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レクイエム

 ――夢を見た。それは、『僕』が『俺』になる前の遠い記憶。


 砂と鉄の臭いがした。

 灼熱の太陽に、乾燥した大地。遠くからは、銃の乾いた音と、仲間のうめき声が聞こえてくる。

 ここは、友軍のキャンプ。この点テントには怪我人が集められている。

 死にゆく者、苦しむ者、心が壊れてしまった者。そんな人が沢山、沢山いる。

「たっく、この世の地獄だな。なぁ、兄弟」

 にーさんがそういった。その概念が理解出来ないが、忌々しげに呟くおにーさんを見ていると、あまり良い意味では無いらしい。

「まあ、良かったな、兄弟。一週間もあれば完治するってよ。まぁ、直ったら直ったで、またクソッタレな戦場に立たないといけないがな」

 クソッタレ、それがにーさんの口癖だった。

 不思議な人だった。僕が『殲滅部隊レクイエム』に所属すると知りながら助けてくれた人。

 みんな、気味悪がって近づかないというのに、この人だけは違い、僕を兄弟と呼んでくれた。

「なあ、兄弟、戦争終わったら何をしたい?」

 こうして笑顔で話しかけてくれる。だから、期待に応えようと必死で言葉を探す。

「……宇宙飛行士に、なりたい」

 乾燥した喉に、砂が絡みついて喋りにくいが、僕はそう答える。

「おお、そうか!良い夢じゃねぇか!最後のフロンティア宇宙、やっぱ少年は宇宙を目指さないとな!」

 褒められて、胸が少し温かくなる。そのせいだろうか?いつもより少し饒舌になる。

「……うん、良い夢、だと思う。だって、僕はその為に生まれてきたのだから」

 そう、僕達、レクイエムは元々、宇宙を開発する為に生まれた道具だ。

 宇宙空間でも、耐えきれる心と、船外活動をする為のロボット――マネキンを使うのに調整されたのが自分達だ。

 様々な事情により、戦場に立たされているが、道具は本来見合った場で使われるほうが効果を発揮できる。

 そのことを胸張って伝えるが、にーさんは悲しそうに僕を見る。

「そうじゃ、ねぇんだ。そうじゃねぇんだよ!クソッタレ」

 何故か、怒られた。頭を傾げると、にーさんが僕の頭を撫でる。

「俺は、よ。このクソッタレな戦争が終わったらよ。この戦争を仕組んだ豚どもの尻を蹴っ飛ばしたいと思ってる。その為には、まず、力だ。個人の力じゃねぇ。もっと別種の……そう、権力のような力だ」

 おにーさんが笑う。その笑顔はとても格好良くて、輝いていて、だから……

「だから、てめぇは探せ、このクソッタレな世界でも笑って過ごせるようなビックな夢を。俺は、その夢がかなえられるよう、世界を変えてみせる」

 だから、僕もそうなりたい、と心の底から思ったのだ。


 そして、俺は目を覚ます。

 そこは、砂漠の戦場ではなく、緑の月が照らす荒れた大地。

 大地を包むのは暗闇。雲の隙間から降り注ぐ月光が、幾つものエメラルドの柱を作っている。

 『地獄の門』。人間達はそう呼ぶ、この地は、先日魔族達が通過したポイントだ。

 時計を見ると12時過ぎ。アルソンと話していたのが8時頃だから4時間は寝ていたこととなる。

「たっく、懐かしい夢だな」

 こんな夢を見たのは、久しぶりに銃を握ったからだろうか?

 『こいつら』と久しぶりに同化したからだろうか。

 四体ののっぺりとした人型のロボット、俺がマネキンと呼んでいるそれがカクカク、と動いている。

 『殲滅部隊レクイエム』の兵士達は、このロボットと意識を同化させ、手足のように操る技能をたたき込まれている。

 元々、レクイエムは宇宙開発を行う為に生み出された生体パーツだった。

 大戦前の地球は、全国の孤児から、宇宙に憧れる子供を集め改造をおこなった。通常の人間より正しい判断が出来るように感情を削ぎ落とされ、船外活動を効率的に行う為に、ロボットと意識を同調する能力を植え付けられた。

 残された感情は『憧れ』。宇宙を目指そうとする思いだけ。ゆえに、子供達の労力はすべてその憧れに注がれる。そうして育った異形児達が、自分達レクイエムだ。

 レクイエムは地球に戻って来ることを前提にしていない。レクイエムとは、生まれ捨てられていく彼に向けた鎮霊歌、という意味合いだ。

 だが、第三次世界大戦が始まり、劣勢だった母国は、ついに俺達レクイエムをも戦場に投入された。

 感情無く無慈悲に敵を殺していくその姿は、いつの日か、『レクイエム』の名を死を呼ぶ部隊としての意味合いを強めていった。

 そんな中、俺は『おにーさん』と出会い『憧れ』の対象を『宇宙』から彼個人に絞られた。

 その憧れは、口調となり、彼の進む道にも大きな影響を与えた。

 『おにーさん』と共にし、様々な感情が芽生えたが、未だ、解らない感情がある。それは『情』。人が人を思いやる心だ。

 と、頭の隅でアラームが鳴る。どうやら、人形の一つが敵を発見したらしい。

 意識を向けると、視界はここでない何処かに飛ぶ。それは、マネキンの一体が捕らえた映像だ。

 地響きがする。馬の蹄の音、首にライトを下げさせ、前を照らしている。

 赤い軍服を身に包み、頭には飾り付けられた帽子。腰には銃が下げられた銃はマスケット銃。18世紀、ヨーロッパで活躍した竜騎兵ドラクーンのようだ。

 しかし、当時の竜騎兵と違うのは持つ銃が吹き出すのは鉛玉では無いということだ。地球からの技術が埋め込まれたその銃は、この世界では間違い無くオーバーテクノロジーだ。

 その中で、一際目立つ兵が居る。明らかに勲章の数やら服の豪華さが違う。彼が隊長なのだろう。

 数を数えるが、率いる兵も600かそこらしかいない。確かに、今の魔族ならこれだけの兵力でも十分に殲滅出来るだろう。

 チャンスだ、と思うと同時に、人形達が作戦通り動き出す。

 自分は、相棒たる銃を構える。それはスナイパーライフルだ。

 ふう、と息を吐く、呼吸を整え、そして、銃を構える。

 本来、スナイパーをサポートする観測手は居ない。しかし、贅沢は言っていられない。

「さあ、豚狩りのスタートだ」

 視界に映る十字の中心を隊長に標準を合わせる。

 風、距離、気温も問題無い。後は、トリガーを引くだけ。

『うッ……』

 ぱす、という木の抜けた音と共に、指揮官が馬から転がり落ちる。

『隊長!どうしましっ』

 そのタイミングに合わせて、マネキン達が騎士達に襲いかかる。

『な、なんだ!こい…・・』

 何かを言う前に、マネキンの腕から伸びたブレードが、騎士の命を首ごと刈り取る。

 え?と、一瞬沈黙、しかしその間に、計6隊の人形が、20もの遺体を作り上げる。

『う、うわあああああああああああああ!』

『な、何が起きている!早く隊長を助けろ!』

『む、無理です。ひっ、くる、げふっ』

『う、あああ、やだ、死に、死にたく無い』

『やめろ!撃つな!味方に当たる!』

『地獄だ!やっぱ、ここから先は入っちゃいけない領域なんだ!』

『悪魔、悪魔が来る!』

 怪我人の助けを求める声、怯える兵士。統率の取れた兵士達は、一斉に足並みを乱し始める。

 正直、このマネキン達で数百という兵を相手が出来る訳では無い。

 しかし、指揮官不在という状況、彼らの中にあるこの『地獄の門』という迷信。そして、見たこともない異形を目の前に、パニックに陥り、自滅していく。 

『くそ、皆のもの!落ち着け!落ち着くんだ!』

 副官らしき兵が、何とか纏め上げようとする。ここで、纏められると困る。

 なので、狙撃。結果、纏める者が居なくなり烏合の衆と化す。

「さーて、マネキンども、一匹も逃すなよ」

 逃せば、こちらの情報が漏れてしまう。そうなれば、後々不利になるのは目に見えている。

 次々と、命が奪われていく光景にふと、アルソンがいなくてよかった、と思い、首を振る。今は目の前の敵に意識を向ける。

 戦おうとする者、逃げようとする者も、許しを請う者達も、平等にマネキン達がが命を摘み取っていく。

 そうしている間に、後続の部隊が到着し、更に乱戦となり……

そして、気がついたら、朝日が昇っていた。

「くそ、またかよ」

 継続して朝まで戦っていた訳ではない。最初は敵を逃がさずに戦えた為、こちらの情報を持ち帰られずに済んだが、何度も戦っている内に、敵を逃すことも増え始めた。

 こちらのことはもうばれているだろう。となると、そろそろ対策を練ってくるに違いない。

 マネキン達もすでにボロボロだ。夜であれば、闇に隠れて奇襲することが出来たが、最早、この明るさでは不可能だ。

(そろそろ……潮時か)

 マネキン達に撤退命令。自分も、移動しようとした直後に乾いた音がした。

「マジ、かよっ!」

 同時に、腹部に走る言葉にならないほどの激痛。過去何度か味わっているから解る、撃たれたのだ。

 視線を音のほうに向けると、茂みの中から、3人の兵士が立っていた。

 どうやら、場所がばれていたらしい。恐らく、アルフレッドによって育てられた兵のようだ。

 銃のトリガーを引くだけの兵と違って、銃を構える姿が様になっている。

「ちっ、迂回して、ここまで、来たか。あー、くそ、勘が鈍ったな」

 兵士達は答えない。まぁ、自分はここまでだ、というのは理解した。なら、せめて一人でも道連れにしよう。

 そう思って、腰のハンドガンに手を伸ばそうとして

「エイタローーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 上空から、彼女の声がした。肩を掴む手。

 それと同時に、浮遊感が体を包む。視界に写るのが鼠色の大地から一気に青空に引き上げられる。

(何が?)

 どうやら、空を飛んでいるらしい。青一色の風景。眼下の風景がものすごい勢いで切り替わっていく。

「エイタロウ! 大丈夫? お腹から血が、待ってて、早く仲間達の処に連れていくから!」

 上を見上げると、下を見るアルソンと目が合う。

「そう、か。てめぇが助けてくれたん、だな」

 肩に掴んだ手と思ったそれは、彼女の足だった。

 餌を捕まえる鷹のように前足で、自分を掴み上空に引き上げたと……

「み、んなは?」

「仲間達には、先に行ってもらっている」

「そう、か」

「あ、エイタロウ。駄目だ、死んだら駄目!」

 助かったのか、とそう思うと同時に、意識が遠のき始める。

 ふと、思う。何故、自分がここまで必死に戦ったのだろうか?

 上から彼女の涙が降ってくる。それだけで胸が温かくなる。

 『情』というのが存在しないはずの自分。そういった感情とは無縁であるはずなのに

 ひょっとしたら、自分は変わったのかもしれない。

 そんなことを感じながら、俺はゆっくりと瞳を閉じた。



……すごく、中2病です。

お腹痛いです

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