第174話「異界観光パンフ、魔王領版と精霊界版、デザイン思想が真逆すぎる問題!」
――ひまわり市役所・観光振興会議室。
朝の会議室には、なぜか魔王領と精霊界の二つの使節が同時に鎮座していた。
その中央で、勇輝と美月は完全に胃痛の顔になっていた。
「主任……なんで今日の“パンフレット共同制作会議”、
魔王領と精霊界がまとめて来てるんですか……?」
「俺も聞きたい……」
魔王領代表ラザムが分厚い冊子を机に叩きつけた。
「見よ! これが我々魔王領が誇る“力の観光パンフ”だ!!」
続いて、精霊界の長老がふわりと光の冊子を置く。
「そしてこれが、風と自然と調和する“精霊界パンフ”だ……」
美月は二つを見比べて絶叫した。
「……方向性、真逆!!」
【魔王領版・パンフの主張】
魔王領のページは――
・黒と赤がベース
・見開きで巨大な魔物が咆哮している
・「観よ、力を」など豪語がページいっぱい
勇輝が眉をひそめた。
「……観光客逃げません?」
ラザムは胸を張った。
「威厳が大事だろう!」
美月がツッコミを入れる。
「威厳を感じる前に命の危険を感じますよ!」
【精霊界版・パンフの主張】
精霊界はというと――
・白と薄緑の淡い色彩
・ページごとに風の線がふわふわ飛んでいる
・“空白の美”を大切にしすぎて、情報がほぼ読めない
勇輝は言う。
「……情報量、スカスカすぎませんか?」
長老が誇らしげに答える。
「情報は風のように受け手に委ねるものだ」
美月が机に突っ伏した。
「委ねすぎぃ……!」
【合同パンフ制作・地獄の幕開け】
勇輝がファシリテーションを開始した。
「では、双方の良さを生かして“合同パンフ”を――」
ラザムが即座にさえぎる。
「黒を基調にすべきだ! 力こそ観光!!」
長老も負けじと杖を鳴らした。
「透明感ある白が主役だ。色は風の妨げ!」
「「譲る気ゼロ!!!」」
美月の悲鳴が会議室に響いた。
【まさかの“混ぜ技”実行】
勇輝は深呼吸し、タブレットに仮デザインを表示した。
「……では、黒と白、両方使う。
中央に白い余白で精霊の流れを描き、外枠を魔王領の黒で締める。
そこに“ひまわり市の黄色”でアクセントを入れて――」
ラザムと長老が同時に身を乗り出した。
「「それだ!!」」
美月は目を丸くした。
「え、今の案で!? 急に!? 一致早っ!!」
ラザムが腕を組む。
「人間は色彩の戦いを仲裁するのが得意なのか……?」
長老もうなずく。
「うむ……風を乱さぬ配色だった」
勇輝は苦笑した。
「いや、ただの配色理論です……」
【完成】
こうして、魔王領の“力感”と精霊界の“流麗さ”が奇跡的に共存した
異界合同観光パンフレット(試作版)が完成した。
美月が感動しながら言う。
「……すごい。これなら観光客も怖くないし読めるし綺麗!」
ラザム「力は感じるし」
長老「風も通るし」
「「完璧だ!!!」」
市長がのんびり入室した。
「お、なんだか名作パンフができたみたいだねぇ。
よかったよかった。あとは配布……あ、そうだ」
勇輝と美月「?」
市長が平然と言った。
「――これ、実際の印刷費が倍になるから予算増やしてね」
「そこおおおお!!!」
「配色より現実的問題!!」
こうして、異界合同パンフ制作の地獄会議は
何とか、笑顔(と悲鳴)で幕を閉じた。




