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部屋

「ぽう」


 少年はなぜか片言でそう繰り返していた。

 その横でジェーンとレイラが口喧嘩をしていた。


「拷問する前に壊れる……だと……」


「だからぁ、泣きながら全部喋っていたじゃん! 命乞いしてたじゃん! それを聞かずになんか怖そうな鉄の棒なんか出すから!」


 指を折るビジュアルがすでにアウトな道具である。


「指の一つも折る前にベラベラ喋るなんて……どう考えても罠じゃないか! 教本にも書いてあったぞ! 習ったんだぞ!」


「だから『おそロシア』って言われるんだよ!あんたの国は!」


「ジェーンの国だって拷問得意じゃないか!」


「むきー!!! ちゃんと本気の時は自白剤使うもん! 科学的に追い込むもん!!!」


 なんの言い訳にもなっていない。

 どちらにせよ非人道的である。


「だいたい拷問をする前にペラペラ喋るバカがいるものか!!!」


「いるの! 豆腐メンタルはここにいやがるの!」


「なんて……ことだ……」


 レイラは絶句した。

 仕方ない。

 ここは工作員たちの血と汗と涙である、継承された知恵から解決策を探るしかない。

 レイラは目をつぶる。

 大丈夫だ。

 習ったことを思い出せばいいだけだ……


「いい。レイラ。ポ●の一族。これこそ少年愛の原点だと思うの」


 あっれー?


「ねえねえレイラ。トー●の心臓。やはり美少年は……じゅるり」


 あれー?


「『11●いる!』のヒロインは両性なの。つまり少年(略)」


 ……あっれー?


 なぜだろうか?

 昔の日本漫画、それも名作古典の中でもいやに濃い作品のレクチャーしか受けていない気がする。

 もっと素晴らしい教えをたくさん受けたはずなのになぜかこれしか思い出せないのだ。

 焦ったレイラは横目で田中を見た。

 そうだ。


「に、忍者にはこういうときに都合よく物事を解決してくれるニンジュツというものがあると聞いたが……」


「ないですわ」


 一刀両断。


「っく……なんてことだ!!!」


 レイラは両手を床につけ叫んだ。


「ぽう」


 少年は虚ろな目でもう一度繰り返した。



 二人は壁の中に設置されたダクトを這って進んでいた。

 飯塚と斉藤はある部屋を目指していた。


「ねえ、みかん。ライアン先生は大丈夫だと思うよ。ライアン先生だし」


 酷い言いぐさである。

 だが、飯塚の声からはライアンに対する絶対の信頼が七割含まれていた。

 ちなみに、あとの三割はアフリカでさんざんライアンに酷い目に遭わされたことに対する嫌がらせである。


「ねえ、亮ちゃん。進藤くんのことなんだけど……」


「進藤くん? あまり喋ったことないけど……」


 そうだった。

 こちらの飯塚は明人や藤巻と仲良しで進藤とは仲良くなっていない。

 余計なことを言ってしまったとみかんは反省した。

 そもそも進藤は意味のないキャラだ。

 学生版のらめ(略)は数値でルート管理などしていない。

 ゆえに進藤の存在はまるで意味がないのだ。


「やあ、亮。俺の勘では倉庫で山田が危険な感じだ」


「やあ、亮。俺の占いでは校舎裏で斉藤が不良にからまれている」


「やあ、亮。俺のリサーチでは……」


 このように学生たちは、ご都合主義に使うのに便利なため進藤をそのまま登場させたのだ。

 もちろんエピソードの繋ぎに使うのも忘れない。

 そんなキャラが牙をむいたのだ。

 いや……これも運命なのかもしれない。

 そして今のプレイヤーは伊集院明人だ。

 あとで彼に話せばいいだろう。

 一見すると脳筋のように見えるが、実際は繊細な心の持ち主だ。

 彼なら悪いようにはしないだろう。

 結論を出したみかんは


「ごめん。なんでもない」


 と、誤魔化した。

 這って進んでいくと強い光が通風口から差し込んでいるのが見えた。

 部屋に違いない。


「ちょっと見てくるね」


 小声でそう言った飯塚が音も立てずにスルスルと匍匐前進していく。

 飯塚は細身で体重が軽いためかこういう潜入が得意である。

 そして炸裂音を立てずに使える弓矢の名手なのだから本来は潜入向きである。

 火力が強くなければ使える人材である。

 だが、よく考えると主人公のスキルではない。

 どんどん嫌な方向に器用になっていく。

 みかんは不安を覚えた。


 光の方へ近づくとみかんへ「こっちに来て見て」と指をさした。

 みかんが通風口へ辿り着くとそこには必死に暴れるライアンとビクともしないドアが見えた。


「うーん? 監視カメラもないかな?」


 みかんも同意見だった。

 だがおかしい。

 たとえドアが壁だったとしてもライアンを止められるはずがない。

 サイボーグのように壁を壊して進むはずだ。


「なに遊んでるんだろう?」


 やはり様子がおかしいようだ。

 みかんは首をひねった。


「さあ? とりあえずここ開けてみる」


 そう言うと飯塚は通風口のフタに蹴りを入れた。

 ガシャーンという音とともにフタが下へ落下する。

 ライアンならこの程度は障害にもならないはずだ。

 その瞬間、ライアンが怒鳴った。


「ちょっと待て! 入るな!!!」


「え?」


 飯塚はすでに飛び込んでいた。

 怒鳴り声を聞いたみかんは慌てて通風口から部屋へ飛び込んだ。


「亮ちゃん! 大丈夫?」


「うん。特に何もないけど……」


 飯塚は特に何ごともないという様子だった。

 だが、みかんは自分の体に異変が起きているのを感じていた。


「あ、あれ……? 体が重い……」


「やっぱりか……どうやらこの部屋なんだが……体力が常識的なレベルにまで落ちるらしい」


 ライアンが頭をポリポリとかいていた。


「常識的?」


「ああ。簡単に言うとただの人間だ。腕力もなにもかもな」


 みかんはナイフを抜いた。

 スローイングナイフがずしりと重い。

 確かに普通の女子高生の腕力だ。


「なるほど……」


 二人は戦慄した。

 手強い相手のようだ。

 いや今まで一番恐ろしい相手かもしれない。

 だがその時だった。


「んー。この扉開きそうだよ。量産品みたいだし。ホラここ。メーカー名がある」


 そう言いながら飯塚がジェーン謹製の端末を取り出す。

 器用に電子錠のカバーを開け、ケーブルを取り出し回路の上から端子をテープで貼り付ける。


「うん。あとはこのプログラムを使ってと……メーカーを選んで……」


 ビープ音が鳴り、端末から解錠の命令が直接電子錠に送信される。

 ガチャリという重い音がした。

 油圧ロックが外れた音のようだ。


「うん。解除完了。んじゃ開けるね」


 そして扉が開く。


「え?」


 扉の先、そこには漆黒の闇が広がっていた。

 いや漆黒というのは正確ではない。

 光が無に飲み込まれただけだ。

 そこには暗い通路やトラップではなく完全な無が広がっていたのだ。


「……マジで?」


 飯塚がつぶやいた。

 外には床も何もない。

 ただ闇があるだけだ。

 だがそこから空間の異常なほどの広さだけは感じられた。


「これは……なんだ?」


「さあ? なにか投げ込んでみますか?」


 そう言う二人に飯塚が言った。


「やめた方がいいと思う」


 飯塚は瞬時にそう判断し、警告したのだ。

 こりゃダメだ。

 見た瞬間にそう思ったのだ。

 何かを投げ込むなどの行動は何が起こるかわからない。

 直感がやめろと警告していたのだ。

 次に飯塚は元の通風口から逃げようと考えた。

 通風口の下へ行きジャンプし 、通風口へ指をひっかける。

 そのまま自分の体を持ち上げ、次に通風口に踵を引っかけると、そのまま器用に通風口へ押し入った。


「みかん。こっち来れる?」


「無理かなあ。全然力が入らないよ。ライアン先生、なぜか亮ちゃんには制限がないみたいです」


「だな? でもなんでだろう?」


 何もかもわからないことばかりだった。

 二人は渋い顔をした。

 そんな中で飯塚だけは呑気だった


「みかん。手を出して。引っ張り上げるから」


 飯塚が手を伸ばしていた。

 みかんはため息をつくとその手を取った。


「あのー俺は?」


「あとで引っ張り上げますって」


 飯塚が苦笑した。

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