第177話「ドワーフ式道路工事、速いけど音がデカい!」
ひまわり市の朝は、だいたい内線の音から始まる。
だが、その日は違った。
――ガガガガガガガガ!!
市役所の窓ガラスが、低音で震えた。
「……え、地震?」
勇輝が立ち上がった瞬間、美月が飛び込んでくる。
今日も元気。元気すぎる。
「主任!! 道路工事です!!」
「道路工事で庁舎が揺れるのはおかしいだろ!!」
「ドワーフ式です!!
工期が短い代わりに、音がでかいです!!
温泉街が全員起きました!!」
「起こすな!! 温泉地は“寝る”のも商品だ!!」
加奈が紙袋を机に置きながら、ため息をつく。
「昨日はレートで揉めて、今日は騒音で揉める。
毎日違う地獄が来るね」
「行政は“地獄の品揃え”が豊富なんだよ……」
内線。
旅館組合の女将の声が、今日は怒りと眠気が混ざっている。
『勇輝主任!!
朝五時からガガガガ鳴ってます!!
お客さんが“温泉で眠れるはずが…”って!!
誰が許可出したの!?』
「誰も出してない予感がします!!」
背後から市長が現れた。
今日は 「眠気を押し殺した顔」 だ。
「工事は必要だ。道路は血管だ」
「血管を鳴らすな!!
……行きます!」
1.温泉街の道路が“一晩で変わっていた”
現場に着いた瞬間、勇輝は目を疑った。
昨日までガタガタだった温泉街の石畳が、半分新品みたいに整っている。
「……速い」
「速いです!」
美月がタブレットを見せる。
「深夜から始めて、もうここまでやってます!」
だが、音も本物だった。
ドワーフたちが巨大ハンマーで地面を叩き、魔導ドリルが唸り、石材がガンガン削られている。
まるで“鍛冶場が温泉街に移転した”みたいだ。
ドワーフの現場監督――ドランが、汗ひとつかかずに言った。
「工事は速い方がいい。
通行止めが短い。観光の邪魔も減る」
「それは正しい!
正しいけど、音が凶器です!」
旅館の客が、窓から顔を出して叫ぶ。
「眠れないんですけどー!!」
別の客が言う。
「道路は綺麗になってるけど、耳が死ぬ!!」
「耳を殺すな!!」
加奈が小声で言った。
「確かに道が綺麗になるのは嬉しいけど、時間帯が悪いね」
「そう。
“早く終わる”と“今すぐうるさい”は別問題」
2.問題:速さの代償が“住民と観光客の睡眠”を直撃
勇輝は整理した。
工事は速い(強み)
でも深夜〜早朝がうるさすぎる(致命傷)
温泉街は“静けさ”も価値
苦情が増えると、工事自体が止まるリスク
「つまり、速さを殺さずに、騒音をコントロールする必要がある」
美月が即答する。
「騒音規制ですか?」
「規制というより、合意形成。
現場のやり方を変える」
市長が短く言った。
「やれ」
「はい……胃が痛い」
方針:①工事時間帯を“観光地仕様”に、②騒音の大きい工程を昼へ、③告知と見える化で納得を取る
静けさ時間を工事にも適用
うるさい作業は昼、静かな作業は朝夕
工程掲示で“我慢の理由”を作る
お詫び+特典(温泉ポイント)で炎上回避
①工事にも「静けさ時間」を適用する
前回、精霊協定で導入した“静けさ時間”。
それを、今度は人間の工事にも適用する。
「温泉街の静けさ時間は、朝6〜8と夜21〜7。
この時間帯は“重騒音作業禁止”。
ドワーフ工事も例外なし」
ドランが眉を上げる。
「夜にやらねば工期が伸びる」
「工期が伸びても、苦情で止まったらもっと伸びます。
継続できる速度が正義です」
加奈が頷いた。
「続けられない速さは、結局遅い」
美月が小声で言う。
「加奈さん、時々いいこと言います」
「時々じゃないよ?」
②工程を分ける:うるさい作業は昼、静かな作業は朝夕へ
勇輝は工事工程を聞き出した。
破砕(最もうるさい)
掘削
整地(中)
敷設(中)
仕上げ(比較的静か)
「破砕と掘削は昼の時間帯に集中。
朝夕は整地と仕上げ中心にして、音を下げる」
ドランが腕を組む。
「うるさい作業は効率がいい。まとめてやりたい」
「まとめてやっていい。
ただし“昼だけ”にまとめてくれ」
「……昼だけか」
ドランは少し考え、頷いた。
「いいだろう。
その代わり、昼は全力でやる」
「全力でやって、夜は寝よう」
③告知と見える化:「何日うるさいのか」を示す
旅館の苦情は、騒音そのものだけじゃない。
“いつ終わるか分からない”不安が怒りになる。
勇輝は、温泉街の入口に掲示を出した。
道路工事のお知らせ
期間:◯月◯日〜◯月◯日(全3日)
重騒音作業:10:00〜16:00
静音作業:8:00〜10:00/16:00〜18:00
夜間作業:なし
ご迷惑をおかけします(温泉ポイント配布あり)
美月がすぐ写真を撮る。
「これ、SNSにも流します。
『あと3日だけ我慢』って見えると空気が変わります」
「空気を変えるのが行政の仕事だ」
④お詫びと特典:温泉ポイントで“気持ちの着地”を作る
加奈が提案した。
「苦情をゼロにはできない。
でも“納得の出口”は作れる。
たとえば、温泉ポイントを少し付けるとか」
勇輝は頷く。
「工事のせいで迷惑を受ける客に、
ひまわりポイントを“追加”で配布。
次回の買い物や足湯に使える。
怒りの行き先を、町の循環に変える」
「怒りがポイントになるの、嫌な表現だな」
「でも効く!」
3.事件:ドワーフが“静音”の概念を誤解する
翌日。
朝8時。
静音作業のはず。
――ゴォォォォン!!!
また低音が鳴った。
「静音って言っただろ!!」
勇輝が現場に走ると、ドランが堂々と答えた。
「静音だ。
昨日よりハンマーを“小さく”した」
「音量の問題じゃなくて“種類”だ!!
ハンマーは全部うるさい!!」
美月が肩を震わせる。
「主任、翻訳が必要です。
“静音”をドワーフ語に直さないと」
加奈が笑いをこらえながら言う。
「たぶん、ドワーフは“静かにやる=弱く叩く”なんだよ」
「弱く叩くな! 壊れる!
静音は“叩かない工程”をやるんだ!」
勇輝は工程表を出して、指差した。
「朝は整地と仕上げ!
転圧も、手持ちの軽いやつ!
破砕は禁止!
これが静音!」
ドランが眉を上げる。
「なるほど。
“音の小さい工程”という概念か。学んだ」
「学びが早いのは助かるけど、毎回現場で学ぶな!!」
4.解決:速さを保ったまま、苦情が激減する
三日間。
工事は昼に集中し、夜は止まった。
旅館の窓は揺れない。
客は昼に外出し、夜は眠れる。
結果、苦情はこう変わった。
「うるさい!」 → 「昼だけなら仕方ない」
「いつ終わる?」 → 「あと何日」
「最悪!」 → 「道が綺麗になって嬉しい」
商店街会長が言う。
「工事終わったら、客の歩き方が変わったな。
転ばない。ベビーカーも通れる。
これはデカい」
加奈が頷く。
「温泉街って、実は“歩けるか”が大事だもんね」
ドランが胸を張る。
「我らの工事は速い。
ただ、静音の概念も学んだ」
「学んだのは偉い。
でも次は“粉塵”だろうな……」
美月が即答する。
「次回、粉塵です」
「言うなぁぁぁ!!」
そこへ市長が歩いてきた。
今日は 「肩をすくめて笑う、ちょっと軽い表情」 だ。
「いいじゃないか。
速さを活かしつつ、町の価値を守った」
「守りました。
……守った分、次の案件が来るんですよね」
「来る。観光地だからな」
「観光地って怖い!!」
夕方、温泉街の道は新品みたいに光っていた。
歩く足音が、少しだけ柔らかく聞こえた気がした。




