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方角屋奇譚  作者: mahu-
7/9

毛玉からの依頼編1

 






 本日は定期的に子供を送り迎えする予定があってイベント盛りだくさんの日だ。


 空も気分もブルー。雲一つない良い天気・・・。暑い日差しが憎たらしい。

開店して以来ずっと暇絶え間無く依頼が来るもんだから、アイリーに店番を任せっぱなしになっている気がする。ちょっと働かせすぎだろうか。たまには美味しいもんを食いに連れてってやんなきゃな。


「アキトありがとー」

「またねー」


「おぅ、寄り道しないで帰れよー」


 これで86人目。メイハにいる子供は意外と多くてちゃんとした数は把握していない。

全員がおれを頼って来るわけではないのだ、今分かってる数がたったの2,3割だったら…考えないでおこう、そうしよう。


 方角屋を訪れる客は増えているものの、それは違う場所からやってきたのが半分、メイハの子供の送迎&捜索が半分。ギルドからの依頼が時々といった感じである。


 ビラまきは休日に散歩がてらやっている。まぁ、正しく言えばアイリーが率先して配るのでただ付き添う程度だから"休日"なのである。

代わってやると言っても頑なにビラを渡そうとしない。ギュッとおれの手を繋ぎつつ、ギルドの掲示板やブンキ近くの標に貼り、道すがらの人に手渡し。


 もっと効率が良い方法はないもんかな。んー、かき氷でも買って一度店に戻ろう。そう考えていた矢先、


「ほう」

「うが、うが」

「くやー」

「さーん」


何処かから子供みたいな幼い声。

しかも複数いるような。


「何だ、用があるなら俺の前に姿を・・って、・・・は?」


見た目は白い毛むくじゃら、頭にはぴょっこりと目立つ一房の毛。

その名は、団子4兄弟!?


「いらーい」

「しにー」

「きた!」

「のだー」



 4つの白玉が分離して跳ねる跳ねる。縦横無尽に迫ってきて、わずか2メートルの距離だ。この光景を純粋無垢な瞳で見れば、わぁ何アレ可愛い!お母さんあれ欲しい!と思っちゃうことだろう。だがおれはふと、冒険者時代にクマ野郎から聞いた言葉を思い出す。


【ザイロトルだとたまにな?体は手に乗るくらいのサイズなのに、障害物をすべて踏み潰して襲いかかってくる生物なんてのがいてなぁ。仲間がペシャンコになったの見て、チビっちまったもんだぜ!ブルルっ、・・・ちょいと用を足してくるわ】


チビっちまったもんだぜ、じゃねーよ!

今まさにおれがチビりそうだよ!


 中でも空中で軌道を変えながら向かってきてるやつ。お前は明らかに他の3つと動きが違いすぎて怖い!


もう最後の手段を使うしかない。

視力強化の上位魔法"視覚咲華(しかくさいか)"。花が咲き、やがて枯れるのが所以となっている。

しばらくすると痛みで目が開けられなくなる代償として、数秒の間対象の動きが止まって見えるというものだ。使う際は片目だけにしておかないと命に関わるリスキーな魔法である。


 人の身体は、どの種族よりも脆い。肉体強化系の魔法は基本的に反動が強く、回数制限があらかじめ定められている。

漫画の名シーン「ハエが止まって見えるぜ」を再現するのがザイロトルだとかなり厳しい。これが現実である。


右目を閉じて魔法を発動し、鞘に収まったままの愛剣に手をかけてまずは、


「勘弁願いますぅぅぅ!」


 謎の軌道をしていた毛玉Aに一閃!

当たるかと思われた直前におれは腕に力を込め、急停止。剣の風圧か、はたまた空中でバックステップしたのか分からんが、その後また団子4兄弟状態に戻っていた。基本その形なのね・・・。


「なぜ?」

「どして?」

「なーして?」

「あいして」


最後のセリフは、うん。気にしない。

まず聞くべきは、


「・・・あの、体重はおいくつでしょうか?」


すると、毛玉達は各々に分かれ抗議を始めた。


「はねのよう」「かるーい」「ちょっとふとったかも」

「れでぃにしつれい」「しつれいだー」「だめだぞー」「でりかしーたりない」


 団子の次は右回りにグルグルとおしくらまんじゅうしながら動き出した。餅繋がりか?


「申し訳ない。あなた達くらいのに潰された話を耳にしたもので。依頼は店で伺いましょう」



 案内するようにゆっくり足を進めると、いつしか彼らは両肩に2つずつ乗っていた。

・・分かっていても怖いっす。




---




我が家の玄関前に着くと、扉が自然に開いた。隙間から覗く小さな少女。

帰ってくるのが分かっていたのか。トテトテと近づき、おれの服をスンスンと嗅いだ後抱きついてきた。


「おぉ帰ったぞ、アイリー。お客様が来たからお茶を用意してくれるか」


そう告げるとアイリーは頷くと思いきや首を傾げて、前もって準備していたと思しき紙を見せてきた。


『おなか すいた たべもの ちょうだい』


グルルル~と腹から元気な悲鳴を一鳴き。


 文字の下に大きな骨付き肉の絵が書いてある。幼児のお絵描きレベルだけど、なんだろうこの気持ち。すっげえ和むわ。

昼が過ぎて小腹が空く時間帯でもあるし、彼女はまだ幼い。育ち盛りなのだ。



 もう面倒なので肩に毛玉、腰にアイリーを巻きつかせた状態のまま奥の台所に向かった。





 

「あー、作るなら手間がかからないベーコンサンドかなー」


『おにく おにく べーこん べーこん』


ファッサ、ファッサ。


「肉が大好きなんだなアイリーは。他には何か好きなものはあるか?近いうちに食べさせてやるぞ」


『あきと の おにく たべたい』


「なんならステーキとか・・・って、おれかよ!?」


わふ。


※魔法(肉体強化)の概念をちょっと書き足し。

いろんな種族が入り混じった世界で、人間は元の世界に魔法が無いせいか、魔法の耐性が少し小さいです。よって体の負担がデカいという。

ドラゴン等の非常に強力な種は身体強化しなくてもポテンシャルが高いので、使わない個体が大半。という豆粒情報。


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