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異界に浮かぶ町、ひまわり市 ー転移した山奥のまち、異世界対応中!ー  作者: ひまわり あおい


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第128話「異界SNS炎上案件」

 異界に転移して以来、ひまわり市役所が学んだことがある。

 それは――火は消せるが、炎上は増えるということだ。


 朝。異世界経済部。

 いつもの開庁前の静けさ……は、なかった。


「課長!! やばいです!!」

 美月が机にスマホを叩きつけた。勢いがいつもより二割増し。

 この勢いは、だいたい“悪いニュース”の前触れだ。


「朝一で叩きつけるな。何がやばい」

「炎上です! 異界SNSで!」

「またかよ……何が燃えた」


 美月は画面を見せる。

 そこには、見慣れないハッシュタグが踊っていた。


#ひまわり市役所フリマ弾圧

#ドラゴン空輸禁止は差別

#召喚陣禁止=文化破壊


「……フリマのやつか」

「昨日の“当日ルール”が、悪意の翻訳されました!」


 加奈が隣で眉をひそめる。


「弾圧って……そんなことしてないよね」

「してない。事故を止めただけだ」


 そこへ市長が通りかかり、さらっと言った。


「弾圧ではない。統治だ」

「言い方!! 市長、その言い方が燃料です!!」


 炎上の火種は、一本の投稿だった。


『市役所がフリマを潰しに来た!

召喚陣は禁止! ドラゴン空輸は禁止!

これって異界文化への弾圧じゃ?』


 投稿主は、フリマに来ていた観光客っぽい匿名アカウント。

 そこに、切り取られた写真が添えてある。


「禁止」の貼り紙(上半分だけ)


ドラゴンが遠くで不満そうにしている写真


召喚陣のチョーク絵(消されかけてる瞬間)


「……最悪の切り取り方だな」

 勇輝は深く息を吸った。胃が縮む音がした気がする。


 しかも、拡散の仕方が異界仕様だった。


「課長、これ見てください……“魔法リポスト”が付いてます」

「魔法リポスト?」

 加奈が首を傾げる。


 美月が説明する。


「異界SNSは、一定数拡散されると“共鳴”が起きて、

 見た人の感情がちょっと強めに乗るんです。

 つまり、怒りが怒りを呼ぶ……」

「最悪の設計だ!!」


 窓口の電話も鳴り始めた。


「市役所は異界差別してるんですか!?」

「ドラゴンの権利を守れ!」

「召喚陣を消すな!」


「権利って何だよ!! 空輸は危険だから止めたんだよ!!」


 勇輝は、まず“火の種類”を見極めた。

 炎上は感情だ。感情は事実では消えない。

 でも、事実がないと沈火の糸口すら作れない。


「美月、今燃えてる論点を整理」

「了解!」


 美月はホワイトボードに書き出した。


炎上論点(現状)


市役所がフリマを“潰した”


召喚陣禁止=文化弾圧


ドラゴン空輸禁止=差別


市長が“統治”と言った(←誰かが拾う)


「4はまだ出してないからセーフ!」

「今この部屋で言っただけだ! 拾うな!」


 加奈が言う。


「これ、ちゃんと説明したら分かる話だよね?」

「分かる。

 ただし、説明の仕方を間違えると増える」


 勇輝はここで、嫌な真理を思い出した。

 SNSの訂正は、だいたい燃える。

 そして――美月の訂正は、なぜか一番拡散する。


「……美月」

「はい! 訂正文、作りましょう!」

「落ち着け。訂正は最後の手段だ」


 美月がピタッと止まる。


「課長、私の訂正って、燃えます?」

「燃える。訂正が一番拡散する呪いがある」

「呪いって言いました!?」

「今だけ言わせろ!」


 勇輝は、対応を三段階に分けた。


事実確認(内部):何が起きたか、何を言ったか


関係者説明(現場):ドラゴン・出店者・運営代表に共有


外向け情報(広報):短く、冷静に、行動を添えて


「まず内部。昨日のルール、何を禁止した?」

「火器区画、通路2m、召喚陣禁止、空輸禁止、迷子対応……」

「よし。“禁止”だけが切り取られると悪になる。

 だから“目的”を先に出す」


 加奈が頷く。


「目的=安全だね」

「そう。安全は誰の味方でもある」


 次に、関係者説明だ。

 勇輝はその足で河川敷停留所へ行った。ドラゴン代表を呼び出す。


「炎上してる」

「炎上?」

「人間の火じゃない。情報の火だ」


 ドラゴン代表は鼻息を吐いた。

 その瞬間だけで風が起きる。小鳴きでも強い。


「我らが差別されている、と?」

「そう言われている」

「……我らは空を飛ぶ。危険ではない」

「危険なんだよ! 荷物が落ちると人が死ぬ!」


 ドラゴン代表は少し黙って、こう言った。


「なら、我らの誇りが傷つかぬ言葉で説明せよ」

「そこだ。

 “禁止”じゃなく“安全運用”として話す」


 ドラゴン代表が頷いた。


「必要なら、我らも声明を出す」

「ドラゴン声明!? それ、逆に強すぎない?」

「強いのは良いことだ」

「炎上には強すぎる火は危険だ!」


 市役所に戻ると、広報チーム(仮)が集まっていた。

 美月、総務、商工観光、そして加奈(なぜか広報要員)。


「方針は決めた。

 投稿は一枚。短く。煽らない。叱らない。

 “私たちはこうします”を入れる」


 美月がすぐテンプレを出す。


広報テンプレ(炎上時)


見出し(短く)


事実(1行)


目的(安全等)


具体対応(今後の運用)


問い合わせ先(窓口)


「よし。文章は俺が作る。

 美月は“拡散設計”を抑える」

「拡散設計……?」

「余計な言葉を削る。

 語尾に感情を乗せない。

 ハッシュタグを付けない」


 美月が真顔で頷いた。


「私がハッシュタグを付けたら終わるので付けません」

「自覚があるの偉い。悲しいけど助かる」


 そして出された広報は、こうなった。


【中央公園フリマのルールについて】


フリマの開催自体は停止していません(継続しています)


事故防止のため、火器・通路・空輸など安全ルールを当日設定しました


今後は事前申請と運営体制を整え、安心して楽しめる形にします

(問い合わせ:商工観光課/迷子は迷子センター)


 文章は淡々としている。

 反論しない。相手を責めない。

 言い訳もしない。行動だけ出す。


 加奈が小さく頷いた。


「これなら刺さらないね」

「刺さらないを目指す。刺さると増える」


 美月が投稿ボタンの前で手を震わせる。


「課長……押します……」

「押すな、誤爆するな、深呼吸しろ」


 美月は三回深呼吸して、投稿した。


 ……その五分後。


「課長!!!」

「今度は何だ!!」


 美月が真っ青で叫ぶ。


「投稿、拡散してます!!」

「よし、沈火に向かって――」

「違います!! 訂正が拡散してます!!」


 勇輝の胃が、静かに崩れた。


「訂正じゃない! 説明だ!」

「でもリプ欄が! 『言い訳乙』って!!」

「うわぁぁ!! いつものやつ!」


 加奈がスマホを覗いて言う。


「……でも、反応の中に“落ち着いた”人も増えてるよ」

「え?」


 確かに、コメントが変わり始めていた。


「空輸は危ないよね」


「召喚陣、子どもが踏んだら危ない」


「通路2mは必要」


「ドラゴン側も声明出してる」


「……ドラゴン声明、出したの!?」

 勇輝が叫ぶと、美月が頷く。


「出ました。

 『我らは空を飛ぶが、町の安全を守る。荷は河川敷へ降ろす』って」

「強いけど……意外と効くな……」


 加奈が笑った。


「“差別じゃない”って、当事者が言うと強いんだね」

「うん。役所が言うと“言い訳”に見えるが、

 当事者が言うと“合意”に見える」


 夕方。

 炎上は“完全鎮火”ではないが、火の勢いは落ちていた。

 窓口への電話も、罵声から質問へ変わる。


「次回のフリマ、申請ってどこでできますか?」

「火器区画ってどこですか?」

「ドラゴン空輸、いつならできますか?」


「……質問なら勝てる」

 勇輝は小さく呟いた。

 怒りを制度に落とせる。役所の得意分野だ。


 美月が机に突っ伏しながら言う。


「課長……私の訂正、やっぱり拡散しました……」

「拡散した。

 でも今回は“燃料”じゃなく“消火剤”になった。

 少しだけ成長だ」


 加奈がスポーツドリンクを渡す。


「広報、おつかれさま。

 今日はちゃんと“守る言葉”を出せたよ」

「……守る言葉……」


 市長が通りかかり、満足げに言った。


「よい炎上だった」

「炎上に良いも悪いもありますか!!」

「ある。町が学ぶ炎上だ」

「学びの授業料、高すぎるんですよ!!」


 ひまわり市役所は今日も、

 燃える言葉を冷やしながら、ちゃんと開庁している。


次回予告


炎上の鎮火策、その名も“ラジオ”。

市長、異界ラジオに出演して生放送で語る。

「市長、異界ラジオに出演する」――マイクが一番危険!

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