第169話「温泉街の湯けむり暴走、精霊のストライキ!?」
――ひまわり市の温泉街。朝の静けさが町を包んでいたはずだった。
「主任! 温泉の煙が止まりません!」
美月が息を切らして、異世界経済部オフィスに飛び込んできた。手には手書きの温泉管理表がぎっしり。
勇輝は書類の山を横目に、眉をひそめる。
「止まらない、というと?」
「湯けむりの精霊たちが……昨日の夜から一斉にサボタージュしてるんです! 湯船が熱くなりすぎたり、逆に水が足りなかったりで、お客様が混乱してます!」
「……精霊たちのストライキか」
勇輝は立ち上がり、魔法の温泉監視装置を手に取る。画面には湯けむり精霊たちがピョンピョンと飛び回る様子が映っていた。
「美月、加奈も一緒に現場へ行くぞ」
「は、はいっ!」美月が小さく飛び跳ねる。
加奈もすぐに支度を整え、勇輝と共に温泉街へ向かった。
――温泉街の中心、露天風呂前。
湯けむり精霊たちは、昨日までの穏やかな動きを忘れたかのように大暴れしていた湯の温度計は振り切れ、蒸気が高く舞い上がる。
美月が露天の縁で手を振る。
「お願い、落ち着いて!」
勇輝は監視装置を駆使し、精霊たちの位置を確認する。
「温度差を均一にする。精霊たちに指示を出すぞ」
だが精霊たちは言うことを聞かず、勝手に湯船を混ぜたり、煙を高く吹き上げたりする。
加奈はお客様を安全な場所へ誘導しつつ、精霊の注意を引く。
「こっちの湯船は安全ですよ! 順番に入ってください!」
美月は浴衣姿の観光客を避けながら、湯けむり精霊に呼びかける。
「頼む……協力して!」
――その時、湯船の底から巨大な湯煙の渦が立ち上がった。
「うわっ、これ……温泉精霊の暴走渦だ!」
勇輝は深呼吸し、精霊たちの中心に魔法光を放つ。
「美月、加奈、精霊を一斉にまとめろ!」
美月は精霊たちの動きを読みつつ、声を張った。
「みんな、湯加減を均等にするんです! わかってますよね!」
精霊たちは低く唸りながらも、少しずつ動きを制御されていく。
加奈は湯船の温度を調整し、蒸気を風向きに沿って流す。
「お客様、もう少しで安定します!」
――数分後。
湯けむり精霊たちは落ち着きを取り戻し、温泉の温度も元通り。観光客はほっと息をつき、歓声が湯気の中に響いた。
美月は肩で息をしながら言った。
「はぁ……今日の湯けむりもすごかった……」
加奈が笑いながら答える。
「でも、これで温泉街の営業は大丈夫ですね」
勇輝は湯煙の向こうを見やり、深呼吸した。
「ひまわり市の温泉は、今日も無事だ。明日はもっと不思議なことが起きるかもしれないけどな」
――その時、市長がゆったりと現れた。
スーツの袖をまくり、手には湯桶を持っている。
「ふむ……熱いのも悪くないな」
勇輝は苦笑しながら答えた。
「市長……そんなことを言っている場合ですか」
「見て楽しむのも仕事のうちだからな」
市長は笑みを浮かべ、湯けむりの渦を眺めた。
美月が湯船の端から手を振る。
「主任! 次は何が来るんですかー!」
勇輝は深いため息とともに、しかし少し楽しげに応えた。
「……まあ、ひまわり市らしい騒動だな」
――こうして、温泉街の湯けむり暴走事件は、笑いと混乱の中で無事収束した。




