第172話「精霊長老、まさかの“行政手続き”に物申す!」
――ひまわり市役所・異界交流受付。
朝の窓口は少しバタつき気味。
今日は“精霊界からの代表団”が来庁する予定で、職員たちは緊張していた。
勇輝と美月も、異界連携チームとして準備に走っていた。
「主任。今日来る精霊界の長老って……かなり偉いんですよね?」
「らしいな。『数百年生きている』『風を読むだけで天気を変える』など、色々聞くが……実際どうかはわからん」
「いや、どれも規模でかすぎません? 市役所に来ていい存在なんですか?」
「来るらしい」
「せめて“来ても問題ない存在”にしてくださいよ!」
そんな会話をしていると――。
市役所の自動ドアが、強風のような気圧で押し開けられた。
「……入るぞ、人間の役所よ」
ふわりと光の粒をまとった老精霊が、杖をつきながら来庁した。
背後には、若い精霊の付き人たちが慌ててついてきている。
美月が小声でつぶやく。
「……本当に来ちゃったよ……市役所に入っていいんだ……精霊長老……」
勇輝は姿勢を正した。
「ようこそ、ひまわり市へ。申請手続きについてご案内します」
長老はゆっくりうなずき……だがその眉がわずかにひそんでいる。
「うむ。まずは言わせてもらおう。――貴様らの手続き、字が小さすぎる!」
付き人たちが一斉にうつむいた。
勇輝も固まった。
「……字が?」
「小さいわ! この老いさらばえた眼には読めん!
精霊界の書式はもっと風の流れを感じる書体なのだ!」
美月が思わずツッコミを入れる。
「いや、風の流れで書類読めるの長老だけでしょ!?」
長老は杖を鳴らし、怒りの風を巻き起こした。
【市役所ロビー・突風発生】
突如、ロビーの書類がふわりと舞い上がり始める。
「きゃっ!? 書類が吹き飛ぶー!」
「ちょ、ちょっと待ってください長老! 全部分野別に仕分けしてあるんで飛ぶと地獄なんですよ!!」
美月が必死に書類を追いかけながら叫ぶ。
「主任! どうするんですか!? 暴風のクレーム処理とか聞いたことないですよ!」
「……落ち着け。まずは要望を聞く」
勇輝は長老に向き直った。
「長老。手続きのどの部分が読みにくいのでしょうか?」
長老は再び杖をつき、風を弱めた。
「この“申請理由”欄だ。ここに小さく、ちまちま……実に人間らしい。風が通らん!」
勇輝は深くうなずいた。
「つまり、大きな欄を設ければ解決する……ということですね?」
「そうだ。もっと伸びやかに書かせよ。風を感じるほどにな!」
美月がひそひそ声で言う。
「……風を感じる理由欄ってなんですか? デザインの方向性迷子になりません?」
「気にするな。要望は聞くべきだ」
【書式改善・緊急対応】
勇輝はタブレットで新しい書式案を起案し、その場でフォーマットを拡大。
「申請理由」欄を大きくし、文字サイズも変更した。
「長老。こちらが修正版です」
長老が目を細め、風をそっと吹かせる。
用紙がふわりと揺れ――。
「……うむ。風が通った。よい」
美月がほっと息をついた。
「よかった……今日は書類の嵐で終わるかと思った……」
長老は満足そうにうなずき、受付へと向かった。
「ではさっそく申請しよう。目的は“森林祝福祭の協定更新”である!」
「すごい大事な案件じゃないですか!
字が小さいとか言ってる場合じゃなかったですよね!?」
そこへ、市長がゆっくり現れた。
「ん? 何か風が吹いてないか? 換気でもしたのかな?」
美月が即座に突っ込む。
「市長ーーー!! 精霊長老が来てたんですよ! ちゃんと把握しててください!!」
市長は穏やかに笑いながら言った。
「いやぁ、今日もにぎやかでいいことだ。
風通しの良い市役所だね!」
「言い方ぁぁぁ!!」
こうして、精霊界との“書式改定”騒動はなんとか終息した。




