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赤坂プレスセンター 前編

 同時刻、さいたま新都心駅。さいたまタワー展望室。


「ぎゃああああッ! 化け物だ! 助け」


 暗闇から何かが飛んできて男を吹き飛ばす。

 それはドリンクの自動販売機だった。


「……気合いが足りぬのう」


 それはドリ○ャス仮面。

 その黒いオーラが見えるかのような気迫と圧力に兵士たちが逃げ惑う。

 だがその中にもオーラに飲まれないで反撃するものがいた。

 若い東欧系の男が小銃を構える。


「祖国のために!」


 小銃が火を吹いた。

 だがすでにその場にはドリキャ○仮面の姿はなかった。


「合格じゃ」


 兵士は後ろから話しかけられた。

 バックを取られたと焦りながらも手にした小銃で殴りかかる。

 そして兵士の目に巨大なものが映る。

 大きく、硬く、太い拳。

 それが顔面に迫っていた。

 爆撃のような音がし、兵士が吹き飛び壁にぶち当たった。

 それはどう考えても拳が当たった音ではなかった。


「だが貴様らは手段を間違うておる」


 そう言い苦い顔をするド○キャス仮面の後ろから埼玉県警と書かれた防弾チョッキを着た集団が追いかけてきた。


「制圧!」


 そういう号令をかけるとドリキ○ス仮面の圧倒的な力の前で戦意を喪失した兵士たちを捕縛していった。

 隊長と思われる30代の男がぜいぜいと息を切らせながら○リキャス仮面に話しかける。


「猊下……」


「○リキャス仮面!」


 ドリキャ○仮面が大声でたしなめる。

 その敬称はいろいろまずいのだ。


「もうド○キャス仮面でもなんでもいいですから! お願いですから下がってください! ね!」


 今にも泣きそうな声で懇願した。

 だが都合の悪いことは聞こえない便利な耳に懇願が届くことはなかった。

 空気など読まぬ。むしろ自ら作り出す。

 そう背中で語っていたのだ。


「なんじゃこれ?」


 展望室の中央で○リキャス仮面が何かに指をさした。

 もちろん下がる下がらないには言及しない。

 それは巨大なリュックサックだった。

 まるでドラム缶のような円筒形をしている。

 隊長は何事かとその物体に近づいていく。


 『SADM』


 そこにはそう書かれていた。


「……核爆弾だ」


 隊長の声が凍り付いていた。



「山田と会長はジェーンを守ってくれ。爆弾の解除はたぶん……ジェーンにしかできない」


「アキトは?」


 ジェーンが尋ねた。


「いやんおんなのこどうしのひみ……やめた。露払いに行ってくる」


 そう言うと放置された警備車両に乗り込む。

 いわゆる銃器対策警備車だ。

 キーはささったまま。

 直結をする必要も無く、エンジンも無事。

 そのままの状態で動くのだ。


「い、伊集院!」


 山田が声をかけた。


「なんだ?」


「帰ったら……遊ぼう……な」


 人間関係への理解が小学生で止まっている山田にはそれが精一杯だった。

 明人は優しく微笑み「ああ」と一言返し、警備車両を発進させた。


 山田には穏やかに返したが、内心では怒りの炎は胸でくすぶっていた。

 彼女たちが一体何をした?

 彼女たちはこの世界でちゃんと生きている。

 それを弄んでいいはずがない。

 たとえ神やこの世界そのものであってもだ。

 自分のできることは全てしてやろう。

 いや自分のできることを超えてもやり抜いてやる。

 このとき明人は激高していた。

 完全にブチ切れていたのである。


 明人は青山公園方面へ車を走らせる。

 赤坂プレスセンター。別名、星条旗新聞社。

 実際は米軍の基地の一つであり、ヘリポートを完備している。

 その門が見えてきた。

 猛スピードで失踪する警備車を見て、なぜかAKを装備した警備員が騒ぎ出す。

 警備の人員のふりをしているが正体は明らかである。

 明人は銃器対策警備車に内蔵されたグラップル、いわゆる油圧式シャベルを外に出す。

 そしてアクセルをベタ踏みし、そしてタイヤを意図的に横滑りさせる。

 いわゆるドリフトをかけた。

 そして急激に曲がりながらも加速。

 グラップルを前に構えながら赤坂プレスセンターの門に突っ込む。

柵状の門が吹き飛び、数十トンの車両が飛び込む。


 車両は回転しながら減速、そして停止した。

 車のドアが開き、眼鏡を片手で押さえた少年が悠然と降りてきた。

 その場にいた三人の兵士たちは呆気に取られていた。

 いや恐れていた。

 その少年からは、なぜか異常なまでの圧力が感じられた。

 兵士たちは猛獣を前にした子鹿のように内からわき上がる恐怖を味わっていた。


「お前ら何してる! 撃て! 撃つんだ!」


 兵士の一人が叫んだ。

 その瞬間、兵士たちは己のなすことを思い出した。

 小銃で少年を蜂の巣にすればいいだけなのだ。


 それはまるで獣のような動きだった。

 少年がカモシカのように駆けてくる。

 大丈夫だ。

 鹿狩りなら馴れている。

 獣なら勝てるはずだ。

 自分にそう言い聞かせて兵士は引き金を引いた。

 その刹那、殺気に呼応するかのように少年の姿が消えた。

 次の瞬間、下から何かで突き上げられる。

 それがヒザだと気づく前に兵士の意識はどこかに消え去った。

 獣のような素早い動き。

 それこそ伊集院明人の最大の武器だった。


「クソ! この野郎!」


 兵士の一人が銃剣をつけた小銃を突き出す。

 明人は兵士の背中側に半歩踏み込み脇腹目がけて当て身、いやえぐるようなボディブロウを叩き込む。

 肉がひしゃげ兵士の体の中から湿った音がする。

 声にならない悲鳴を上げた兵士の小銃、それに片方の手を掴み、そのまま体を転換する。

 兵士の手をひっくり返しバランスを崩しながら捻る。

 それはいわゆる小手返しだった。

 竜巻のごとき勢いに巻き込まれた兵士が宙を飛び地面に落下した。


「ニンジャかてめえは!」


 最後の兵士が引き金を引こうとすると喉元に銃剣が突きつけられた。

 逆らえば殺される。

 いや死よりも恐ろしい目に遭わされる。

 そう覚ったとき兵士の心は折れた。

 明人は一瞬で小銃を持ち替え、銃床で殴りつけた。

 兵士は一瞬で行われたその作業を知覚することなく崩れ落ちた。

 指をボキボキと鳴らしながら明人は悠然と歩いて行った。


 ふいに死角から兵士が現れた。

 殺気を完全に消してこのチャンスを待っていたのだ。

 その時だった。

 エンジンの音が聞こえてきた。

 それはV型ツインエンジンの奏でるビート。


 そして兵士の腕に矢が刺さった。

 悲鳴。

 そして兵士が視界から消えた。

 その代わり目の前に現れたのはサイドカーをつけた大型バイク。

 兵士は吹き飛んでいた。

 呼吸はしている。

 どうやら死んではいないようだった。

 明人はにやりと笑った。

 強力な援軍が来たのだ。



 明人の露払いの少し前。


「ちょっと山田さん! あなたスクーターすら運転できないの! もう! よくそれで公安にいられましたわね!」


「えー。だって訓練受けてないし」


「あー。私運転できるよ。スラムにいたときによく盗んでたし」


「「ジェーンはダメ!」」


「ぶー」


 二人にたしなめられジェーンが拗ねる。

 すると遠くからサイドカーをつけたバイクが走ってきた。


「よう」


 それはサラマンダー藤巻と飯塚の破壊魔コンビ。


「乗れ。行くぞ!」


「また……陸王ですの?」


 田中が冷や汗を浮かべる。

 よほど怖かったのだ。


「ほんの数キロだ。我慢しろ」


「いやあああああああああッ!」


「なんだ田中? 過剰反応だぞ」


「そうだよー。藤巻なら大丈夫だよー」


 褒められた藤巻は照れていた。

 ジェーンの発言は適当なことを言っただけだと知らずに。

 定員オーバーであることを理解しながらも田中を無理矢理サイドカーに放り込み、山田とジェーンも乗り込む。(飯塚は藤巻の後ろへ移った)

 そして藤巻が一言。


「飛ばすぜ!」


「っちょ! 藤巻! 何を! きゃあああああああッ!」


 田中が悲鳴を上げる。

 次に山田が。

 ジェーンだけは「キャハハ!」と喜んでいた。

 まだ彼らは赤坂プレスセンターに待ち受ける人物が誰なのか知らない。

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