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二人が出会って

「ヒュー。ヒュー」

大吹雪が吹き荒れる。雪は横殴りになっていて、体に直撃していた。手足の感覚が無くなり、寒さで体の動きがなくなっていた。ナイミーはどこまで行っても、ひたすら雪野原の道を右往左往していた。動揺や寒気や苛立ちがいっきに募り、混乱していた。

「もう!なんでこんなはめになってるのよ!私が何をしたっていうのよ!」

怒りにまかせ、雪を蹴散らした。しかしそこに新たな雪が降り積もり、それが隠れてしまうのだった。

「どうしてこんなことになったのよ」

悲しみに溢れる声で言った。時は三時間前に遡る。

ヘリコプターで連れられて、やって来たのはすごく寒い島だ。雪がごうごうと降り積もり、日差しも全く明るくなさそうだった。いったいどうしてナイミーはこんなところへ連れられたのか。分からない。しかし、いい気は全くしなかった。

「おらぁ。着いたぞ!早く降りろ!」

銃をつきられたまま、ナイミーは降りた。不安な言葉が頭を過る。

(こんな場所で一生過ごすの?)

ナイミーが連れられたのは、地下のようだった。扉には

「植物人間らはみんな敵だ!」

というポスターが貼ってある。見た瞬間、ナイミーの不安は恐怖という感情に変化した。ポスターはいろんな場所に貼ってあった。ナイミーは恐怖で、足が震え、前に進むにも怖がった。こんな場所は来るべきところではない。ついにへたれこんだ。腰が抜けて動かない。銃を突きつけても、反応せず、苛立ちがまた、ナイミーを恐怖に陥れていた。そのせいで、首輪をつけられて、無理矢理動かされた。首がひどく痛んだ。ついに奥までついた。そのとき、首が縄で赤くなったナイミーは、咳き込んだ。さすがに縄を巻かれた状態で動かされたため、咳き込むのも当たり前だ。

「ほらっ。早く歩け!」

男はナイミーに繋がれた縄を、強く引っ張った。

「うっ。ゴホッ。ゴホッ」

むせながらも、ナイミーは何とか歩いた。扉を開くと、中には百人にはなろうかという人たちが、何か計画を立てていたようだった。

「お〜い。植物人間を一人連れてきたぞ」

ナイミーは中央に連れられた。

「さて、いろいろと話してもらおうか」

中央の椅子に座った、若干年をとった男性がタバコを吸いながら、ナイミーを見た。その見下すような視線に、ナイミーは屈辱感を覚えたが、反抗する気力はなかった。南極は寒く、雪のために日差しが入ってこなかった。そのため、植物には不適な土地だった。そこに連れてこられたため、元気が出なかったのだ。

「さて。じゃあ、初めの質問だ。君の名前は?」

「………」

ナイミーは唯一の反抗で、絶対に口を開かなかった。首に巻かれた縄で絞めようと、殴られようと蹴られようと一切口を開かなかった。そして、ついにあの、真ん中の男が動いた。

「お嬢ちゃん。いい加減に喋りなさい」

そう言って、何を思いついたのか、タバコを口から離した。

「喋る気はないか。じゃあしかたない」

ナイミーの腹に、足がめり込んだ。

「あああっ」

ナイミーはもがき苦しんだ。腹に加わった苦痛は、屈辱以外の何の感情も生まれなかった。腹にもがきながらも、キッと男を睨んだ。

「おい!睨んでねぇで答えたらどうなんだ?おいおい!」

さらに強く蹴飛ばす。ナイミーは何とか残った力を残して言った。

「ナイミー・エナジー。私の名は、ナイミーよ」

ついに名前を言ってしまった。しかし、今口を開かずにいれば、どうなっていたか。男はようやく蹴るのを止めた。

「ふぅ。やっと喋ったか。たかだか草のくせに」

侮辱の言葉はなおも続いたが、激痛を和らげるのに精一杯だった。

「さて、では次の話をしてもらう」

再び男は元々いた場所に戻って言った。

「君たちが暮らす、アース・ケア共和国の主導者は誰だ?」

「主導者?大統領のこと?」

「その人が主導者であるなら、その名を言いなさい」

「…………スェントリム・レファシルク」

「スェントリムか。なるほど。それで、そいつのいる都市名は?」

「そんなこと、知らないわ!」

「そうか」

そういうと、

「そいつを始末しろ」

こちらを見ずに言った。数名、ナイミーをどこかに運んだ。

運び込まれたのは、外。しかし、目の前は海だ。そう。彼らはナイミーをここに突き落とす気だ。

「いやっ。やめて。こんな中に入れられたら。私、死んじゃうよぉ」

ナイミーの必死の叫びも通じず、男たちは強烈に冷たい海にナイミーを突き落とした。

「ザッパーーーン」

皮膚に水面が直撃した。もちろん、痛い。しかし、間違いなく氷点下の海に放り投げられたのだ。心臓の心拍数が増え、血圧が以上に上がった。一瞬意識が朦朧としたが、次の瞬間。

「ズゥゥゥゥアバァァァァァァァァン」

水が吹き上がった。ナイミーがどうなるか、確かめるためにいた男たちも、突然の噴射に驚いていた。

「そうだわ。私たちは植物。水さえあれば、元気になり、驚異なる力を産み出す」

ナイミーは全身が光り輝いた。パワーアップだ。ナイミーは立ち上がった。

「な、なんだ?あいつ」

「分からねぇ。でも、目から怒りが溢れてるっつうか」

ナイミーはひたすら、男を睨み続けた。そうして、

「もう。ゆるさない!」ナイミーは両手を開け、力を溜め始めた。徐々にエネルギーが集まり、球体になり始めた。

「ブオン。ブオン」

エネルギーの球が二つ完成した。

「な、なんだ?」

「あなたたち、もうゆるさないから!」

エネルギー球を放り投げた。それは真っ直ぐ男たちに向かっていった。

「ズギャァァァァアン」

エネルギー球は爆発し、男たちは吹っ飛んだ。今がチャンスだと思ったナイミーは、一目散に逃げ出した。

それからというもの、ずっと歩いていたが、人一人として見当たらなかった。植物とて、向き不向きがある。現に南極には、あまり植物は見かけない。ナイミーは元々南極で自生することは出来ない植物だった。そのため、力や体力がどんどん消えていった。もはや、風前の灯。力尽きるのは、時間の問題だった。

「ハァッ。ハァッ。し、視界が、歪んできた」

一面雪で白いが、視界が歪むのは分かった。わずか数時間前までは、ハワイで楽しく遊んでいたのに、何の因果でこんな目に会うのだろうか。時間は刻一刻と経っていった。後ろを見ると、足がぐらぐらとふらついていたのが分かった。見事に蛇行していて、千鳥足に似ていた。

「あ、あれ。もしかして、明かり?」

一面白の中にポツンと、オレンジ色の明かりが見えた。それはナイミーにとって、神のご加護以外の何でもなかった。その明かりは、家だった。鎌倉のように、雪を積もらせ、それをくりぬいて作ってあるようだ。

「よかった。い…えが、あっ…た…」

家があるのを確認すると、ナイミーは視界が暗くなるのを感じた。

ツトムの母が帰ってきてから、ツトムはずっと看病を続けた。あまりにも続いていたので、多少疲れはあったが、母が元気になればと、一生懸命に勤めた。

「ゴトッ」

家の場所で何かが倒れる音がした。何が倒れたのか、確かめにツトムが向かうと、

「お、女の子?」

目の前に倒れていたのは、恐らくツトムと同じ年頃であろう女の子だった。

「た、倒れてるわけだし、家の中に入れてあげるか」

ツトムは彼女を背負い、家の中に帰っていった。

「ん?あれ、ここはどこだろう?」

起きてみると、家の中にいた。どうやらあの鎌倉式の家のようだった。しばらく辺りを見渡すと、一人の少年が現れた。

「やぁ!目は覚めたかい?」

少年はなにやら、温かいお湯を持ってきていた。

「はい。これでも飲んだら、温かくなるよ」

どうやら、この少年は動物人間のようだった。また、彼はナイミーが植物人間だということを分かっていた。

「どうして私が植物人間だって分かるの?」

ナイミーは尋ねた。

「だって、僕が家に入れようとしたときに、手を触ったら、すごく冷えてたんだ。動物人間なら命の危機だったんだけど、君は大丈夫そうだったから」

動物人間に比べ、植物人間は体温が低い。これはなぜかは分からないが、ずっとそうだったのだ。しかしもう一つ気になることがナイミーにはあった。

「どうして私を助けてくれたの?」

「は?困ってる人を見過ごすことなんか、出来るわけないじゃないか」

「嘘よ!私、見たもん!『植物人間はみんな敵だ!』っていうポスターが書いてあったのを!ここにいる人たちはみんな私のことを、敵だって思ってるんでしょ!?」

今日受けた、様々な屈辱が蘇った。どうせ、この人も敵だと思われているに違いない、とナイミーは思った。しかし、ツトムは全くそのような仕草は見せなかった。

「そんなわけ、あるはずないよ。僕たちは動物と植物だから、全く違う。でも、生きているんだ。生き物であることに変わりはないんだ!」

ツトムは、ナイミーの手を握りしめた。しかし、ナイミーはそれを凪ぎ払う。

「嘘つき!私、こんなとこにいたくない!いや!あんたなんか嫌い!あんたも、あんたたちと同じ動物たちも!同情なんかしないで!口だけなら、なんとでも言えるわ!」

軽いパニックに陥っていた。今までの屈辱がナイミーに襲いかかってきたのだ。不安で心が満たされ、元々の自分はとうに失われていた。

「同情でも、口だけでもないよ。僕は本気で思ってる。中には倒そうと考えている人もいる。でもね、そんなことを考えるのは、一部の人だけだよ。本来はそんなことは考えたりしていないよ。ま、ちょっと今の世界からは抜け出したいとは思うけど」

ツトムはナイミーの体を包み込むように腕を回した。ツトムの温かな体温が感じ取れた。


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