昔話 その八
「京子先輩・・・ホント天然娘なんだから・・・」
引きずられるようにして連れてこられたのは、小さなバーだった。
ずかずかと部屋に入ると、バスタオルを放り投げてきた。
私はそれを反射的にキャッチしてしまう。
「奥にシャワーと簡単な着替えがあるから、先輩は着替えてきて。その間に、何か作るから」
佳奈ちゃんの言葉に、私は頷くしかなかった。
私がシャワーから戻ってくると、スパゲティが出来上がっていた。
手早い。
私も料理はする方だけど、佳奈ちゃんかなり上手だ。
「京子先輩。こっちこっち。飲み物はコーラでOK?」
ぐう
お腹の虫が鳴いた。その音に、佳奈ちゃんは笑って私を手招いた。
「京子先輩、食べよう」
2015年1月。
京ちゃんは墓の前で、淡々と語った。
大好きだったもんね。佳奈ちゃんのこと。
僕、佳奈ちゃんと京ちゃんが何度かセッションしたのを見たことがある。
繊細で丁寧な京ちゃんのコントラバスと、大胆で荒々しい佳奈ちゃんのサックス。一見すると正反対だったけど、見事に調和していた。
僕は、二人の演奏を聞くのが大好きだった。
「京子先生」
「?」
「佳奈叔母さんのこと、もっと聞かせてください。」
柏木の言葉に、京ちゃんは笑った。
2013年8月
久しぶりにバー「 止まり木」に来ると、黒猫が迎えに来た。
まるで、佳奈ちゃんが黒猫になって挨拶に来たみたい。
「こんばんわ。ネコさん」
うにゃあ。
律儀に返事をする黒猫に、私は笑ってしまった。
のそりと、もう一匹の大きな黒猫もとい後輩で友人の十文字佳奈が姿を表した。
「佳奈ちゃん、猫飼ったんだ」
「飼ったというか拾ったんです。で、私が彼に世話されています。」
黒猫が私を見上げ、ニャオと短く泣いた。
まるで、「いらっしゃい」と言っているかのようだ。
なんとなく、黒猫の仕草が佳奈ちゃんそっくりで私は笑ってしまった。
佳奈ちゃんは、タバコ片手に楽譜とにらめっこしていた。バーテンの仕事の他に、いろいろとやっているらしい。
「何やってんの?」
「作曲の仕事、頼まれたんですよ。」
確か佳奈ちゃん、音楽全般造形が深い。
うにゃああ。
私を見たあと、タバコの煙を見て黒猫が鳴いた。
この子、もしかして・・・
「タバコ、程々にしなさいって言いたいの?」
にゃ。
黒猫が目を輝かせて、返事した。
「佳奈ちゃん、黒猫さんが、【タバコは程々にしなさい】って」
私の言葉に佳奈ちゃんは黒猫に視線を向けた。
「京ちゃんと意思疎通取り合うなんて・・・琥珀、君、ホントに猫」
うにゃああああああ。
文句を言うように鳴き声をあげる黒猫に、私は笑って、黒猫を抱き上げた。
「名前、なんていうの?」
「本名はアンバー。ただ、面倒だから琥珀って呼んでいる。」
にゃ。
面倒臭がらないでよとでも言うように、黒猫は目を細め、短く鳴いた。
この子、かなり頭が良い子のようだ。
「バーテンダーの仕事に、作曲に程々にしておかないと佳奈ちゃん、そのうち過労で倒れちゃうよ。」
「その時は、京子先輩、往診してくださいね。」
「もちろん。さて、京子先輩。今日は何作りましょうか?」
佳奈ちゃんはタバコを火を消すと、カウンターに向かった。
「海鮮焼きそば!!」
「うちは居酒屋じゃないんだけど・・・まあ、良いか」




