食べ放題
「カニ!!! ジンギスカン!!! お寿司いいいいいぃッ!!!」
山盛りの料理を見た山田が壊れた。
海鮮焼き(カニ有り)、ジンギスカン、お寿司食べ放題100分間、5,000円也。
そこに更に飲み放題をつけるとお一人様6,000円である。
9人なので54,000円也。
そこに税金がかかる。
高校生にはとんでもなく高額である。
大人でもパソコンが買える値段だが、これでも安いと判断せざるを得ない。
全てを別の店で食べたら何人もの諭吉が討ち死にしたことだろう。
確実に小隊全滅クラスである。
さすがにそれはまずいと明人は思った。
そこで食べ放題のお店を探すことにしたのだ。
さすがに三つとも食べ放題はないだろう。
明人はそう思いながらもダメ元で探してみたのだが、実際に探してみたらあっけなく見つかった。
明人もこればかりはインターネットに感謝せずにはいられない。
「明人……割り勘というのは……」
ライアンが遠慮しながらも抗議する。
その瞬間、明人の目が鋭くなった。
誰のせいでこうなったと思ってやがるんだ。
そう言わんばかりの殺気のこもった眼差しである。
「明人がシベリアで素手でヒグマを倒したときの目をしてる……払わせてもらいます」
明人が己の師を目で脅迫すると、今度は飯塚が明人へ話しかけた。
二人目の犠牲者である。
「あ、あの明人君。ぼ、ボクも?」
ビキビキビキ。
と、明人のこめかみに血管が浮き出る。
「当たり前だ。いい加減にしないと殴るぞ」と言わんばかりの表情で、である。
「いえ。スイマセン……」
飯塚が目をそらした。
完全にキレている。
それほどまでに明人の雰囲気は尋常ではなかった。
「明人……えっと俺も払うぞ」
藤巻の声は緊張していた。
藤巻は空気の読める男なのだ。
「藤巻さんは俺たちのおごりだ。いつも世話になってるからな」
一転して笑顔。
オンオフが激しい。
「お、おう……」
藤巻はそう言うしかなかった。
明人の基準は簡単だ。
原因を作った連中は問答無用で割り勘、それ以外はおごりである。
……少数の例外を除いては。
「あ、あの伊集院君。私も払うね」
みかんも割り勘組と自覚していた。
ところが……
「いい。巻き込んだライアン先生が払う」
明人はみかんの分も払うと言うのだ。
「え? いいの?」
「飯塚いいよな?」
これは「飯塚。お前も払うよな?」という意味である。
もちろん割り勘で、での話である。
ちゃんと明人も負担する。
「も、もちろん」
嫌とは言わせない。
ところが空気を読まないヤツはどこにでもいるものである。
「え? ちょっと明人! 俺は聞いてねえ!」
ライアンが反論した。
まだ懲りていない。
「あ?」
それは「あ」に濁点が入った発音だった。
眉間に皺を寄せ、黒目の色素が薄い迫力のある三白眼でメンチを切る。
明人のその姿は完全に悪役に戻っていた。
だがただの悪役ではない。
態度と「あ?」の発音はテンプレート的なチンピラやヤンキーのそれだが、その迫力はチンピラ程度には出せないものだった。
「スンマセン。喜んで払わせてもらいます……明人怖い!!!」
完全に目で殺されたライアンが泣きを入れた。
だがライアンはわかっていた。
明人がその気になったらライアンに勘定を押しつけることもできるのである。
そもそもの原因はライアンなのだから。
明人がそれをしないで支払う側に回った時点で明人に反論できる人間は皆無だったのである。
「あ、明人。この子は私たちが出すから」
妙に顔がつやつやしたジェーンがそう言った。
実はジェーンだけではなく、田中もレイラも顔がツヤツヤしていた。
それは何かを成し遂げた満足感なのだろう。
ちなみにこの子とは捕虜の少年のことである。
少年とは言ってもジェーンたちに強制的に女装をさせられているので、明人は相手が敵だとは全く気がついていなかった。
さてツヤツヤとした顔の三人娘。
ジェーンと田中はもう手遅れとして、レイラは男の娘を着せ替え人形にしたから肌がツヤツヤしているわけではない。
それには理由があった。
レイラはかわいいものが好きである。
ヒラヒラしたものや、小さいものや、キラキラしたものが大好きなのである。
だが残念なことにレイラ自身の姿は変装も含めてかわいい系ではない。
スポーツ系やパンクファッションの方が似合うのだ。
かわいいものが着たい。
もっとかわいいものを!
もっとかわいいものを寄こせ!!!
そんなレイラの目の前に現れたのは男でありながらかわいい生き物。
華奢な体。
大きい目。
赤ちゃんのようなきめの細かい肌。
ひゃっっほおおおおおおおおおぉッ!!!
こうして明人一味の良心は暴走したのである。
◇
山田によりジンギスカンが超高速でなくなっていく。
「ちゃんと焼けよ」
「んが!」
山田がコクコクと頷いた。
寿司に肉、そして網の上の焼いたシーフードが山田の胃の中へ消えていく。
山田の胃の中はどうなっているのだろうか。
明人は疑問を持たずにはいられなかった。
「肉持ってきたよー!」
ジェーンが肉を持ってくる。
肉だけを。
大量に。
さすがバーベキュー文化の国からやって来ただけはある。
彼らは肉だけで必要栄養素全てを摂取できるに違いない。
後から田中が野菜を持ってくる。
それと明人用の寿司も。
「明人様。明人様は炭水化物好きですわよね?」
「会長。山田にあげてください」
「んもう。麗華ってお呼びください」
と明人が言った瞬間、目にとまらぬ速さで寿司が明人の皿に出現していた。
あまりの早業に明人は田中の顔を見た。
いいから喰え。
田中の目はそう言っていた。
それは手段を選ばないハンターの顔だった。
「お寿司もっと持ってきましょうか?(訳:喰え!)」
「……いえ」
「もっと持ってきましょうか!?」
これはマズイ。
明人は思った。
だから……
「えっとジェーン……」
明人は話を逸らすためにジェーンに話しかけた。
◇
「というわけで捕虜なのよ」
寿司を挟んだはしを片手にジェーンがそう言った。
「CIAは捕虜にジンギスカン食わせるのか?」
「そりゃアフェリエイトであぶく銭……げふんげふん」
ジェーンがわざとらしく咳をした。
明人は「絶対にツッコまねえからな」という表情をした。
「まあ私たちが払うから。ね?」
「ジェーンがそう言うならいいよ」
異論はない。
ジェーンもレイラもプロだし、田中も忍者の一族だ。
考えがあるのだろう。
……なかったらどうしよう。
明人はやや暗めの近未来が見えたのでそれ以上考えるのをやめた。
「ところで何か情報は?」
「うーんとね。加納ちゃんはね、シナリオライターのアシスタントだったみたいよ」
「……本当か!!!」
「うん。加納ちゃん! 明人が話があるって!」
皿と甲殻類の殻を片付けていた加納と呼ばれた少年が明人の方を見た。
どうやら明人と同じように細かいことが気になるタイプらしい。
ここではじめて加納は口角を上げ、にぃっと笑った。
「ド変態どもの親玉か!」
否定はできない。
「お前は旧制作陣か」
「ああ。死んだと思ったらこのザマだぜ」
声が高い。
完全に女の子の声である。
「だぜ」が完全に空回りしている。
明人は全力でツッコみたい思いを飲み込んで質問を続けた。
「死んだ?」
「ああ。俺たちヤー公に金借りてたんだ。返済できなきゃ生命保険で。わかりやすいだろ?」
実にわかりやすい。
「だが……どうしてそんな金が要る? パッケージが無理ならダウンロード販売すればいい」
「ああ。俺たちはそこまで考えられるほど冷静じゃなかった。それで失敗したんだ」
なるほどと明人は納得した。
「そうか。ではお前らはこの世界で何を企んでいる? 世界を滅ぼすのか?」
「まさか! 俺たちは自分たちの世界を取り戻したいだけだ」
「……元の世界の主線は俺が救い、この世界と切り離されたはずだ」
「ああそうだな。お前は間違った方法で世界を切り離した」
「間違い?」
「あとは自分で考えやがれ。あ、そうそう。伊集院明人!」
「……なんだ?」
「これから進藤が俺を殺しに来る。序盤の山場だ、楽しめ。ったく、こんなファミリー向けの店にしやがって。本当だったらもっと高級店のはずなんだがな……」
加納がしかたねえなとへらへら笑った。
次の瞬間、明人のうなじがぞわっとした。
慌てて加納をテーブルの下へ押し込む。
ジェーンも避難させねば!
そう思った瞬間、ジェーンを抱えた山田たちがテーブルの下へ滑り込んできた。
藤巻はレイラを抱えていた。
「会長は?」
「高いところから見てみるってよ!」
「藤巻さん。バイクは?」
藤巻がやたらいい表情で破顔した。
「大丈夫。バイクはすぐに来る。明人。俺はどうすればいい?」
「そのガキ乗せてずらかれ」
明人もニヤッと笑い親指を立てた。
その瞬間、店の窓が破壊音を立てながら粉々に砕けた。




