表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/141

第39話「魔界と天界、湯けむりの決戦!」

~世界を揺らすのは、ひとつの温泉だった~


■オープニング・異界サミット会場


 ひまわり温泉郷の中心に建てられた特設ホールは、

 今日だけは“地方の会議場”ではなかった。


 天井には天界の光柱が差し込み、床には魔界の黒炎が走り、

 それぞれが干渉しないよう精密に組まれた魔法陣が輝いている。


 その中央に――ひまわり市役所・異界経済部の代表として

 勇輝、加奈、美月が並んで立っていた。


 三人の背後には、市民の願いが詰まった膨大な資料の束。

 だが異界の大国を前にすると、それはあまりに小さく見えた。


 ――世界規模の会議に、地方役所の若手が挑む。

 奇妙だが、これがひまわり市の日常だった。



■サミット開会


 司会・エルフ代表の声がホールに響く。


「第1回・異界温泉経済サミットを――開始します」


 静寂。

 天界の光が一段と強まり、議場に神域の静けさが満ちた。


◆天界代表・セレーネ


 やわらかな光をまとい、まるで舞うように壇上へ進む。


「天上の清き湯は、魂を浄化し、争いを遠ざける聖域。

よって――ひまわり温泉を“聖湯指定地”とし、

天界の庇護下に置くことを提案します」


 ざわめく会場。


◆魔界代表・ベリオール


 黒い霧をまとった髪が揺れ、鋭い笑みを浮かべる。


「いや、湯の価値は自由市場が決めるべきだ。

ひまわり温泉は我々が投資し、拡張し、観光利益を最大化する。

“管理”ではない。“支配”でもない。“発展”だよ」


 あまりに強引な物言いに、会場がさらに揺れた。


◆勇輝、立つ


 重圧の中、勇輝は静かに壇上へ進む。

 緊張で喉が乾いているのに、不思議と声は落ち着いていた。


「……どちらの意見も、一理あります。

 ですが――どちらも、この町の“心”を無視している!」


 場の空気が凍った。


 勇輝は続ける。


「ひまわり温泉は、異界のために作ったわけじゃない。

老人も、子どもも、疲れた帰り道の誰かも。

“町に生きる人たち”のための場所なんです」


 天界・魔界双方の代表が、じっと彼を見る。


 加奈が前に出た。


「だから私たちは提案します!

“ひまわり温泉・自治協定”――

市民を中心とした共同運営体制です!」


 一瞬、会場がざわめき、そのざわめきは次第に大きな渦となっていった。



■同時刻・温泉の地脈管理室


 サミット会場の裏で、もうひとつの戦いが進んでいた。


 魔力の灯りが揺れる制御室。

 複数の職員が計器の前で慌てふためく。


「おかしい……ゲート反応が急上昇してる!」

「魔力流入が異常だ! 誰かが外部から干渉してる!」


 次の瞬間――

 床から赤い光柱が突き破るように爆発した。


「だ、誰かが温泉の“異界ゲート”を操作してる!!」


 警報が鳴り響き、町全体を震わせる。



■会場・混乱の幕開け


 ズドォォォォォン!!!


 サミット会場の床が揺れ、

 床下から沸き上がる蒸気と魔力光が議場全体を包む。


 悲鳴、怒号、魔法の光。

 一瞬で平和な会議は“戦場”と化した。


 加奈が駆け寄る。


「勇輝さん! 湯脈が暴走してます!

 このままじゃ温泉街が吹き飛びます!」


 美月がベリオールを睨みつける。


「アンタね……最初から仕組んでたでしょ!」


 ベリオールは肩をすくめ、薄い笑みを浮かべた。


「さて、どうだろうね。

“湯の源”を抑えた者が勝者だ。

それだけは事実だが?」


 勇輝は歯を食いしばる。


「……やっぱり、最初から狙ってたな!」



■湯源地へ


 暴走する魔力が空を紅く染め、

 温泉街全体が低い唸り声のような振動を上げている。


 その中を、勇輝・加奈・美月は避難誘導しながら走った。


 湯気は熱を帯び、まるで触れるだけで皮膚を焼くようだった。


「勇輝さん! ここ、もう温泉じゃない……

 “異界ゲートそのもの”が膨張してる!」


 美月が叫ぶ。


「このままじゃ、町ごと異界の狭間に沈む!!

 止める方法は!?」


 加奈が制御塔を見上げる。


「手動で――封印装置を再起動するしかありません!!」


 勇輝は迷わなかった。


「――俺がやる!!」



■封印再起動・決死の瞬間


 制御塔の頂上へ続く階段は、蒸気と光の竜巻の中。

 踏み出すたびに皮膚を刺すような魔力が吹きつける。


 だが勇輝は登る。

 町の顔、通学する子どもたち、温泉街で働く人々。

 浮かぶのは“日常の光景”ばかりだった。


(ひまわり市を守るって……俺が言ったんだろ……

 こんなところで……負けるわけには――)


 制御盤に手を触れた瞬間、

 暴走する魔力が逆流し、身体を弾き飛ばしそうになった。


 だが勇輝は叫び返す。


「ひまわり温泉は――市民のものだぁぁぁぁ!!」


 手のひらを押し当て、封印陣の再起動を強行する。


 ズガァァァァァン!!!


 光が爆発し、周囲の景色が白く染まった。



■静寂


 湯気がゆっくりと散り、

 制御塔の上に勇輝が立っていた。


 足元は震え、今にも崩れ落ちそうだ。


 加奈が駆け寄り、顔を上げる。


「勇輝さん……!」


 勇輝はかすかに笑った。


「……止まった……か……」


 加奈が涙ぐむ。


「はい! ゲート、安定しました!

 本当に……よくやりました!」


 美月が鼻をすすりながら叫ぶ。


「……ほんっとバカリーダー!

でも……ありがとう!!」


 温泉街全体に歓声が広がり、

 生きている喜びを抱きしめるように人々が泣き笑いした。



■天界と魔界


 セレーネが静かに空を見上げ、つぶやく。


「……人の子が、自らの意思で魔力を鎮めるとは。奇跡ね」


 ベリオールは肩をすくめる。


「まったく……だから人間は侮れない」


 勇輝が二人を見据える。


「これが――俺たちの“町の生き方”です」


 セレーネが頷く。


「ならば、聖湯指定案は撤回します」


 ベリオールも微笑む。


「ふん。次に来るときは、我らが客として湯に浸かってやる」


 会場全体が拍手に包まれた。


 ひまわり市は――守られた。



■エンディング・夜の温泉街


 修復が進む温泉街。

 湯気は穏やかで、まるで町全体が深呼吸するように揺れている。


 美月が夜空を見上げて言う。


「……結局、今日もドラマチックだったね」


 勇輝は苦笑しながら湯気に手をかざす。


「この町、静かな日ってあるのか?」


 加奈は笑顔で首を振った。


「でも……みんな生きてる。

 それだけで十分ですよ」


 勇輝はゆっくりと頷いた。


「……ああ。

 ひまわり市は――今日も、営業中だ」


 夜空に、湯気をまとったひまわりの幻影がふわりと浮かぶ。



『異界に浮かぶ町、ひまわり市』


第39話「魔界と天界、湯けむりの決戦!」 END



次回予告(第40話・シーズンフィナーレ)


「異界に咲く約束の花」


温泉騒動が収束した直後、

突然――“地球との通信回復”という報せが届く。


戻るか、この世界に残るか。

町の人々に迫られる、人生最大の選択。


そして勇輝と加奈もまた、

それぞれの“想い”と向き合うことになる――。


「俺たちはもう、異界の住民だ」


――次回、怒涛の最終話。

ひまわり市、未来への決断。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ