魔法使いの弟子の昔話 その2
髪はボサボサ、半泣き仕様の三沢先生の姿と、今日という日付から、俺は凡その事態を察してしまった。
(このまま追い出すか?うん。そうしよう)
せっかくの二人と一匹の楽しい時間を邪魔されたのだ。
だが、それより先に三沢先生が俺に泣きついた。
「助けてくれ!!チョコが怖い!!」
チョコ=チョコを持ったおっかけ。もはやチョコ単体もダメになったか?
・・・生徒に泣きつくなよ。教師がと思うだろう。
俺は隣の三浦を見る。三浦は黙って頷いた。優しい男だ。
俺は三沢先生をロッカーに押し込んだ。
「声出さないで。できるなら息もしないで」
「そいつは無理だろう。」
三浦のツッコミに俺は黙って彼を睨みつけた。
無理だろうとやってもらわなければ困る。
三沢先生が反論するより先に、俺はロッカーの扉を閉めた。
もう一つのロッカーに猫仕様の琥珀様が自主的に入った。流石だと思う。俺もこの寒空に琥珀様を外に追い出すなんぞしたくない。
二人が隠れたのと同時に、とある集団が部屋に乗り込んできた。
残念男大好きクラブ違った三沢知之ファンクラブ。
隣の水野女子高等学校の一部の生徒と悲しいかな我が島原男子高等学校の一部の生徒と教師。
最近はBLが流行りなのか?残念男を押し倒すのが夢なのか?
君たちのダーリンもとい愛しい彼氏は現在、ロッカーの中でガクブル震えているぞぉ。
「三沢先生、この部屋に来なかった?」
聞いてきたのは我が校の河野静香教諭。
専門は音楽。俺や三浦の選択教科は家庭科なので問題なし。
「いや、来ていないぞ。なあ、三浦」
「おう。朝から真っ青な顔をして逃げ回ってたけど・・・コッチには来てないな」
部屋にはタブレットコンピューターが二台と三つのコーヒーカップ。
三つのコーヒーカップ?
「そう。でもカップが三つもあるのは何故かしら?」
しまった!琥珀様のカップを隠し忘れた。三浦もその指摘に一瞬顔色が変わった。
だが。
「・・・それは私のカップですよ。ここは文芸部の部室で、現在彼らは部活中です。皆様、お引き取りください。」
現れたのは橘京子。この学校の保健医であり、文芸部顧問を務めている先生だった。
穏やかな口調でありながら、有無を言わさぬ迫力がある。
「部活って言っても何やっているのよ。たった二人だけで。」
「小説かいているんですよ。彼らは優秀な小説家ですよ。ねえ。琥珀うらら先生。秋月柏先生。」
琥珀うらら=柏木正行。
秋月 柏=三浦一。
俺達一応、ペンネームですがデビューしています。
うちの高校の場合、部活動にも実績が求められます。これ充分、実績になると思いますが・・・どうなんだろう。前例はないらしい。
そう言えば河野先生は、「実績を上げていない」って文芸部を廃止しようとしていたっけなあ。
「小説を書いていたですが、喉が乾いたので、全員でお茶にしていたんです。私はもらいものクッキーを彼らに差し入れしようと思って車からとりに行ってましたので、一旦離れましたが、何かありましたか?」
ニッコリと彼女は笑った。
「・・・いいえ。失礼しました。三沢先生がもしいらしたら、探していたと伝えていただける?」
「承知しました。」
京子先生は笑顔で答えた。
全員が消えたのを見計らって、俺はまず琥珀様が隠れているロッカーを開けた。
ロッカーの中から飛び出してきた琥珀様を京子先生は抱き上げた。
「ありがとう。柏木くん。三浦くん。」
「いや、流石に焦りましたよ。さて・・・」
ドンドンドン
ロッカーの扉を叩く音に、俺と三浦は盛大に溜息をついた。京子先生は事態を察したらしい。くすくすと笑っていた。
「開けてあげてください。せっかくの客人ですからね。」
俺は三沢先生が入っているロッカーの扉を開けた。
出てきた三沢先生の第一声は、コレだった。
「サインください!!」
・・・それかよ。
俺は手にしていた辞書で彼の頭を叩き、三浦は膝裏に軽く蹴りを淹れ、琥珀様はすねに噛み付いた。
それぐらいは、許されるだろう。




