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クリエ・オスオン  作者: 浅上夢
戴冠式編1/3
1/12

プロローグ

 ――それじゃあ、一発ジャスりますか。

 進藤響の放課後は、彼女のそんな決まり文句から始まる。

 樋浦要。

 いつも響の前に立つ勝気な幼馴染。

 踊るような足取りで、歌うような口ぶりで、いつも彼女は宣言する。

 腰の後ろで手を組んでお気に入りの歌詞を口ずさむのは機嫌がいい時の癖だ。

 揺れるポニーテールを眺めながら進藤は小走りで追いすがった。

 上機嫌な彼女は周りが見えない。だから頭一つ分背が高い彼女がどんどん先に進めば、歩幅の関係で響はいつも早歩きか小走りになるのだ。

 我ながら情けない図だと常々思う。

 彼女はふと思い出した様に足を止め振り返ると、若干バツが悪そうに舌を出し笑った。

 ごめんね、なんて恥ずかしそうに笑う彼女に、いいよ、と返した。

「さぁ、今日もがんばるぞー!」

 両腕と背筋を伸ばすと、要はきょろきょろと周りを見渡した。

 あいつらの反応はないようだ。その明るい表情に変化はなく「平和で何より」と要が笑う。

 土曜の昼下がり、半日授業が終わった後の帰路は学生達の笑い声で満たされていた。

 要はこの風景を守りたいのだ。

 科学が栄華を極めたこの現代で、彼女は勇者を目指している。

 他人が聞いたら笑ってしまうような、もしくは首を捻るであろう、そんな目標。

 でも、彼女は本気で、そしてその道はとても危険で険しいものだった。

「ねえ、なんで要は平然とこんなことを続けられるの?」

「ん?」

「だって、危ないよ? 正直命が幾つあったって足りないし」

 だから抱いた疑問に、彼女は困惑したように、

「ボクにはそれが出来る。出来るのに出来ることをしないのは、とても不自然なことだと思うんだ」

 さも当然という風にそう言い切った。

「あいつらを知っている人は少ない。

 あいつらと闘える人は更に少ない。

 そうなってしまったボクはとても不幸、――なんて思わない。

 この力で守れる人がいる、――それこそ幸福だとボクは思う。

 だからボクはジャスるんだ。

 この手はもうただの女の子の手じゃない。

 たくさんの人を救う手になったのだから」

 歌うように、

 誓うように、

 彼女は強く、とても強く言い切った。

 それが彼女の誓いの言の葉。

「響、ボクは白銀を目指すよ。そしていつか九大魔王を越えて見せる」

「カッコいいね、まるで勇者だ」

「だろ?」と彼女は朗らかに笑ったので「でも」と続けた。

「それでも、進路希望用紙に勇者と書くのはいけないと思います」

 ツッコミに、彼女は目を大きく広げて取り乱す。

「いや、え、ちょっ、何で知っているんだ!」

「相棒ですから」

 即答すると彼女はちょっとだけ拗ねたように顔を背け、そして二人して笑い出した。

 高く、高く、どこまでも、どこまでも、その声は澄み切った青空へ吸い込まれるように木霊した。

 それは彼女と過した黄金期の一幕。

 決して色褪せず、そして忘れることの出来ない記憶。


 淡い思い出は疼痛だった。刺を抜くように回想を遮断する。

 瞼を上げる。

 記憶の中の青空は、飲み込まれそうなほどに暗くなっていた。

 深夜の公園のベンチで少し休むつもりが、どうやら眠ってしまったらしい。

「ねえ、約束を覚えている?」

 誰にでもなく自分に向けた言葉だ、だから答えるのも自分自身。

「大丈夫だよ、僕は覚えているし、そして破るつもりもない」

 だからどうか安心して欲しい。

「君は僕が倒して見せる」


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