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魔界協定  作者: うたたね


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3/6

3.宿命

― 国防ゲート管理 第1指令室 ―


「室長、午後16時43分、エリア第36街区において異次元ループ出現感知」


職員の報告に室内は静まり緊張が走る。


「現況は」


「はい。それが、不可解な事にゲートは僅か3秒で閉じられシステム誤検知の可能性も示唆されます」


確かに出現したであろうゲート、その後の解析により魔界からループされた可能性が高い結論に至った。


「魔界からの事前通告は」


「ありません」


「協定違反か……。いったい何故……」


国民の安全を最優先に調査部隊は直ちに現地へと向かう。それは人間を襲う魔物を警戒した行動であった。


「報告します。現刻より5分後、16時52直近偵察部隊現地着予定」


「よし、状況確認次第、特殊部隊の出動を命ず、待機せよ」


「了解」


出現した異世界への門(ゲート)が新たな資源確保の国益となる場合も想定されるが、常に最悪の事態を考慮した判断を優先した指示が出される。


「ギルドへのハンター応援要請指示を願います」


「ゲートは3秒で封鎖。大規模なモンスターパニックは考えにくい。故に保留とする」


「了解」


緊迫した空気の中、指示系統を終えた職員達は一報を静かに待つ。



― エリア第36街区域 慰霊碑墓地 ―


 閑散とした墓地、過ぎ去った日々は大切な人の記憶さえ風化して消し去るのだろう。十年前に失われた沢山の命、やり場のない哀しみを受け止める様に建てられた慰霊碑に手を合わせる人は少なくなっていた。

あの日、闇煙の中姿を消し残された黒灰。遺族にとって遺骨の無い墓地に訪れるには心の整理がつかないのかも知れない。


「お父さん、お母さん、咲良(サクラ)、またくるね」


枯れた花束の脇に飾られた三輪の花。緩やかな風に吹かれ、沙良(サラ)を見送り手を振るように微かに揺れていた。


慰霊碑を背に小道を歩む彼女の足を留めたのは、重厚な空気の歪みだった。


「嫌な予感がする……」


そう呟き視線を向けた草むらが一瞬(うごめ)く。


「ガサガサッ」


「キャッ!」


黒く艶の無いソフトボール程の異様な塊は、視覚で判断できない程のスピードで足元を横切る。


「ガサガサ、ガサガサ」


やがて立ち止まったのか葉を揺らす音が消え、くちゃくちゃと気味の悪い粘り気のあるものへと変化した。


ゆっくりと一歩ずつ音の元へと引き寄せられた沙良は、草茂みの中に横たわる人影を目に声を殺した。


「……」


「クチャクチャ」


「クチャクチャ……」


横たわる男の脇付近から聞こえる不快な音、視界に蠢く生物の姿をようやく認識した。


『ネズミ……』


耳から脳へと伝わる不快な音は、身体を噛みちぎり食していたものだった。


「うぐっ……、ううっ」


痛みを堪え悶える声を警戒しながら歩みよると、木漏れ日が照らす男の姿が鮮明に現われた。その姿を目に、沙良の表情は鬼の形相へと一変する。


「人間じゃない……、あなたは……、

人と魔族のハーフ、半魔ね」


彼女の怒りに震えた声を耳に男の口元が微かに笑いを浮かべたように動いた。


「ダガー」


沙良がそう呟くと同時に、彼女の白肌の細く伸びた指先には鋭い両刃の小刀が握られていた。


「ハァハァ、うううっ。

能力者か……、

ここは地球か?

アークの奴め、しくじったか――」


苦しみ悶え最後の声を振り絞るかのように男はそう呟いた。


「許さない。家族の仇――」


「フフフッ、魔界協定を結んだ魔族の殺略は死罪だぞ。しかし、その様子だと余程恨みを抱いているらしいな。フフッ、野鼠すら殺せない屍の様な身体だ。最後に役に立てるなら俺もここまでか――」


鋭利な刃先を目にしてもなお命乞いすらしない半魔は、全てを察したのかゆっくりと首元から衣服を引き裂き奇妙な柄の紋章が刻まれた心臓部を指差し目を閉じた。


『魔族にも人と同じ感情というものがあるのだろうか?』


「……」


沙良は、瞼を閉じた半魔の瞳から一筋の涙が流れ落ちる姿を確かに目にした。


「怖いの? そんな冗談はよしなさい。 

沢山の人間を殺した魔族の分際で――、

許さない。


絶対に……、


ゆるさない」


振り下ろされた刃先から鈍い音が響く。


「グサッ、ググググザグッ」


「ぐぐぐぅ……、ぐふっ」


やがて男は動かなくなった。


収納(ストレージ)


沙良の一声で、刃物と横たわる男は瞬時に消え去り、彼女は何事も無かったかのように再び墓地の出口へと歩み始めた。あまりにも突然の出来事にまだ指先が微かに震える。


「動くなっ! 止まりなさい!」


静寂を引き裂くように突然背後から響く声。


『仲間がいたの――』


高鳴る鼓動を感じながら沙良はゆっくりと振り返る。


早足で歩く彼女を背後から呼び止めたのは複数の武装した軍人だった。

向けられたままの銃口が下げられることはない。微かに不安を抱きながらも、見覚えのある一人の男の表情を目に、沙良はゆっくり髪をかきあげると隙の無い作り笑顔を向けた――。









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