秋月夜 SIDE KYOUKO
仕事が終わり、家に帰った。彼は部活動の関係で帰りは遅くなるそうだ。
一人きりの夕食を済ませ、私は縁側に向かった。手にはホットワイン。
最近の私の楽しみは縁側に座り、琥珀と寛ぐことだ。
だっこして、撫でてと彼は盛大に甘えてくる。
「琥珀・・・良い子だねえ」
にゃあ。
甘えるように彼は私の手に頭を擦りつけてくる。ホント、可愛い。琥珀を飼い始めた頃は、「とうとう結婚を諦めたか」と風さんに言われたが。
それにしても。
「一人足りないねぇ」
にゃん。
律儀に返事する琥珀の頭を撫でる。それにしても、随分と私にとっての彼の存在は大きいようだ。こうして縁側で琥珀と寛いでいるともう一人の大きな黒猫・・・いや黒豹も何故か私に甘えてくるのだが、今日はその存在はない。
「京子さん。」
そう言って、甘えるように彼は私の背後から抱きしめてくる。
いつも感じる体温が今日はない。
寂しい。
そう考えてしまう自分に笑い、私はマグカップに入れたホットワインを口にした。
なあああ。
飲み過ぎちゃダメだよ。と私に注意するかのように、琥珀は鳴き声を上げた。
「明日は休みだし、もう一杯ダメ?」
みや。
ダメというように目の前の琥珀が鳴いた。鳴き声を上げる琥珀を私は抱き寄せる。温かい。
「風邪引きますよ。京子さん」
現れた知之さんに私は笑ってしまった。ラフなビジネスカジュアル。首にはネクタイではなくループタイ。冬になったら寒いので手編みのマフラーでもプレゼントと考えて、私は笑ってしまった。
恋人でもないのに、手編みのマフラーなんぞ貰っても嬉しくないだろう。
この時間、縁側で一人と一匹で寛いでいることを知っていた彼は、玄関ではなく直接、此方に来たらしい。
「寒くなってきましたねえ。」
彼は着ていたジャケットを脱ぐと私の肩にかけて、縁側に腰掛けた。
みゃあむ。
お帰りというように、琥珀は知之さんの膝に乗って甘える。
「ただいま。琥珀。」
そう言いながら、琥珀の頭を彼は撫でる。
「そろそろ、マフラー買わないとダメかなあ」
ポツリと呟いた彼に、私は立ち上がり、部屋のタンスからあるものをだした。
紺色の毛糸で編んだマフラー。去年のクリスマスにプレゼントしようと用意したものだ。
誰にプレゼントか?目の前にいる彼にだ。告白しようと思って作って用意したが、彼女ができたという噂を聞き、諦めたのだ。
「知之さん。ハイ」
琥珀を撫でていた彼の肩にマフラーをかけてやる。
横に座ると、マフラーを手にしていた彼が驚いた表情をしていた。
「これ、もしかして・・・」
「お察しの通り、手編みです。私が作りましたが・・・河野先生には内緒にね。」
私が笑いながら隣に座ると、何故か彼は抱きついてきた。
にゃあお。
「しょうがないねぇ」というように琥珀が一声鳴くと、知之さんの隣に座った。
「去年、河野先生と噂になったけど・・・あれ、彼女が流したデマです」
「え?」
更に抱擁がきつくなる。力が強いなぁと思うながらも、私は彼の背を撫でる。
「去年のクリスマス、俺、京子さんと風祭さんと飲むの、すげぇ楽しみにしていたのに・・・京子さん、あのデマ聞いたせいで来てくれなくて・・・」
「だって、彼女がいるのに悪いと思ったから」
「だから、俺は此処二年、彼女いません。嘘はついていない。俺は貴方にだけは嘘をつきたくない。ねぇ、俺の言葉、信して。」
見つめてくる瞳に、私は狼狽えてしまう。甘い雰囲気に不味いと感じた。このままだと流される。
次の瞬間。私の唇に温かな体温を感じた。
【口づけられている】と認識するのに、時間がかかった。
私は彼を突き飛ばし、部屋に逃げ込んだ。
「バカ・・・」
扉の前で私はしゃがみこんでしまった。




