第175話「ドラゴン観光客、まさかの“市役所宿泊要請”!? 泊まるならせめて屋根の補強を!!」
――ひまわり市役所・来庁者受付。
朝の空はなぜか薄暗く、妙に影が大きい。
美月が書類をさばきながらふと顔を上げた。
「……主任。なんか外、光量おかしくないですか?」
「曇りだろ。季節の変わり目は――」
勇輝が言い終わる前に、窓ガラス全体が“巨大な何か”で暗くなった。
美 月が青ざめる。
「いや、曇りとかじゃなくて……生き物の気配……」
次の瞬間、天井に“ドンッ”と重たい衝撃音が落ちてきた。
蛍光灯が揺れ、書類がぱらぱら舞う。
「主任!! 屋根に何か乗りました!!」
勇輝は深くため息をつき、天井を見上げた。
「……ドラゴンだな」
美月は叫んだ。
「なぜ市役所に直接着陸するんですかあの種族!!」
【ドラゴン・来庁】
数分後。
入口の自動ドアがゆっくり、細心の注意を払うように押し開いた。
体を縮めに縮めたドラゴンが、申し訳なさそうに顔を入れてきた。
「……失礼する。ひまわり市の職員殿。
実は……お願いがあって来たのだが……」
美月の声が裏返る。
「お願いって……まさか……今日泊まりたいとか言いませんよね……?」
ドラゴンは巨大な尻尾を申し訳なさそうに丸めた。
「――市内の宿がすべて満室でな。
今夜だけ、市役所の屋根を借りたい」
美月は頭を抱えた。
「やっぱりぃぃ!!」
勇輝は落ち着きを取り戻し、ドラゴンに向き直った。
「屋根を宿泊として使用する場合、
“建造物荷重超過申請”と“夜間異界生物滞在届”が必要だ」
「む……では申請する」
「(するんだ……)」
美月が小声で絶望した。
【申請・問題点】
勇輝が書類を出し、ドラゴンに説明を始める。
「まず、体重を記入してほしい。屋根の耐荷重と照合する」
ドラゴンは気まずそうに答えた。
「……最近、旅の食べ歩きで……少し増えて……
正確には……量っていない……」
美月が天を仰ぐ。
「屋根が死ぬ未来しか見えない!」
しかしドラゴンはしょんぼりしつつも続けた。
「宿が取れず困っているのだ……
人間界の夜風は気持ちよくてな……
できれば、ここで休みたいのだが……」
勇輝は書類を閉じ、思案した。
「……せめて荷重を分散できる場所に誘導すれば……
もしくは補強を――」
そこへ、市長が非常に軽快な足取りで登場した。
「おやおや。今日の来庁者はドラゴンか。
楽しそうだねぇ」
美月はすかさず怒鳴る。
「楽しそうじゃありません!! 屋根が危ないんです!!」
市長はにこやかに頷いた。
「うん、大丈夫大丈夫。
ほら、あそこの“市長専用屋根台座”なら強度あるし」
勇輝が眉をひそめた。
「……市長専用屋根台座? なんですかそれ」
市長は胸を張った。
「昼休みに日向ぼっこしたくて作った」
「「勝手に!?!?」」
【奇跡の強度】
しかし、実際に確認するとその台座は
・市長の謎のこだわりで
・やたら分厚い鉄骨フレーム
・耐荷重オーバースペック
・“災害レベルの突風にも耐える”設計
(本人曰く「昼寝中に飛ばされると困るから」)
という、とんでもない頑丈さだった。
勇輝が驚きながら言った。
「……これなら、ドラゴン一体分は耐えられる……」
ドラゴンも感動していた。
「この屋根……人間の力とは思えん……」
美月も放心していた。
「いや……市長の発想が人間じゃないんですよ……」
【宿泊決定】
勇輝が改めて手続きの確認をとる。
「では、“市長専用屋根台座”への一泊滞在として処理します。
朝になったら安全確認後、撤去してください」
ドラゴンは丁寧に頭を下げた。
「恩に着る。ひまわり市は本当に良い街だ……」
美月は力なく笑った。
「……台座だけは本当に奇跡……」
市長は満面の笑みで手を振った。
「ドラゴンくん、夜は冷えるから風邪ひかないようにねー」
「いや風邪ひかないでしょうこの体で!!」
こうして、また市役所屋根に“とんでもない宿泊客”が増え、
ひまわり市の夜は今日もにぎやかになった。




