第147話『天界郵便、ひまわり市へ――迷子の祝福便』
◆ひまわり市・朝の商店街
春の風がやわらかく吹き抜ける。
いつものように穏やかな朝を迎えていたひまわり市に、ちょっとした異変が訪れた。
――鐘の音がする。
「……あれ? この音、教会の鐘じゃないよね?」
商店街を歩いていた勇輝が顔を上げた瞬間、
空から小さな金色の封筒がふわりと落ちてきた。
「手紙……? 差出人は……“天界郵便第七課”?」
拾った途端、封筒の輪郭がじんわり発光し始める。
「うわ、これ絶対普通じゃないでしょ!」
通りかかった美月がスマホ片手に目を丸くした。
「天界郵便って、あの“祝福便”を扱うところですよね!?
誰宛なんですか、それ!」
封筒の裏には小さく書かれていた。
“宛先:ひまわり市のだれか”
「雑っ……!」
勇輝と美月のツッコミが揃った。
◆市役所・会議室
封筒は市庁舎に持ち込まれ、緊急ミニ会議が開かれた。
市長は封筒をじっと見つめる。
「天界郵便の祝福便は、本来“特定の幸運を届ける”特別郵便。
普通は受取人の名前がちゃんとあるんだが……」
加奈が眉を寄せる。
「宛先が“ひまわり市のだれか”って、どういうことなんでしょうね?」
勇輝がためらいながら問いかけた。
「もしかして……天界のミス?」
「可能性は高いねぇ。天界は仕事が丁寧だが、時々ぽろっと抜ける」
市長はため息をつきつつ、封筒の紐をほどこうとした――が。
パァンッ!
封筒が勝手に開き、中から小さな光の粒が飛び出した。
「きゃっ!?」
光はそのまま会議室を抜け出し、
市役所内を、ぴゅんぴゅん飛び回りはじめた。
「ちょっと!? 待ってーっ!」
美月が走り出す。後ろに勇輝も慌てて続く。
◆市役所・ロビー
光の粒はロビーを旋回したあと、職員の一人にふわりと触れた。
――ぽん。
「えっ!? 腰痛が……消えた……?」
職員が驚きの声をあげる。
美月が大急ぎでメモを取る。
「回復効果!? これ、祝福便が“届け先を探してる”ってことですかね!?」
そのとき、光は次のターゲットへ飛ぶ。
市役所の入口にいた来客の靴紐へぽん。
「おわっ! 靴紐が勝手に結ばれた!?」
「便利だぁ……」
次は相談窓口の植物へぽん。
「えっ、枯れかけてた観葉植物が急に元気に……!」
美月が叫んだ。
「完全に、“この町の困ってるもの全部に祝福を配ってる”状態ですね!」
勇輝は頭を抱えた。
「天界の郵便、仕事しすぎだろ……!」
◆午後・商店街
光の粒は市役所から飛び出し、商店街へ。
「うわぁ!? 店の看板が直った!」
「ん? さっきまで売れ残ってたパンが全部売り切れたよ!」
「え、昨日の占いで“大凶”って言われたのに、急に財布から千円出てきたんだけど!」
町はちょっとした“プチ奇跡祭り”に。
美月はカメラを回しながら喜ぶ。
「これは『ひまわり市チャンネル』大バズり間違いなしですよ!」
勇輝は息を切らしながら走る。
「まずい……祝福はやりすぎると天界規定違反だ……止めないと……!」
◆夕暮れ・河川敷
光の粒はゆっくり弱っていた。
勇輝が手を伸ばす。
「……もう十分だよ。届けるべき“だれか”は、この町全体だったんだろ?」
光は、まるでうなずくように、ふわりと揺れた。
そして――静かに勇輝の掌で光を失い、ただの紙切れに戻る。
美月が息をのみながら言った。
「……ひまわり市、全部が受取人だったんですね」
勇輝は微笑む。
「まあ……うちの町、たまに色々あるからな。
こういう日があっても、罰は当たらないさ」
封筒は風に乗り、さらさらと消えていった。
◆天界・郵便課(後日)
天界第七課の職員たちは、消えた封筒の記録を見て青ざめていた。
「えっ……!? あの祝福便、地上に落としちゃったの!?
だ、だれ宛で……?」
「ひまわり市……全域……」
「全域!? 逆に効率いいのでは……?」
「いや、ダメなんだけど……!」
混乱する天界郵便課。
その奥で、研修を終えたばかりのサクラが小さくつぶやく。
「……ひまわり市、また行きたいなぁ……」
どこかくすぐったい余韻を残しながら、
“迷子の祝福便”はひまわり市に小さな幸せをもたらして終わった。




