第165話「異界コンビニ、深夜の大騒動!」
――ひまわり市の静かな夜。
……のはずだった。
「主任! 大変です!」
美月が息を切らして異世界経済部のオフィスに駆け込む。手にはチラシとメモがぎっしり。
「何だ、美月。どうした?」
勇輝はデスクから顔を上げ、落ち着いた声で尋ねる。
その視線の先で、窓の外の町が微妙に光っていた。
「……異界コンビニが、開店したらしいです!」
「異界コンビニ?」
勇輝の眉が少し上がった。
「ええ、夜中に突然、建物が出現したんです。入口には“魔法使い歓迎”って……もう、入った人が帰ってこないって噂もあるんです!」
「……ふむ、なるほど」
勇輝は立ち上がり、デスクに置かれた地図を広げる。
「美月、加奈も連れて現地に向かう。夜間の混乱は早めに収めたほうがいい」
「は、はいっ!」美月が小さく飛び跳ねる。
加奈もすぐに支度を整え、勇輝と一緒に外へ出た。
――町の中心、異界コンビニ前。
光る看板には「WELCOME! 異界コンビニ」と大書き。だが、その光の下では異世界住人たちが既に大混乱。
「わぁっ! スライムが棚に入り込んでる!」
美月の声に、勇輝が振り向く。
棚の間でスライムたちが商品をぐちゃぐちゃにしている。
パンが溶け、ジュースが跳ね、レジからは不思議な魔力で小銭が飛び散っていた。
「ちょっと待ってください! お客様、商品は……ああ、溶けてる!」
加奈が慌ててスライムを押さえようとするが、逆に跳ね返されて小さなゼリー状のものに包まれてしまった。
「落ち着け、落ち着け……」
勇輝は深呼吸してから、周囲の異界住人に声をかける。
「エルフの皆さん! 商品はサイズを間違えないように! 魔族の皆さん! ポイントは通常の計算にしてください!」
「……通常? そんなルール、理解できないぞ」
巨大なパンを抱えたエルフ客が不満げに言う。
「いや、だから説明してるでしょ!」
美月は叫びながらも、棚に飛び乗り、スライムを押さえる。
――その時、店内の魔法レジが突然暴走。
「キャッ、何これ!」
ジュースやパンが空中を飛び交い、勇輝と美月、加奈の三人は思わず避ける。
「魔法レジ……やっぱり異界仕様か」
勇輝は手元の魔法調整棒を取り出し、魔力を抑えようと試みる。
「せーの!」
美月と加奈も協力し、飛んでくる商品を押さえつつ、スライムやエルフ客を誘導。
その混乱ぶりは、まるでお祭りのようだった。
――しばらくして。
「ふぅ……やっと落ち着いたかな」
勇輝が周囲を見渡すと、異界コンビニは無傷、だが中はめちゃくちゃ。スライムたちは元の位置に戻され、エルフ客はサイズを調整して笑顔。魔族も大人しくポイント計算に従っている。
美月は汗だくで倒れ込む。
「はぁ……あーもう! なんで夜中にこんなことが!」
加奈も微笑みながら言った。
「でも、これで異界コンビニ、町の新名物になりそうだね」
――その時、市長が颯爽と現れる。
「ふむ、面白いじゃないか」
勇輝は苦笑い。
「市長……こんな時に、なぜ現れるんですか」
「見て楽しむのが俺の仕事だからな」
市長は笑みを浮かべ、コンビニの光に目を細めた。
美月が天井の棚から落ちそうなジュースを受け取り、勇輝に向かって叫ぶ。
「主任! 次はどんな騒動が来るんですかー!」
勇輝は深いため息とともに、しかしどこか楽しげに応えた。
「……まあ、ひまわり市らしいってことだな」
――こうして、夜の異界コンビニ大騒動は、笑いと混乱のまま幕を閉じた。




