第182話「認定ロゴが難しすぎる:妖精がデザインに口出し」
「ひまわりコロッケ」認定制度――爆誕。
町の名物を、町で守る。
その方向性は決まった。
……決まったんだけど。
「主任! ロゴが決まりません!!」
美月が、会議資料の束を抱えて突撃してきた。
最近この子、突撃が“業務”になってる気がする。
「ロゴって、そんなに揉める?」
「揉めます!
“可愛さ派”と“威厳派”と“分かりやすさ派”で三つ巴です!
しかも妖精が口出してきました!」
「妖精が口出すと一気に難易度上がるんだよな……」
加奈が紙袋を机に置き、ちらっと資料を覗く。
「わ、案が多いね。
……コロッケが剣持ってるのは何?」
「威厳派です」
「威厳の方向性が迷子だよ」
そこへ、どこからともなく市長が現れた。
今日は “口角が上がってるのに、眉間がまったく緩んでない顔” をしている。
「ロゴは町の旗だ。
適当に作ると、後で十年効く」
「十年の重みをコロッケに背負わせるな!!
……行きます、会議室へ!」
1.ロゴ制作会議:コロッケより熱い戦場
会議室には、関係者がぎっしり。
商店街会長、屋台組合、旅館組合、観光課、そして――
ドワーフのデザイナー(ガチの道具箱持参)
エルフ商会のラウレン(涼しい顔)
妖精代表(腕を組んでる。小さいのに圧がある)
机に並ぶのは、ロゴ案の紙、紙、紙。
そして、なぜか色鉛筆。
「さて! 認定ロゴを決めます!」
観光課が声を張る。
商店街会長が言う。
「シンプルが一番だ!
丸いコロッケに“認定”って書けばいい!」
屋台組合が反論する。
「いや、観光客に刺さるのは可愛さだ!
コロッケに顔つけよう!」
旅館組合が腕を組む。
「威厳も大事です。
“公式”っぽさがないと、信用にならない」
美月が口を挟む。
「SNSで拡散されるのは可愛い方です!
丸いだけは弱いです!」
ラウレンが静かに言った。
「可愛いだけでは、偽物も可愛く作ります。
認定の意味が薄れます」
妖精代表が、さらに静かに言う。
「……光るのは嫌」
「まだ何も光らせてないよ!?」
勇輝は机に手をついて深呼吸した。
これは、行政の典型だ。
“全員の正しさ”がぶつかって、どれも捨てられないやつ。
「よし、まず前提を整理します。
ロゴの目的は――かわいいこと、じゃない。
威厳があること、だけでもない。
“認定が伝わること”です」
市長が、小さく頷く。今日は “目だけで『それだ』と言う顔”。
2.要件定義:ロゴにも行政は必要
勇輝はホワイトボードに大きく書いた。
認定ロゴの必須要件
一瞬で「認定」だと分かる
小さく印刷しても潰れない(シールサイズ想定)
白黒でも成立する(コピー・FAX・焼き印もあり得る)
偽物が作りにくい要素がある(簡単すぎると危ない)
温泉街・ひまわり市らしさが入る(町の看板)
「これを満たすデザインに絞ります。
可愛い、威厳、分かりやすいは――この中で達成する」
ドワーフデザイナーが頷く。
「要件定義、いい。
叩けば形になる」
「叩くな! デザインを鍛冶にするな!」
加奈が小声で言う。
「でも、確かに“見た瞬間わかる”が大事だよね。
お土産って、ぱっと見で選ぶし」
「そう。
“選ばれる認定”にする」
妖精代表が、色鉛筆を一つ手に取った。
「……柔らかい色なら、いい」
「そこは助かる。ありがとう妖精」
3.事件:妖精が“デザイン審査官”になってしまう
ドワーフが描いた案が出る。
案A:コロッケ+市章+「認定」
案B:ひまわりの花+コロッケ+リボン
案C:剣を持つコロッケ(威厳派の暴走)
案D:妖精の羽のシルエット入り(妖精派の主張)
妖精代表が、案Cを見て即答した。
「怖い」
「だろうね!!」
会長が案Bを指して言う。
「これ、可愛いけど細かいな。
シールにしたら潰れるぞ」
ラウレンが案Aを見て言う。
「これは堅い。
だが“どこかの自治体の防災ステッカー”にも見える」
「防災ステッカーは悪くないけど、食欲が減る!」
美月が案Dを見て目を輝かせる。
「羽! 映えます!」
妖精代表がすぐ言った。
「羽、勝手に使うの、嫌」
「本人が嫌がってる!!」
勇輝は頭を抱えた。
妖精の意見は大事だ。
でも、妖精の感覚は繊細すぎて、人間のデザインが通りにくい。
市長が静かに言う。今日は “声が低くて、場が勝手に整う顔”。
「妖精の要求は“眩しくない”“怖くない”“嘘がない”。
それは、町の信用にも繋がる。
反映しろ」
「……はい。反映します」
4.解決策:ロゴを“二層”にする(公式印+かわいさ)
勇輝は、ある結論に辿り着いた。
「一つのロゴに全部詰めるから揉める。
なら、分けよう」
「分ける?」と美月。
「認定の核は“公式印”。
それとは別に、販促用の“かわいいマーク”を作る。
用途を分ける」
ホワイトボードに書く。
二層ロゴ案
公式印(必須):認定の証。シール・焼き印・紙に使う
販促マーク(任意):店のポスターやSNS用。自由度高め
会議室が、少し静かになった。
商店街会長が言う。
「なるほど。
公式印があれば、名前は守れる」
旅館組合も頷く。
「客への説明も楽になります。
“この印が本物です”と」
美月が手を叩く。
「SNSは販促マークで盛れます!
公式印は堅くてOK!」
ラウレンが、珍しく素直に言った。
「理にかなっています。
偽物対策にも良い」
妖精代表が、小さく頷いた。
「眩しくなければ、いい」
「眩しくしない。光らせない。約束する」
5.最終デザイン:ひまわり+湯けむり+コロッケ、で決着
ドワーフデザイナーが、要件に沿って描き直した。
公式印(最終案)
円形の中に「ひまわり」
下に小さな「コロッケ形」
背景に一本だけ“湯けむりの線”
外周に「ひまわり市 認定」
線が太く、白黒でも潰れない。
ひまわり市らしさもある。温泉も入っている。
そして、余計な派手さがない。
加奈が一枚手に取って、微笑んだ。
「うん。
可愛いっていうより、安心する」
「それが正解だ」
美月が販促マーク案を出す。
こちらは、コロッケが小さくお辞儀しているキャラ風。
ただし、光らない。点滅しない。妖精に配慮。
妖精代表がじっと見て、短く言った。
「……怖くない」
「妖精審査、通った!」
市長が最後に言った。今日は “口元がほんの少し緩む、やり切った顔”。
「決まったな。
町の旗が一つ増えた」
「旗が増えるたび、業務も増えるんですけどね……」
「それが役所だ」
「言い切るなぁ……!」
6.翌日:認定シール、温泉街に貼られる
翌日。
温泉街の店先に、小さな円形シールが貼られていく。
「お、これが認定か」
「分かりやすいね」
「湯けむりの線が温泉っぽい!」
観光客が、シールを見てコロッケを選ぶ。
店側も誇らしげだ。
商店街会長が勇輝の肩を叩いた。
「これなら揉めない。
……いや、揉める前に“決める仕組み”ができたのがデカい」
「揉める前に決められたら、胃も助かります」
加奈が笑って、喫茶ひまわりのメニューに書き足した。
「認定ひまわりコロッケサンド」
「出すの!?」
勇輝が驚くと、加奈はさらっと言う。
「だって、認定シール貼れるもん。
お客さん安心するよ」
「仕事が増える速度が、ひまわり市は異常だ……」
美月がタブレットを掲げた。
「『公式認定シール、かわいい』って投稿が伸びてます!
販促マークの方も、スタンプ化できそう!」
「スタンプ化は仕事増えるからやめろ!!」
でも、町の顔がまた一つ整ったのは確かだった。
誠実に盛って、仕組みで守る。
ひまわり市はそれを、コロッケで学び続けている。




