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方角屋奇譚  作者: mahu-
8/9

毛玉からの依頼編2

7話を短く書いた反動か、一番長い文章量に。

どれくらいで区切れば良いのか分からなくなってきました><

毛玉からの依頼編、続きます!








「単刀直入にお聞きします。今日はどういったご用件で?」


方角屋の店内は受付のカウンターと横に掲示板、中央にテーブルと椅子がいくつか置かれている。掲示板側に通路が真っ直ぐ続いていて、奥に執務室がある。カウンター裏が居住スペースという作りだ。


執務室に入れば無骨な黒塗りの机が最初に目がいき、真後ろの壁にはいろんな色の依頼書が貼られた壁掛けの木板。

部屋の右奥でついたてに遮られた対談場所を設けていた。

俺が入社する予定だった会社の内装を真似てみたんだが、使い勝手は良い方だと思う。



 そこで、おれはさっき作ったベーコンサンドと冷茶を彼らに配って執務室で待たせ、急ぎの依頼(子供の送迎)を済ませて今に至る。


「こまった」

「おかわり?」

「しちゃう?」

「よくぼうのまま?」


 ソファーに座らず机の上で連なる4つの毛玉。

お茶をどうやって飲むのかと出してから思ったが、コップにすっぽり収まり一飲み。

・・ただの毛玉じゃないよなぁ、分かってたけどよ。


話の流れを修正修正。


「えっと、最初に訪ねてきた方からお願いします。あれは材料さえあればまた作れるので」


近くで盆を持ったまま、待機しているアイリーの尻尾が忙しなく動いてるのが見えた。今は仕事中だ、また後でな。


「わかった」

「ならばー」

「いくぞー」

「おー」


謎の掛け声を発した毛玉達が震え始める。イヤな予感が、非常にイヤな予感がするぞ・・・。


・・・おや!? 毛玉達のようすが・・・!

残念ながら、キャンセルは出来ません。


毛玉から迸る光が部屋の中を満たしていった。








・・・はっ!

ここはどこだ?


 何故かおれは草原で立っていた。春の日差しが注ぐ涼しい気候は、メイハとは明らかに違う場所だと教えてくれた。あの街は今夏真っ盛りでこんなに気温が低くない。

人は急な展開に巻き込まれると、慌てふためくか冷静に考えてみるかで分かれるという。タキガワアキトは経験的に後者の方だった。


 周囲は木々が鬱蒼と茂り、遠くを見渡そうにも視界を遮られて町らしき影や煙も見えない。ブンキを探そうにも辺りのモンスターがどれほど強いのかも分からないので安易に森の奥へ進まない方がいいだろう。

装備は日頃身に着けているため戦えはするが、左目が使い物にならない今戦闘は避けていきたい。


「まず第一にすべきことは、食料と安全の確保か。あいつらは無事かなぁ」


 毛玉はおそらく大丈夫だ。ただ心配なのはアイリーという一人の少女。まだ幼い女の子を一人にさせてしまったことに罪悪感が募る。急いで合流しないとヤバいな。だが、焦っても解決しないのは明白。


 近くの木から拝借した枝を削って数十本の棒を作る。

次に、これらの先端をライターくらいの火の魔法を使って黒く焦がしておく。森に入る地点から適度に地面に刺しておけば、アイリーが追いかけてきた場合、においを追って来るだろう。・・・完全に動物扱いだけど、まぁいいか。


 気配を消して木陰を選びつつ進んでいくと、冒険者が初めて戦うモンスターであるゴブリンから、集団で襲いかかってくる厄介なサベージウルフ、年を経た古い大木を守護する岩巨人などピンからキリまでいた。

おそらくこの場所は人、もしくはそれに近い生物が手を加えていない、ある意味聖域に似た場所なのかもしれない。木には見たこともない果実が実り、それを木の上で小動物が奪い合う姿があった。

試しに果実を取ってみる。酸味があってほのかに甘い。意外と美味かったので鞄に2,3個放り込んでおこう。


 人が通るための道などあるはずもなく、腐葉土が積もった地面に足を取られないよう気を付けながら周りを見渡す。さっき食べた果実で飢えと渇きは多少満たしたものの、飲み水は必須だ。木が生えているということはつまり、湧水が生じることで近くに川がある可能性が高い。

草陰に身を隠して耳を地面につけ、蛇龍がいた砂漠で使った”拾音”の魔法で水の音を探る。



・・・左方から水の流れる音がする。

 水源の在り処が分かってか、落ち着いたおれはふと今の状況を考えてみる。

毛玉の発光の後ここに飛ばされて、依頼内容も分からないまま。手詰まりな上に帰ろうにもブンキまでどのくらい距離があるのかさっぱりだ。


「あぁ、どうしておれは森の中でサバイバルなんぞをしているんだろ」


全身から力を抜き、地面に寝転がった。


「早くブンキを見つけねぇと・・。それからアイリーと毛玉・・・」


 木々の葉がさざめき、夕焼けが1日の終わりを告げる緩やかな時間の中で、瞼がゆっくりと落ちていく。

アキトが元の世界でどんな経験を積んでいたとしても、見知らぬ地に飛ばされるのはかなりの負担だ。ザイロトルに来た初日でさえ、泥のように眠ってしまったのだから。

精神的に参っていたのか、おれはその場で力尽きるように眠ってしまった。

無事でいてくれよ、アイリー・・・。



---


 寂シイ、トテモ寂シイ。

ボクト同ジ種族、ドコヘイッタカ分カラナイ。

オ母サン、オ父サン。イッタイドコヘ行ッテシマッタノ?

巣穴ニ居ナイ。帰ッテ来ナイ。探シテモ、探シテモ、空デボクダケ一人ボッチ。


―――あ?

うるせぇな。寂しいならおれのところにでも来い。煩わしくて敵わん。


アナタハ誰?ボクト同ジナノ?


 同じかなんて知るか。寂しさを埋める誰かが欲しいのか、欲しくないのかと言ってるんだ。

おれには、まだしなくちゃいけないことがある。その途中で片手間に相手くらいしてやるよ。


同ジ・・・ジャナクテモイイ。

トモダチ!一緒ニ居タイ!・・・アキト!


何でおれの名前を?はぁ、どうせくだらない夢なんだろ、きっと。



---




「ガウ」


 あー、犬か。

驚かせるなよ。ほれ、よしよし。手の届く範囲で撫でまわす。


「クゥン・・・」


 真っ暗で何も見えんぞ。それに身動きも取れない・・・まだ夢を見ているのか。

だけどなんだろう、この感触。ふわふわで暖かい。・・・暖かい?


「ガウ」


もっと撫でて、とこちらに身体を擦り付けてくる何か。

居心地が良過ぎてもう一眠りできてしまいそうだ。


ペロペロ。


「冷てぇ!って・・・なんだこいつ」


 顔がそいつにのしかかられて視界を遮られていたらしい。でかい前足の一本を両手でつかんで脇へどかし、ソロリと這い出た。

太陽は昇りかけており、結構長い間眠り込んでいたんだと思う。


 目の前に、毛並みが所々蒼白く染まっている犬っぽい獣が伏せながら、黄色の瞳でじっとこちらを見ていた。手を伸ばすと毛先以外は真っ白で滑らかな触り心地。立ち上がったら2,3メートルはありそうな大きさ。

どこから現れて、いつからおれの上を占拠していたのか。気づかないおれも大概だな。


「おいお前、おれの言葉が分かるか?」


「ガウ」


「お手!」


「ガウ!」


 前足をおれの頭めがけて振り下ろす。両手で前足をキャッチしたら、まるで垂直波動拳が撃てそうなポーズをとってしまった。ちょっと恥ずかしい。


「3回回ってワン!」


「(グルグル・・・)ガゥン!」


 もうこいつ只のワンコや。

まぁ意思疎通が取れるのは確認できたし、それにかなりの知能を持っているな。


「よし、言葉が伝わるのは分かった。お前の名前は何だ?」


「クゥン?」


「・・そうだよな。動物に名前を付けるのはおれ達の都合だもんな。

んじゃ適当に、お前の名前は今日から『シルト』だ。そう呼んだらお前のことだから、よろしく」


「ガウガウ♪」


 名づけられて嬉しいのか、名前が気に入ったのか。おれにすり寄って来るシルト。


「朝まで寝ちまったし、目覚ましがてら川を探しにでも行くか」


「ガウ、ガウーン」


 任せておけ、とでも言うように魔法で見つけ出した方角に向かってシルトは駆け出す。

 アキトも急いで追いかけるが、寝ていたところから勾配が厳しくなり、走るのは危険になったため小走り程度で進む。足跡を辿りながら後を追いかけると、あいつは近隣の魔物を倒しながら途中途中で待ってくれていた。だからおれは足を動かすことだけに集中する。

 そういや師匠と体力作りで山登りした時もこんな風にされてたっけ、と思い返した。それくらい有能だってことだ、あいつは。

 シルトが待つ間隔を少しずつ短くしてくれ、高くそり立つ大きな岩から滲み出る湧水の場所に無事到着したのだった。


「ここの水はメイハのよりおいしいな。よし、シルトに見つけてくれたご褒美をやろう」


 昨日道中で手に入れた果実をシルトの眼前に差し出す。

シルトはくんくんにおいを嗅ぎ、ガブッとおれの手ごと一飲み!

 急いで手を引き抜き、手が・・・手がぁ・・・!


「うわっ、おれの手ごと食うなっての!・・・唾液でベトベトになったじゃないか、てい!」


 ポカポカ!やつ当たり気味にやつの頭を数回軽く叩く。

美味しそうにムシャムシャ頬張っていたシルトがクーンと鳴き、ごめんなさい、とその場に伏せた。


「うむ、反省しているならそれで良い。さぁ、次は本格的にブンキを探す頃合いだ。

お前・・シルトはどうするんだ?おれは仲間も探さなきゃならんし」


「ガウ?」仲間?と聞いてきたっぽい。


「あぁ、仲間だ。といっても、小さな女の子と4つの毛むくじゃらなんだけど」


「ウー・・・ガウガウ!」


 何やら知ってるような顏ぶり。

湧水が流れ落ちる岩肌をなぞりながら上を見つめるシルトにつられて、おれも上を見上げると・・・あれは。



「アイリぃぃぃーーーー!?」




 アキトめがけて、少女は元気よく跳ぼうとしていた。






「跳ぶなよ、絶対跳ぶなよ!」


コクッ


おぉ、分かってくれたか。ふぅ・・・。


タッタッタ  シュバッ


「やっぱり跳んだーーーー!!」






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