初めまして。
皆様。初めまして。僕の名前は橘琥珀といいます。
年齢は1歳です。
まず、皆様にお伝えしなければならないことがあります。
僕は人間ではありません。猫です。
僕の朝は早い。
お味噌汁の匂いがする。京ちゃん、起きたんだ。
「琥珀、ご飯だよ。」
はい。今行きます。
かちゃかちゃ。かちり。トントン。
ご飯が入った缶詰を、開ける音が聞こえる。僕は京ちゃんの足元に座ってご飯が出てくるのを待つ。
京ちゃん。早く早く。
「おはよ。琥珀。ご飯だよ」
この人が京ちゃん。正しくは橘京子。33歳。独身子持ち。もちろん「子」は僕のこと。
トントントン。
ご飯が入った器が僕の目の前に置かれた。
わーい。頂きます。
手際よくお料理を、箱に詰めていく。京ちゃん。料理得意だものね。
「そういえば、琥珀。」
ん?なに?
「男の人が、お弁当を欲しがるのには、何かあるのかなあ?」
・・・京ちゃん、「鈍い」とか「天然」とか言われていませんか?息子として、僕心配です。
支度をして、玄関に向かった。
待って。僕も行く。
後ろを歩く僕に気がついたのだろう。京ちゃんは笑った。
「学校内で入って良いのは、保健室の隣の物置部屋と・・・」
はーい。学校関係者以外入ってはいけない裏庭だけです。僕は人ではないので、問題ありません。
僕の【返事】に京ちゃんは笑った。
「ホント、君、頭が良いねえ。私の言葉理解しているでしょう。」
もちろんです。
人間がゆっくり歩いて五分。
私立学園島原男子高等学校。
京ちゃんの職場であり、僕の縄張りです。
京ちゃんはこの高校の保健医をしています。
僕は京ちゃんと別れて、裏庭に向かいました。
「おう。黒猫。」
なーに?
黒い毛皮の猫は僕だけですが、お兄さんは黒ずくめのイケメンさんです。
目の前にいる彼の足元に座り、僕は彼の瞳を見上げた。
「生徒にバレないようにな。」
わしゃわしゃと僕の頭をなでてくれたのは、風祭賢治。35歳。この学校の教頭先生で、京ちゃんと友人です。
僕がこれから書くのは、京ちゃんと愉快な仲間たちのお話です。