い、3キロの子猫を捕まえた後、雪の首根っこを咥えた琥珀は、知さんの前に雪を置いた。
ふしゃあああああああああああああああああああ!
猫の般若面ってこれか!というような顔をして琥珀が雪を叱りつけた。
にゃあ。
落ち込む雪に、琥珀はフンと小さく鳴くと、再び椅子に座り丸くなる。
「三沢先生。琥珀様が、【お話中ゴメンね。少し叱っておいたから。撫でてあげて】だってさ。」
柏木君の言葉に、椅子で丸くなっている琥珀が「その通り」というように瞬きをした。
「ホント、佳奈ちゃんみたいに、柏木くんは琥珀の言葉が判るのねぇ」
「何となくですよ。」
知さんは雪を抱き上げると、膝の上に置いた。
膝の上で丸くなる雪。
「センセ。話の続き、お願いします。」
柏木くんに促され、私は話し出した。
演奏集団【BLACKCROSS】再結成になった出来事を。




