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寝台列車爆発

 列車が火花を上げ、運転室に金属のこすれたニオイが充満する。

 最後にキュッという音がし、グンッと先頭車両が沈んだ。

 こうして列車はその運動を終了した。


「あー……今年引退の予定だったのに……」


 天井に穴の開いた寝台列車を見ながら、床に倒れたジェーンは呆然とそう言った。

 ちなみに犯人はそう言った本人である。

 ジェーンが立ち上がる。


 まだ頭はボケている。

 口の中から鉄のようなにおいがする。

 口の中のどこか切ったに違いない。

 あとで痛くなりそうだ。


 ジェーンはよろよろと立ち上がる。

 目の前には不思議な光景が広がっていた。

 大型のトラックが見える。


 こんなものがなぜトンネルに?


 軽く混乱しながらジェーンはトラックの運転席を見た。

 運転席にいるのは女性だった。

 ……いや、よく知っている人物だった。

 一見すると人なつっこさなど皆無に見えるほど、鋭く、冷くすら感じられる容姿。

 ところが友達になってみるとわかる気のいいおバカ。


 山田がそこにいたのだ。


 ジェーンは手を振った。

 そんなジェーンの首に冷たい金属が押し当てられた。

 ナイフだ!


 はい?


「いよう。お嬢ちゃん!」


 ジェーンは完全に忘れていた。

 こいつらが何人もいることを。


「てめえのせいで核戦争も俺の作戦もグチャグチャになっちまった! テメエだけは殺してやる!!!」


 男の手に力が入った。

 助けて!


 次の瞬間だった。

 しゃらりという金属どうしがぶつかる音がした。

 ジェーンの首に押し当てられたナイフが外れた。

 ジェーンは思わず首に手を当てる。


 切れた?

 切れた?

 首に当てた手を見ると、ほんの少しだけ血がついていた。


 安心したジェーンはへなへなと膝から崩れた。


「ジェーン!」


 声がした。

 ジェーンが涙目で声の方を見ると、自分より遙かに多い血を流し顔色が青くなった田中がそこにいた。

 出血は鼻からだろう。

 制服の胸の辺りまで血まみれである。

 ジェーンよりもよほど重傷である。

 分銅を巻き付けられた男が起き上がった。

 その手にはサブマシンガンが握られている。


「死ねこの雌犬どもが!!!」


 男が叫ぶ。


「山田さん!」


 田中が叫んだ!

 田中の後ろから女が飛び出した。

 そして腰に差した刀を抜き、男が引き金を引こうとしたその腕に振り上げた。


「え、あ?」


 間の抜けた声を出した男の腕の途中から先が消滅した。

 そして暗殺者として育てられた少女は返す刀で男を袈裟斬りにした。

 斬られた男が痛みの余り転げ回った。


「クッソ! 聞いてねえ!!! 刀で斬られるなんて!!!」


 男は怒鳴った。

 そしてしばらくすると消滅した。



 痛い。

 シャレにならないほど痛い。

 神経に直接響く痛さだ。

 骨の切断がこんなに痛いなんて!

 冗談じゃない。

 即死ならまだいい。

 痛みは一瞬だ。

 だが、腕を切断されるなんて思わなかった。

 動いている人間の骨を切断するなど非常識な腕だ。

 まだこの痛みは残っていて、そのせいか手が震えている。

 この能力は中途半端だ。

 どうして痛覚の遮断ができないのか!


 本体の手が震えた。

 操るプレイヤーと比較して生身はあまりにも脆弱だ。

 ただの痛みでここまで追い込まれている。

 もう本体の方が限界だ……


 奥の手を使うしかない。

 男……男の本体はそう決意した。



 最初に気づいたのは藤巻だった。

 前の車両から同じ顔をした男たちがわらわらと群れをなして現れた。

 藤巻は殺気を感じた。


「おい、明人……なんかおかしいぞ」


 明人も気づいたようだった。


「ああ。逃げよう」


「イヤダメだな」


 レイラが冷静にそう言った。

 藤巻がレイラの方を見ると後続の車両からも男たちが群れをなして侵入してきていた。

 後続車両からやって来た男が拳銃を構えた。


「これで終わりだ!!!」


 圧倒的人員による人海戦術か。

 明人は思った。

 だがそれにしては様子がおかしい。

 その瞬間、藤巻は先頭の男に向かって駆出した。

 藤巻は踵を踏みしめて加速する。

 それは直線を走るためのものではなく、走りながら急反転ができる走り方だった。


 弾が飛んでくる。

 止まっている。

 止まっているように見えた。

 いつも通りだ。

 藤巻は走りながらひらりと弾をよけた。


「く、来るなあああああああッ!!!」


 男が叫んだ。

 すぐ後ろの男が藤巻へ拳銃を向けた。

 まずい。

 体勢が崩れている。

 至近距離だ。

 体の動きが間に合うだろうか?

 藤巻がそう感じた瞬間、後ろの男へぶつかるものがいた。

 飛び蹴りを浴びせたのだ。

 明人だ。

 藤巻が走り出した瞬間、明人がサポートへ回ったのだ。


 藤巻は全力で持っていた鉄パイプで男の体をなぎ払った。

 男の体に跳ね返された鉄パイプを放り捨てると、藤巻が男の襟と髪の毛を掴んだ。

 そして体を反転させ男を顔からガラスに叩きつけた。

 ガラスが悲鳴を上げ細かく砕ける。

 藤巻は男をそのまま列車の外に放り投げた。


「明人ぉッ! これでいいんだよな!!!」


 藤巻は叫んだ。

 ああ。そうだ。

 これでいい。

 動けなくさえすればいい。

 明人は頷いた。


 実際、男たちは直立不動のまま動かなかった。

 一見すると無敵の能力だ。

 殺しても殺しても生き返ってくる。

 だがそこが落とし穴だった。

 要するに殺しさえしなければいいのだ。

 他の兵隊も命令するものが落ちてしまえば脅威にならないのだ。


 明人たちは落ちた男を追って外に出た。

 男は窓のすぐそばで倒れていた。

 男は動けないようで寝そべったままだった。

 呼吸のために胸が上下している。

 やはり死んではいない。


 明人が男のそばに寄った。


「お前らの目的はなんだ?」


「滅亡だ……三島花梨……あの女はお前らにとっても危険だ……それにジェーンのクソガキもな……」


 男は虚ろな目でそう言った。

 後藤たちのようにループしているのだろうか?


「これ以上は教えてやらねえ……」


 そして男は奥歯をかみしめた。

 次々と爆発音が響く。


 その時、明人の携帯からジェーンの声が流れて来た。


「ごめん! 持ってきた爆薬、車内に忘れちゃった♪ 爆発しちゃったらごめん」


 はいいい?

 明人の顔から血の気が引いていく。

 レイラと藤巻が今まで見たことないほど必死に逃げていく。


 おまッ!

 ちょっと待て!!!


 明人も遅れて逃げる。


「また遊ぼうぜ!!!」


 背中に戯けた声がかけられた。

 確かに……ジェーンのミス……いや相手が自爆するとまでは……

 運命が邪魔してるとしか思えない。

 少しずつ歯車が狂っている。


 行方不明の飯塚たち。

 何人もの三島……

 何を望んでいる!

 何をすればいいんだ!

 他の世界の俺はなぜ間違えたのだ!


 後ろから熱い風がやってくる。

 爆発だ。

 明人が認識したのとほぼ同時に激しい風で明人は吹き飛ばされた。



「生きてるか……」


 藤巻の声が響いた。


「死んでる」


 明人は投げやりに答えた。

 こんな状態だというのに骨が折れたところもない。


「それだけ言えるんだから無事だな。おーい! 明人は無事だぞ!」


 明人は周りを見た。

 トラックが止まっている。

 そこにいたのは藤巻だけではなかった。

 よく知っている面々が明人へ駆け寄ってきた。


 レイラ、ジェーン……


 ……山田?

 ……田中?


「なんで二人がいる!!!」


 明人は飛び起きた。


「おー。起きたな。カニ!!! 動物園!!! ジンギスカン!!!」


「あら起きましたわね。ジンギスカン! カニ!!!」


 二人ともいつも通り欲望垂れ流しの自由人だった。

 明人は辺りを見回した。

 目をそらした……というのもある。

 遠くに寝台列車の無残な残骸が見えた。


「あーあ……もうすぐ引退だったのに……」


 明人はつぶやいた。



 斉藤みかんは男を前にしていた。


「なぜ……あなたが?」


 抑揚のない口調で極めて冷静にみかんがそう言った。

 動揺しているのを覚られたくなかったのだ。


「いやさ。そろそろ宣戦布告した方がいいかなって思ってさ」


「どうして……」


「俺たちはお前らのくだらない遊びにつきあってやってきた。これも三島花梨……いや……女神を抹殺するためだ……我慢してきてやったよ」


 目の前の少年はこの世界にありがちな美形だった。

 だがいわゆるモブではない。


「俺がお前らを監視してたんだ。陰で君や他の女を殺すのを手伝ってたのは俺だ」


 少年は汚らわしいとばかりの目で、みかんを見た。

 そして鼻で笑った。


「そして! とうとうあの売女どもはやって来た!!! 俺は……俺たちはとうとう目的の世界に辿り着いたのだ!!! この世界で決着をつけるのだ!」


 みかんは自分の愚かさを思い知った。

 そうだ……最初から疑うべきだった。

 なぜこの男を無条件で信じてしまったのだろうか?


「君らはよくやってくれた! シナリオ以外の世界……ようやくそこに我らを運んでくれたのだからな!」


 進藤一馬(しんどう かずま)

 主人公である飯塚の親友がそこにいた。

 後藤たちのように狂ってはいない。

 その目の奥には強い意志が感じられた。


「さて……物語を進めるぞ……」


 進藤は感情を抑えるかのようにそう言った。

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