6.激震
魔王が死した魔界では混乱が続く。
魔界城の最上階王室には、魔界から突如消えた魔王の気配を感じ取った魔族四天王達が召集しあいその姿があった。
巨大な王座に腰を下ろしたまま息絶えた魔王、その首元にはあるべき物が無い。
「王の首はどこだ!」
辺り一面血の海と化し異臭を放つ魔族兵の死体が幾つも転がる中、彼らの目当ての物は見当たらない。
「こんな時にも、あの毒魔は遅れてくるとはいい気なものだ」
漆黒の鎧の隙間から三つの目を赤く光らせ、ドラゴンの羽を広げ威嚇するように獣魔は苛立ちを募らせる。
「一体誰の仕業だ。あの魔王様が敵わぬ相手など魔界には存在しない筈。闇の奥潜む新たな魔族か、それとも裏切りか」
残された状況を影魔は冷静に分析する。
「まさか、血魔。貴様が企てたのか?」
頭部の無い魔王の首に長い牙を突き刺しドクドクと血を吸い漁る。口元から滴り流れゆく血は艶の無いドス黒いものだった。
「馬鹿を言うな。血は鮮度が命だ。お前のくだらぬ妄想で俺を疑うのなら、既に魔王は一滴の血も無いミイラだろうよ」
既に息絶えた魔王への敬意など微塵もない。
「もっとも怪しいのはここにいない者じゃないのか」
血魔は未だ現れることの無い毒魔に疑いを向ける。
「魔王亡き今、後継者となる者は血縁のガゼルだ。だがあのヒューマン混ざりの半魔に忠誠を誓えだと? 笑わせるな。今頃毒魔はガゼルを仕留め後継者の紋章を手に入れているかもな」
「パキパキパキパキッ」
血魔の言葉を耳に影魔は魔力を使い一瞬にして首無き魔王の身体を凍りつかせる。
「なにをする!」
「もう十分だろう」
影魔は魔王に最後の忠誠心を伝えるように、亡骸を氷結魔法で硬直させ瞬時に粉々に粉砕した。
「魔王をも倒す強者が現れた事実に変わりは無い。これまで反発の多かった魔人デビル族の連中が関与しているやも知れん。何れ我々も闘う事となるだろう。その時に備え、今は停戦といこうじゃないか」
長き間魔界を統一してきた魔王。独裁権力による圧力から開放された獣魔、影魔、血魔は皆同じ考えを抱いていた。恐らく毒魔も同じだろう。新たな王の座を奪う事を――。
「魔界に存在する全ての魔族を服従させるにはあの紋章が必要だ。魔界の王としての証は魔王血縁が継承する。ならば、ガゼルを消せば魔界の魔物達は皆、我々の支配下となり忠誠を誓うだろう」
姿を見せる事の無い毒魔にだしねかれたと察した彼らは、毒魔とガゼルを追い始めた。
― 国防最高統轄庁 ―
「藤堂大臣、魔界、ヴェノスから通信です」
「繋げろ」
国政と魔界との闇ルートにより繋がれた通信。国家権力行使によりその事実を知る者は少ない。
「今すぐゲートを開放させろだと!」
一方的な毒魔の要望に藤堂は拒否反応を示す。通常魔界とのゲート解放について緊急時を除き、国防ゲート管理室への手続きが必要であった。
「幾ら毒魔直々の要望だとしても、魔界協定を破る訳にはいかない」
強気の藤堂の態度を一変させたのは、毒魔ヴェノスから告げられた意外な情報だった。
「魔王は死した――。もはや協定など存在しない。地球ごとき直ぐにでも破壊できることを忘れるな。ヒューマンごときが勘違いするな。これは要望ではなく、命令だ」
「魔王が死んだ……」
ヴェノスは目的達成のため地球への侵入を要望していた。正式ルートでのゲート解放は魔界において検知され魔族間に情報共有される恐れがあった。毒魔は正規ゲート解放ではなく、闇ルートでの解放を持ち掛ける。
許可なくゲート解放を強行可能なのは魔王一族のみだ。例え四天王であってもその力はない。
「闇ルートなど存在しない。今情報提供できるのは、二時間後に繋がる政府輸送用ゲートだ。北緯35度41分、東経135度41分、東京だ」
大臣の発言を耳にヴェノムは通信を遮断した。
「大臣、情報漏洩は重罪となります」
「奴らは何を仕出かすか分からない。漏洩した情報から少なくとも出現地点は把握できる。至急、総理へ連絡。国防ゲート管理室を通し、偵察部隊、特殊部隊配置、ギルドへS級、A級、最高峰の実力者達への応援要請」
「了解」
関係各所へ魔王死去の情報共有と魔物出現に対する備えとして、全国民へ緊急事態宣言が出された。
「毒魔ヴェノムは自らの力でゲートを開こうとはしなかった。出来なかったのだ。それは、奴はまだ魔界を支配していない。新たな魔王として継承していない事実だ。間違いなく単独行動であり我々にも勝ち目はある。全力で事態に向き合え」
藤堂大臣の強気な発言は関係各省へと共有された。
ゲート解放まで残り一時間四十五分。




