第148話『天界の気象官、ひまわり市へ――“晴れすぎ注意報”』
◆朝 ―― ひまわり市・職員寮前
朝日がやわらかく差し込み、ひまわり市は穏やかな青空に包まれていた。
勇輝は出勤途中、空を眺めて首をかしげた。
「……なんか、雲が一つもないな」
まるで絵の具で塗りつぶしたみたいな快晴。
ひまわり市では珍しいわけではないが――今日はやけに“完璧”だった。
そこへ、美月が自転車で滑り込む。
「勇輝さん! 今日、晴れすぎじゃないですか!?
空の色、フォトショップで加工したみたいになってますよ!」
「町の気象じゃなくて天界の仕業じゃないよな……?」
勇輝が呟いた瞬間――
ぱらぱら。
青空から、紙切れが降ってきた。
勇輝が拾うと、そこにはこう書かれていた。
『天界気象庁からの臨時おしらせ
本日、晴れ度+120% の予定です。
※地上の皆様にはご迷惑をおかけします』
「……嫌な予感しかしない」
◆ひまわり市・市庁舎前
まばゆいほど明るい空の下、
境界ゲートに天界特有の光のもやが現れた。
そこから現れたのは――薄い水色のローブをまとい、
やたら長い気象計を抱えた白髪の青年。
「お、おはようございます! 天界気象庁・研修官の
アスール=キリエルですっ!
本日は地上の気象観測に……その……来ました!」
勇輝は肩を落とした。
「ああ……絶対、あんたがやったんだろ“晴れ度+120%”」
「す、すみませんっ!! 調整つまみをちょっとだけ回したつもりが……あの……全部MAXに……」
美月が目を見開く。
「全部!?」
アスールはしょんぼりとうなだれた。
「天界の天気って、地上にも微妙にリンクしちゃうので……
気づいたら“快晴すぎる快晴”になってまして……」
勇輝「やっぱりか……!」
◆昼 ―― 商店街
晴れすぎた空は、だんだんと“異常”の域に入っていた。
●洗濯物:10分で完全乾燥
●ソーラーパネル:発電量が予想の170%
●公園の木:光合成しすぎて葉っぱがキラキラしている
●アイス屋:売り切れ
町中、ちょっとした“太陽バブル”状態だ。
美月は商店街でカメラを回しながら叫ぶ。
「これは『ひまわり市チャンネル』史上最高のトピックスですよ……!
でも……やりすぎると火事とか起こりそうで怖い……!」
アスールは地図を見ながら必死に走り回る。
「日射角、過度な反射光、風の偏り……!
うわぁ、天界基準で考えちゃってた……!」
勇輝は額に手を当てる。
「頼むから地上基準で頼む……町がトーストになる……!」
◆午後 ―― 河川敷
「調整するには、ここがベストポイントですっ!」
アスールは巨大な天界気象計を地面に突き立て、
空へ向けて魔力を流し始めた。
が――
アスール「うわあああ! 調整つまみ固まってるーっ!!」
勇輝「なんで毎回そのつまみなんだよ!!」
美月「天界製って繊細なんでしょうか!?」
アスールは泣きそうな声で叫ぶ。
「すいません! ぼく……天界でも落ちこぼれで……
“晴れ担当”の研修もまだ半分なんです……」
勇輝はため息をつき、肩を軽く叩いた。
「落ちこぼれでもいい。やれるだけやろう。
……ひまわり市は、努力してる人に優しい町だ」
アスールの目にうっすら涙が浮かぶ。
「ゆ、勇輝さん……!」
勇輝「さっさと直さないと暑くて倒れるけどな!」
「ですよね!」
◆調整――そして夕暮れ
アスールが深呼吸し、気象計に手を添える。
「天界式・降光調整――
“セレスティアル・シャットダウン”!」
空が一瞬だけ虹色に揺れ、
次の瞬間――
ふわりと涼しい風が吹き始めた。
空の青さがゆっくりと“普通の晴れ”に戻っていく。
美月が歓声をあげる。
「戻った……! ちょうどいい晴れになってます!」
勇輝も胸をなでおろす。
「ふぅ……なんとか落ち着いたか」
アスールはへたりこみながら笑った。
「……地上の天気って、すごく難しいですね」
勇輝「こっちにはこっちの空気があるんだ。
お前の経験と天界のやり方が混ざれば、もっと良くなるさ」
アスールは小さくうなずく。
「次は……ちゃんと研修を終えてから来ます!」
美月がにっこり笑う。
「また来てくださいね! ひまわり市は歓迎しますから!」
夕日の中、アスールは何度も手を振りながら天界へ戻っていった。
その背中は、サクラと同じように
少しだけ成長した“天界の新人”の姿だった。




