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方角屋奇譚  作者: mahu-
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アイリー可愛い、というコメントがいただけると作者喜びます。

 






 アイリーが落ちてくる。


 そう悟ったアキトの動きに迷いは無かった。

落下地点まで瞬時に移動し、目印に使った木の棒を持ってその場で即座に円を描く。

 中心に【風】を意味する魔術文字を刻み、愛剣を突き刺して魔力を流す。電流を起こすのだってこの剣を媒介にして発動しているのだ。つまりは魔方陣に魔力を供給するバイパスとして用いることも可能。

加減を調整し、陣から吹き出す風で彼女が落下してくる勢いを大幅に減らしていった。


 程よいところで剣を抜き、アイリーをお姫様抱っこで受け止め足を揃えて立たせてやる。



「無事だったのは嬉しいんだが、どうしてあんな高いところから飛び降りたんだ?理由によってはお前を叱るかもしれん」


 怒りを滲ませながら言うと、アイリーは腰にぶら下げた小さな紙束に文字を記して見せた。


『めじるし たどった あきと おいかけた

 おどろく したかった だから とんだ』


「ふむ、目印を追いかけておれを見つけたと。

そんでおれが水を飲んでる最中にこの岩を登って跳んだ。そういうことでいいんだな?」


『せいかい』

尻尾を振って目を輝かせる。

 魔物に追われてしょうがなく跳んだという線は消えた。楽しんでるとこ悪いが、心配させることをしたのだから叱らなければいけない。

 それが保護者としての責任であり義務だから。心を鬼にしておれは彼女の頭を軽く叩いた。


「あうっ」・・・『いたい !』

 さっきまで振っていた尻尾がしょんぼり垂れ下がり、アイリーは弱々しく紙を掲げていた。



「こら!あんな高いところから跳んで万が一怪我をしたらどうする!

気づくのが遅れて、おれがアイリーを受け止められなかったら?危ないからもうしちゃダメだ、いいな?」


 最初は大声で怒鳴り、最後に優しさを含んだ小さな声で告げる。

子供に言って聞かせる時は、ただ叱るだけではダメなんだ。なぜ怒られたのか、どうして怒っているのか、何が悪かったのかを悟らせる必要がある。と、父が言っていたのをそのまま実践してみた。親とはかくも偉大だってことだな。


 アキトは尻尾と共に垂れた耳を撫で、獣人の少女のか細い体を抱いた。


「お前を一人にしておれがどんだけ辛い思いをしたか。・・あまり心配させるんじゃない」


「うぅ・・」 



 しばらくの間抱き合い、彼女の背中に回していた手を降ろす。

そうしたらまた彼女はペンをいそいそと動かし、謝罪の文句を書いた。


『しんぱい かけた ごめんなさい』





---





 アイリーと合流して、転移した後どうしていたのか話を聞いた。

飛ばされた場所はおれがいた草原から少し離れた、岩だらけの川原だったそうだ。その時毛玉4匹と一緒に行動していたらしい。

水は近くの川から得られたし、食料はおれも食べた果実で食い繋いでいたのだとか。日が暮れるまでおれの臭いを探り、草原に到着してすぐ疲れて眠った。

 起きたら毛玉達の姿は無く、仕方ないから変なにおいのする木の棒を追いかけたと。ここまでの経緯は断片的だが大体理解できた。文字も意味が分かるレベルで扱えてきたな、その調子だ。



「それでこっちはというと、どうしてだかよく分からん動物に好かれちまってな。

シルト、ちょっとここまで来い」


「ガウ」


 おれ達の様子を見守っていたそいつはこちらに近づき、アイリーを警戒してかおれの背中に隠れる。

隠れてない、大きすぎて隠れ切れてなーい。


「人見知りか!・・・ったく。この子はおれが探していた子だ。

アイリー、この青いのがシルトだ。どれだけ一緒に居るかは分からんが仲良くするんだぞ」



「・・・」


「ヴー・・・ガウ!」


「・・・・」


「・・・クゥン」



 メンタルよわっ!

魔物相手なら余裕なのに、女の子に見つめられただけでしょげるんじゃねぇ!

・・これならアイリーに襲いかかるなんてこともあるまい、まぁ良しとしよう。


「シルト、お前はこれからどうしたい?無理についてこなくてもいいんだ。

水のある場所まで連れて来てくれたし、アイリーとも再会できた。世話になるのはもう十分だ」


「クゥーン。・・・クゥーン」


 アキトの周りを歩き、身体をこすり付けてくる。前にもされたが、もしかして・・・。


「一緒に居たいのか?これからも、ずっと?」


「ガウガウ!」


「・・連れて帰るのはちょっとマズい。街に戻ったら面倒事に巻き込まれるのが目に見えてる。

もっと小さければ、どうにかなるかもしれんが」


 遠まわしに拒絶しても、シルトに諦めた様子は無かった。少し前から低いうなり声を上げ続けている。

 それに、もっと早くおれは気づかなくてはいけなかったかもしれない。高い知能を持った生物は大抵魔法が使えるってことを。


「ガウ!!」


 大きく一吠えすると同時に、シルトの身体がみるみる縮んでいくのだ。

最終的な大きさは中型犬くらい。鳴き声はワゥ、と可愛らしく見る人は守ってあげたくなる愛らしさ。

 これならばペットと言い訳できる。方角屋のマスコットとして宣伝するのもアリか。

チラシにワンコの絵を書いて目に止まる工夫も・・・悪くない。



「このサイズなら大丈夫だ。街にいる間はずっとその姿でいること。それさえ守ればついてきてもいいぞ」


「クゥーーーン!」



ドッシン!!



ぐはっ、重い!急に元に戻るな、ちょっとは自分の体重ぐらい考えろ。

死ぬ~、誰かお助けー!


「ぐるじ~」


「・・・!・・ふっ」


気配からして、アイリーがシルトの脇を手で突いたようだ。

こんな小さい子の突きなんかでどうにかなるもん・・・ん?



「キャウンッ!・・クァ・・クァァ・・・」



 おれから退いて脇を痛がり出したぞ。え?アイリーの突きってそんな痛いの?弱点なの?

 拾ってから一度も戦わせず手伝いばかりさせてきたし、実力が分かってないとはいえ。崖から落っこちてもヘッチャラだった、とか。・・まさかな。

女の子を戦わせるのは人としてどうかと思うので、試すようなことは絶対やらん。

 獣人の教育方針は違うのだろうか。我が子を千尋の谷に突き落すみたいな、あぁいうのなのかも。


違っていたとしても、程よく甘やかすのがうちの育て方なんでね。






 

「よぉ、アキトいるかー」


シーン・・。


「いねぇのか、いつも受付をしてるアイリーの姿も見えねぇな。

臨時休業の張り紙も無いとは、あいつに会ったら店の対応が悪いと一言文句を言ってやらんと。

・・不用心だし、扉を"固定化"の魔法で閉めといてやるか」


親切なクマ野郎がアキトに無茶な依頼をする日は、もうまもなく。



アイリーともっと仲良くなる&シルトの今後を説明する回でした。

次は9月に書けそうです。それ以降の更新は、忙しくてかなり空きます。



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