第65話「協力のはずが内ゲバ:『偽装防止』と『プライバシー保護』が衝突する」
市役所の相談窓口は、いろんな温度の言葉が集まる場所だ。
困っている人の声もあれば、怒りのやり場を探している声もある。泣きながら相談する人もいれば、淡々と手続きを済ませたいだけの人もいる。
だから窓口に必要なのは、正解を言い当てる力より、まずは“回す”力だ。順番を作り、話を整え、必要な部署へつなぐ。派手じゃないけれど、生活を支えるやり方。
……ところが今日は、その“回す”前提が崩れた。
「主任! 相談窓口に、えっと……その……両陣営が来ました!」
美月が駆け込んできた。紙の束が腕の中でずれている。走った勢いのまま息を吸い直し、言葉を慎重に選んでいるのが分かる。
両陣営。そう呼ばざるを得ない時点で、窓口の空気はだいぶ危ない。
「両陣営って……まさか、昨日の」
「はい。偽装防止同盟と、プライバシー保護団体。しかも同時に、受付カウンター前で。双方が『相手が危険だ』って主張してます」
勇輝は椅子の背を押し、立ち上がった。頭の中で、住民課の窓口列、相談票、待合の椅子の数、午後の予約、全部が連鎖していく。
窓口でぶつかったら、止まるのは議論じゃない。生活が止まる。
「……分かった。まず窓口を守る。受付を修羅場にしない」
そこへ加奈が入ってくる。紙袋を抱えている。中身の気配だけで、今日は“そういう日”だと分かる。
のど飴が多め。ミントの小袋。小さな紙コップ。あと、甘いクッキー。口が乾くと声が尖りやすいし、血糖が落ちると判断が雑になる。役所は、そういう地味な要因で壊れることがある。
「やっぱり来たか……。窓口って、言い争いの舞台にされると一番困るよね」
「もう入口付近で声が大きくなりかけてる。職員さんが挟まれてる」
背後に気配。市長が入ってきた。表情はいつもより静かで、冗談の余白が薄い。
こういう時の市長は、変に飾らない。余計な言葉を足さないぶん、言うべきことがはっきり出る。
「役所は裁きをする場所ではない。だが、秩序は守る。窓口が壊れれば町が困る」
「守ります。会議室へ誘導します。窓口は“手続きする場所”のままにする」
勇輝は指示を早口にしないよう意識しながら、段取りを組んだ。
「美月は記録。できれば議事メモじゃなくて“現場が迷わない箇条書き”。あと、広報は準備だけ。発信は会議が落ち着いてから」
「加奈は、双方の言葉を“生活の言葉”に置き換える係。何を守りたいのか、そこだけ拾って」
「市長は……」
「同行する。先に線引きを言い切る役は私がやろう。主任が現場の手順を組み立てやすい」
勇輝は少しだけ頷いた。ありがたい。市長が“前に立つ”ことは重みになるが、使い方を間違えると圧にもなる。今日は、重みとして使う。
「ひとつだけ。煽る言葉は無しでお願いします」
「煽るつもりはない。必要な線だけ引く」
美月が小さく手を挙げた。
「主任、今日の勝利条件、決めておきましょう。炎上しない、より――」
「職員が倒れない、だな」
「はい。それです。最優先」
加奈が紙袋を机に置き、軽く叩いた。
「倒れそうな人用の備品、持ってきたから。使わずに済むといいね」
勇輝は短く息を吐く。行こう。窓口の時間は止まってくれない。
――
相談窓口前の待合は、いつもなら“用事の種類が違う人たち”が同じ空間にいる。
今日は“主張の種類が違う人たち”が、向かい合って立っていた。
片方は腕章の集団――偽装防止同盟。昨日、役所前で検査レーンを作って撤収した、あのグループだ。リーダー格の男もいる。顔色は悪くないが、目が固い。
もう片方はプライバシー保護団体。人間も異界の人も混ざっている。掲示板やSNSで“真名”や“外見の強制”に敏感になっている人たちだろう。こちらも目が尖りやすい空気を持っている。
その間に、相談窓口の職員二人がいる。笑顔の作り方がうまい人たちなのに、今日はそれがうまく出ていない。
加奈が、職員の手元にある相談票の束を見て、そっと眉を寄せる。紙がしわになっている。握りしめた痕だ。
「……主任……窓口でこれを始められたら、手が止まります……」
相談員が小声で言った。
“止まる”は、役所にとって一番怖い単語だ。止まった瞬間に、列は不安になり、不安は怒りに近づく。怒りが増えれば、誰かが傷つく。
「止めさせない。ここは窓口だ。窓口として使う」
勇輝がそう言うと、相談員が少しだけ肩を下ろした。
この“少し”を積み重ねるのが、役所の仕事だ。
市長が、待合の中央に立つ。声を張り上げるのではなく、全員に届く大きさで、区切りを作る。
「本日は、相談窓口の運用について整理する。互いを断罪するための場ではない。生活を守る話に限定する。窓口の前で議論しない。――会議室へ移動しよう」
市長が言い切ると、周囲が一拍止まる。
その一拍の間に、美月がさっと職員の横へ回り、窓口に並ぶ人へ案内の声を入れた。
「相談の受付は止めません。番号札はそのままです。いまの方から順に対応しますので、席でお待ちください。書類の確認だけ先にできる方は、こちらでお願いします」
“止めません”が効く。待っていた人たちの表情が少し戻る。
偽装防止側も保護側も、会議室へ誘導される流れに乗った。乗らざるを得ない。役所の空気は“順番”でできているからだ。
会議室へ向かう廊下で、プライバシー保護団体の若い女性が、ぽつりと言った。
「……昨日から、外に出るのが怖くなったんです。役所に行くのも。けど、住所変更しないと仕事に響くから」
偽装防止同盟の側にいた男が、苦い顔で言い返しそうになって、飲み込んだ。
言い返す場所じゃないと分かっている。分かっていても、怖さの方向が違う。だから、ぶつかる。
勇輝は、その会話を聞きながら、心の中で一つ決めた。
今日の会議は“論破”をしない。双方の怖さを、窓口の手順に変える。怖さを手順に落とせば、尖りは少し丸くなる。
――
会議室に入ると、机の配置が空気を変える。
向かい合わせにすると対立が強くなる。横並びにすると議論が散る。
勇輝は、あらかじめ庁舎管理に頼んでいた通り、コの字型に机を置いてもらっていた。中央に余白があり、全員が“前”を見る形になる。
偽装防止同盟は左側。プライバシー保護団体は右側。
正面に市長と勇輝。端に住民課の係長と相談員。美月は壁際でメモを取る席。加奈はお茶のポットを置く場所を確保しつつ、双方の視線の先を見ていた。
開会一番、偽装防止同盟の代表が立ち上がった。声は落ち着いているが、言葉が固い。固さは怖さの裏返しだと、勇輝は思う。
「市長、主任。町のなりすまし被害が増えています。補助金や証明書を悪用される懸念もある。役所が“確認を強める”必要がある。現場の対策が必要です」
すぐに保護団体の代表が反応した。こちらは声を荒げないが、語尾に棘が混じる。
「“現場の対策”が、誰かを止める行為になるなら問題です。外見を理由に呼び止めるのは侵害です。真名の要求は文化的に危険。役所前での呼び止めは、生活の自由を壊す行為です」
偽装防止側の数人がうなずく。保護側も同じようにうなずく。
正義と正義が、それぞれの陣営の背中を押している。
背中を押されたまま前に出ると、ぶつかる。ぶつかった先にいるのは、窓口の職員だ。
偽装防止代表が一歩前に出る。
「事件が起きたらどうする。被害者が出たら、責任は誰が取る」
保護側がすぐ返す。
「“事件が怖い”を理由に、全員を疑う社会にしないでください。それが一番危険です」
言葉の温度が上がる。
勇輝は、ここで“仲裁の美文”を言う気はなかった。必要なのは、場を冷やすことではない。場を“実務”に戻すことだ。
勇輝は手を挙げた。指先で止める合図を作り、声の大きさを変えずに言った。
「一旦、止めます。ここからは“何を守るか”を整理して、運用に落とします」
ホワイトボードに太字で四つ書く。
①来庁者の安全
②手続きの公平性
③プライバシーの保護
④窓口が回ること(現場が潰れない)
「この四つを全部守ります。どれか一つだけを正義にして、他を切り捨てません。切り捨てた瞬間に、町は戻れなくなる」
加奈が小さく頷いた。
彼女は“言い方”で場が変わるのを、毎日見ている。喫茶店は小さな町の縮図だ。
市長が続ける。
「役所は検査機関ではない。だが確認はする。確認は、生活を守るための手続きだ。暴くための道具にしない」
偽装防止代表が、少しだけ言葉を選び直した。
「……では、確認を強めるとは、具体的に何をするのですか。役所は遅い、と言われています」
勇輝は、そこを逃さない。
“遅い”は批判であり、同時に課題の提示でもある。役所は、課題が見えれば手順にできる。
「具体にします。争点を三つに分けます」
ホワイトボードに線を引き、A、B、Cと書いた。
A:誰が本人確認をするのか
B:本人確認の方法は何か
C:情報提供をどう扱うか
「A。本人確認をするのは、役所です。住民課、必要なら関係部署が連携する。民間団体が通路で止めるのは不可。理由は簡単で、通行妨害と排除につながるからです」
保護側がうなずく。
偽装防止側は、うなずく人と、口を結ぶ人が混ざる。
「B。方法。顔写真だけに頼りません。電子証明、追加書類、質問確認。前回からの運用で、すでに“顔が変わる体質”への対応を組み始めています。真名の要求はしません。外見を理由に一律排除もしません」
ここで、偽装防止側の一人が口を挟んだ。
「だが、外見が変わる者は、なりすましと区別が難しい。だからこそ、真名で――」
「真名は使いません」
市長が短く遮った。
言い切るべき線は、短いほうが強い。
「役所が求めない情報を、民間が求めることも認めない」
保護団体の代表が息を吐く。
偽装防止側の空気が少し揺れる。揺れたところで、勇輝はCへ進んだ。
「C。不正の疑いがある情報は、“提供”として受けます。ただし個人を晒す形は禁止。通路での呼び止めも禁止。情報は役所が受け取り、確認して、必要なら関係機関へつなぎます」
偽装防止代表が食い下がる。
「役所が受けるだけでは遅い。現場で止める必要がある。役所が見逃したらどうする」
勇輝は淡々と返した。淡々とした言葉は、相手の興奮に燃料を足さない。
「止める権限はありません。見逃さないために、役所の手順を強くします。
ただし“疑い”だけで人を止めるのは、正しい人を傷つけます。傷ついた人は、役所に来なくなる。来なくなると、手続きができない。手続きができないと、生活が崩れる。生活が崩れると、町の安全がさらに不安定になります。
あなたが守りたいのは安全でしょう。その道筋が逆になるやり方は採れません」
保護側が頷いた。
「そこが大事です。止める側が“正しいつもり”でも、止められる側には恐怖になる」
偽装防止側の代表は、返す言葉を探している顔をした。
言い返したいのではなく、守りたいものがあるから譲りたくない。
その顔に、加奈が口を挟む。説得ではなく、生活の言葉を置く。
「怖い気持ちは、分かるんだ。なりすましの話を聞いたら、誰だって不安になる。
でも、その不安のまま“検査”を外へ配ると、怖さが伝染する。伝染した怖さは、弱いところに刺さる。
手続きに来る人って、困ってる人が多いよね。転入とか、家族のこととか、仕事のこととか。そういう時に入口で止められたら……それは生活が折れる」
会議室が静まった。
正義の言葉は反論を呼ぶが、生活の言葉は飲み込まれやすい。
偽装防止側の代表も、そこで一度目を伏せた。
美月が壁際で、素早くメモを取る。
「怖さの伝染」「入口で生活が折れる」。この二つは、後で広報文案の核になる。
市長が続けて言う。
「不安は否定しない。だが、不安を理由に人を縛らない。町は、怖さで守るのではなく、仕組みで守る」
勇輝は、ここで“形”を出した。形があると、争いは落ち着きやすい。形がないと、正義は居場所を求めて暴れる。
「暫定ですが、窓口を制度化します。二つの相談を同じ入口で受けます」
ホワイトボードにタイトルを書く。
《ひまわり市 本人確認・不正相談窓口(暫定)》
《プライバシー侵害・不当呼び止め相談窓口(暫定)》
「不正が心配な人は、情報提供として相談できます。被害があった人も、被害相談として相談できます。
受付は異世界経済部と住民課の連携。窓口職員を孤立させない。受けた情報は、役所が確認・調査し、必要に応じて関係機関へ。
真名の要求、外見の強制確認、役所前での呼び止めは、どちらも禁止。敷地管理として停止措置を取ります」
保護団体の代表が、少しだけ肩を緩めた。
「相談窓口が“被害側”にもあるなら、助かります。止められた人が泣き寝入りしない」
偽装防止代表も、渋い顔で頷いた。
「……情報提供としてなら、協力できる。だが、提供した情報が握りつぶされないことが条件だ」
「握りつぶしません。その代わり、提供の形式を整えます」
勇輝は机の上に、簡易な用紙を置いた。庁内で使っている“相談受付票”を少し改造したものだ。
美月がさっき走って持ってきた紙束の中身は、これだったらしい。
「提供者の連絡先(匿名も可)、いつどこで何があったか、何を根拠に疑ったか、被害者がいる場合は同意があるか。
これを埋めてもらえれば、担当部署へ回せます。匿名の場合は追跡が難しくなるので、その点も説明します。
重要なのは、通路で止めないこと。役所が受け取ること。ここに寄せてください」
偽装防止側の数人が、用紙を覗き込む。
書かれた欄を見ると、“現場で止める”よりも“情報として出す”ほうが、実は行動しやすい人もいる。正義は、道があると落ち着く。
保護側も用紙を見る。
「不当呼び止め」「真名の要求」「外見の強制」といった項目が別紙で用意されているのを見て、代表が短く頷いた。
「こちらも、被害相談の道があるなら、感情だけで動かずに済みます」
市長が言った。
「よし。協力は受ける。ただし、町の入口を誰かの運動の場にしない。窓口は生活のためにある」
美月が、つい反射で小声を漏らす。
「“入口を運動の場にしない”…短いし、掲示に向いてます」
「掲示は慎重に。相手を名指ししない」
勇輝が釘を刺すと、美月は勢いよく頷いた。
「はい。名指ししません。事実と方針だけで。煽りません」
加奈がポットのお茶を注ぎ、両陣営のコップが空にならないように回る。
口が乾くと声が尖りやすい。小さなことだけど、こういうことで場は変わる。
――
会議の後半は、細部の詰めになった。ここからが、役所の勝負だ。
例えば、「相談窓口」と言っても、相談は同じ形で来ない。緊急のものもあれば、ただの不安もある。
それを混ぜたままだと、窓口は詰まる。詰まれば、また誰かが“勝手に”動く理由になる。
勇輝は、美月のメモを指さした。
「美月、ここ。『相談の種類で入口を分ける』って書いてある。これ、良い。分け方は三つでいい」
「三つ?」
「うん。
①今すぐ手続きに影響が出ているもの(今日中に止まる)
②具体的な被害があるもの(いつ、どこで、誰が、何を)
③不安・相談(形がまだない)
この三つで受付票の色を変える。色を変えると、職員の手が迷わない」
住民課の係長が、ほっとしたように笑った。
「色分け……いいですね。口で聞き取るだけだと、職員によって判断が揺れてしまうので」
プライバシー保護団体の代表が質問した。
「“不安”の相談は、軽く扱われませんか」
「軽くはしません。ただ、順番を作ります」
勇輝は答えた。
軽くしない。でも順番は作る。順番があるから、安心して待てる。
偽装防止同盟の代表も、そこで一つ質問を出した。
「情報提供は匿名でもよい、と言いましたね。匿名だと悪用されませんか。誰かを陥れるために、嘘を出す者もいる」
「ある。その前提で扱います」
勇輝は否定しなかった。否定すると、相手の怖さが増える。
「だから、匿名情報は“すぐ処分”もしないし“すぐ決めつけ”もしない。
確認可能な事実だけ拾って、役所側で照合して、必要なら本人に説明する。それが役所の仕事です。
あなたたちにお願いするのは、通路で止めないこと。晒さないこと。ここに持ってくること」
市長が短く付け足した。
「そして、役所が“確認している”ことを、見えるようにする。そうすれば、勝手に動く理由が減る」
加奈がクッキーの袋を少しだけ開け、会議の中央に置いた。
誰も手を伸ばさない。けれど、甘い匂いがほんの少し空気を緩めた。
「……じゃあ、これ。持ち帰りの宿題にしないで、今日ここで決めよう。掲示の文案も」
加奈が言うと、美月がすぐ反応する。
「掲示、作れます。短く。怖がらせない言葉で。主任、チェックお願いします」
市長は一瞬だけ口を開きかけた。格言を言いそうな気配。
勇輝が先に言う。
「市長、短文でお願いします。増やすと読まれません」
「分かった。短くする」
その“短くする”が、今日いちばんの譲歩かもしれない。美月が肩を震わせて笑いそうになり、慌ててメモに戻った。
――
会議が終わり、両陣営が廊下に出る。
すれ違いざまに、偽装防止同盟の代表が、保護団体の代表へ小さく頭を下げた。
謝罪ではない。和解でもない。けれど、さっきまでの尖りより、少しだけ角が取れている。
「……入口で止めるのは、やり過ぎだった。そこは認める」
保護団体の代表も、同じくらい小さく頷いた。
「不正を怖がる気持ち自体は否定しません。けど、怖がらせない形にしてください」
その会話の横で、住民課の相談員が、深く息を吐いた。
息を吐けるだけで、今日は勝ちだ。
「主任……ありがとうございます。窓口に戻れます」
「戻ろう。止まってる人がいる」
勇輝がそう言うと、美月がぴょこんと顔を出す。
「主任、広報文案、仮でいいから先に出します? 今日中に出すと、明日の波が少し減るかもです」
「出す。今日中に」
市長も頷く。
「“役所は検査をしない”ではなく、“役所は窓口で相談を受ける”と書け。否定より、行動だ」
加奈が、小さな紙コップを相談員に渡しながら言う。
「のど飴、置いとくね。今日は窓口の説明が増える日だから」
相談員が笑った。
「喉が守られると、心も守られますね……」
美月が、なぜか誇らしげに胸を張る。
「喉は大事です。喉が折れると、優先順位も折れます」
「折れるって言い方は、ちょっと怖いな」
「じゃあ、喉が迷子になります!」
「迷子も困る!」
少しだけ笑いが出た。
笑いは、状況の勝利じゃない。でも、呼吸が戻る。呼吸が戻れば、窓口は回る。
――
夕方、勇輝は会議室で決めた内容を、庁内チャットに流した。
文面は短い。部署名、担当、受付の色分け、掲示の文案、そして“役所敷地内での呼び止め禁止”の再確認。
最後に、こう書き添えた。
「迷ったら、窓口を止めずに主任へ。判断に悩むのは普通です。抱え込まないでください」
送信した瞬間、返信がいくつか返ってきた。
「了解」
「助かります」
「明日の当番、心の準備します」
短い返事だけど、現場が孤立しないための糸になる。
ひまわり市役所。
今日も通常運転。
ただし、“協力”と“対立”が同じ顔で窓口へ来ることがある。だからこそ、線引きは硬く、受け皿は広く、手順は迷わない形にしておく。




