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異界に浮かぶ町、ひまわり市 ー転移した山奥のまち、異世界対応中!ー  作者: ひまわり あおい


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第143話「別れと継続の境界線」

 協定は、約束だ。

 約束は、続けるためにある。

 でも時々、約束は“別れるための紙”にもなる。


 住民協定 改定協議会(第1回)。

 議題の紙に書かれていたのは、胃に優しくない一行だった。


『別れと継続の境界線』


「……境界線って言葉、最近多くない?」

 勇輝は紙を見つめた。


 美月が言う。


「課長、最終回みたいなタイトルです」

「最終回じゃない! 役所は終わらない!」


 加奈が静かに言った。


「“別れ”って、誰が出ていく話?」

「出ていくというより……

 “共存をやめたい”って言い出す人が出始めた」


 市長が通りかかり、さらっと言った。


「別れは自由だ」

「自由だけど、雑にやると町が割れます!!」


 協議会の会場は、市役所の中会議室。

 代表者は少数に絞った。大人数だと燃えるからだ。


町内会代表(地元)


移住者代表(新規)


異界住民代表(魔族・エルフ・ドワーフ)


自由交易派代表(協定破棄を言い出した側)


市役所(勇輝・総務・市長)


加奈(補佐・空気調整)


 美月は広報として後ろに控える。

 今日は実況禁止。本人も分かっている顔だ。


 総務が開会を宣言する。


「本日は協定改定に向け、

 “離脱”の扱いについて協議します」


 その言葉だけで、空気が冷えた。


 自由交易派代表が言った。


「協定は重い。

 我らは、町に縛られたくない者もいる。

 離脱の道を用意しろ」

「離脱って、住民じゃなくなるってこと?」

 移住者代表が聞く。

「そうだ。

 住民の義務を負わず、取引だけする」

「それ、都合よくない?」

「都合が良いのは、自由の特権だ」


「言い方ぁ!」


 勇輝は、すぐに地雷を避けた。

 否定から入ると分断が進む。


「離脱の道を用意するのは、現実的です。

 でも、条件が必要です」


 ドワーフが頷く。


「条件を数値化しろ」

 魔族が言う。


「面子を守れ」

 エルフが言う。


「言葉を整えろ」


「全部来た!」


 勇輝はホワイトボードに書いた。


今日決めること


“離脱”とは何か(定義)


離脱できる条件


離脱した人の扱い(サービス・取引・治安)


“戻る”道はあるか


「離脱を禁止すると、地下に潜る。

 潜ると危険が増える」

 勇輝の言葉に、町内会代表が渋い顔をしながら頷いた。


「……確かに、見えないのは怖い」


 まず、定義。

 ここで曖昧にすると揉め続ける。


「住民協定の“当事者”には三種類あります」


当事者の区分(案)


A) 住民(町に住む/行政サービス対象)

B) 準住民(長期滞在・就労/一部サービス)

C) 来訪者・事業者(取引・観光/基本は自己責任)


「離脱したい人は、AからCへ移りたい、ということですね?」

 総務が確認する。


 自由交易派代表が頷いた。


「そうだ。

 我らは“住む”つもりはない。

 商うだけだ」

「なら“住民票”や“生活ルール”の適用範囲も変わる」

「それで良い」


 加奈が小さく言った。


「住む人と、商うだけの人、

 同じルールだと無理が出るよね」

「そう。だから区分が必要」


 次に、条件。

 ここが最大の境界線だ。


 町内会代表が言った。


「離脱するなら、責任も離脱してもらう。

 事故が起きたら困る」

 商店街代表(今日は代理参加)が言う。


「来訪者でも、最低限のルールは必要だ。

 詐欺や危険物は困る」


 勇輝はここで、線を引いた。


離脱しても守る最低限(共通ルール)


暴力・呪いの禁止(町の治安)


危険物・魔導具の登録(事故防止)


取引の表示義務(詐欺防止)


トラブル時は調整室の手続きに従う(出口)


「それは協定と同じでは?」

 自由交易派が眉をひそめる。


「“生活ルール”は外す。

 でも“安全と公正”は外せない」

「それが境界線か」

「そう。境界線だ。

 ここを外すなら、この町で商う資格はない」


 魔族代表が頷いた。


「治安は面子だ。

 守れぬ者は信用を失う」

 ドワーフが頷く。


「合理的だ」

 エルフが静かに言う。


「言葉にして残せ」


 次に“扱い”。

 離脱した人は、行政サービスをどこまで受けるのか。


 総務が淡々と整理する。


住民(A):住民票・福祉・医療連携・ゴミ・学校など


準住民(B):就労・滞在証明・限定サービス


来訪者(C):観光案内・相談は可、ただし生活保障は無し


「冷たい」

 移住者代表が言う。

「冷たいけど、線がないと崩れる」

 勇輝は正直に言った。


 加奈が柔らかく言う。


「でも、困ったら相談はできるんだよね?」

「できる。

 “命に関わる相談”は断らない。

 ただ、生活を丸ごと支える制度は住民向けだ」


 会場が少し落ち着いた。


 最後に、“戻る道”。

 これがないと、離脱は断絶になる。


「戻る道は作る」

 勇輝は言い切った。


再加入(戻る道)の条件(案)


一定期間のルール遵守(実績)


必要研修の受講(文化・生活・制度)


住む意思の確認(住居・就労など)


「戻れるなら、離脱も脅しにならない」

 市長が静かに言った。

「離脱を“戦いの札”にしないために必要だ」


 自由交易派代表は、しばらく考えた後、言った。


「……よい。

 離脱は自由。だが戻れるなら、敵対ではない」

「敵対にしたくない。

 町は続けたい人が多い。

 ただ、続け方が違うだけだ」


 協議会の結論は、“境界線”を言葉にすることだった。

 別れも許す。

 でも安全と公正は共有する。

 そして戻る道を残す。


 総務が議事録を読み上げる。


『住民協定改定(案):区分制度の導入

 A住民/B準住民/C来訪者・事業者

 共通最低限ルール:治安・安全・公正・調整手続き

 再加入制度の整備』


 美月が後ろで小さく息を吐いた。

 燃えにくい形になった。たぶん。


 加奈が勇輝に囁く。


「別れを認めるのって、怖いね」

「怖い。でも認めないと、もっと怖い形で別れる」

「……なるほど」


 会議が終わり、廊下に出たとき。

 自由交易派代表が振り返り、勇輝に言った。


「線を引いたな」

「引いた。

 線を引くのは、拒絶じゃない。

 共存の形を保つためだ」

「……分かった。

 我らも、線のこちら側で商う」


 その言葉は、小さな“継続”だった。


 市長がぽつりと言った。


「別れを恐れない町は、強い」

「強いけど胃が削れるんですよ!」


 ひまわり市役所は今日も、

 別れを制度にして、継続の道も残しながら、ちゃんと開庁している。


次回予告


改定案が回覧に乗る。

反発も賛成も出る。だが最後に残る問いがある。

「それでも、町は続いていく」――約束の先の“日常”へ。

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