001 卵とパニックと役立たずの鑑定
「ぐわあああ!」
思わず叫ぼうとしたが、出てきたのはくぐもった鳴き声だけだった。俺の体、そんなにヤバい状態なのか?
いや、落ち着け、カイト。痛みは感じない。最後に覚えているのは、ゲーム画面と、部屋の隅の時計が示す「午前2:00」という数字、そして胸を焼くような痛みだ。
それで気絶したのかもしれないが、今のところ体のどこにも痛みはない。なのに、目を開けても、辺りは真っ暗闇だ。
自分がどこにいるのか、さっぱり分からない。というか、ほとんど身動きが取れない。何か硬いものに囲まれているみたいだ。いや、みたい、じゃない。文字通り、そう感じている。
俺は本当に何かに閉じ込められている。硬いが、少ししなる素材だ。外から聞こえるのは、遠くで風が唸るような、かすかな音だけ。
さて、一体どういう状況だ?誘拐でもされたか?
いや、現実的に考えよう。無職のゲームオタクを誘拐して、誰に何の得がある?
まあ、この状況がどれだけ不可解でも、やるべきことは一つ。脱出だ。
その時、ピシッというかすかな音が聞こえた。
おっ!俺が体を押し付けてみると、覆っているものにヒビが入り始めた。
よし、クエスト完了と行こうぜ!さらに力を込め、俺は勢いよく突き破り、頭から外へ転がり出た。
最高の自由だ!目の前に広がる光景は…空、一色。
ひび割れた暗い場所から残りの体を出し、足元を見る。
うおおおお?!なんで?!なんだよ、この足元の虚無は?!
ええと、失礼、なんで地面がないんですかね?うわ最悪だ、俺は小枝でできた巣の縁にいて、その巣自体が宙に浮く岩の縁にあるじゃないか!
風の音はここからだったのか?本能的に後ずさると、背中が何かにぶつかった。振り返って見てみる。
ん?これって…さっき俺が這い出してきたやつか?
うーん…なんでこれ、なんか…割れた卵の殻みたいに見えるんだ?いや、見えるだけじゃない。これ、卵だよな?
もっとよく自分を見てみる。
首がうまく動かない。それでも、視界の端に、自分の足らしきものが見える。
……小さな鳥の鉤爪。
腕を動かそうとしてみる。
……オレンジ色の産毛に覆われた、頼りない翼。
オ、オッケー、パニクるな!!!こ、これって、俺が思ってるアレじゃないよな?!
でも、そうだよな?!今ネットで大流行りのアレか?!
いや!ありえない!こんなこと起こるはずないだろ?頼むから、起きてないって言ってくれ!
もう一度見る。ヒヨコみたいな小さな翼がある。
意識を集中させて、動かしてみる。羽毛の生えた付属肢が、その通りに動く。
ああ。現実と向き合うしかない。どうやら俺は、鳥に転生してしまったらしい。
ありえない。だが、精神が崩壊しそうになったその時、強い風が吹き、俺は下の白い虚無に落ちそうになった。
ぎゃああ!やばい、やばいって!なんでこんな危険な場所にいなきゃならないんだ?!
ああ、そうか。俺は鳥だからか。鳥は高いところに住むもんだよな。ところで、俺も何か食べないと。
はっ?!なんて恐ろしい思考回路だ。
一瞬、現実が俺を追い越していった。こんな危険な場所じゃ、俺みたいな無垢なゲームオタクなんて、一瞬でモンスターの餌食だ!比喩的にも、文字通りにも!
こういう時は、狂ったように逃げるに限る。
戦う?ありえない。俺は根っからのインドア派だ。危険な何かに挑むなんて、絶対に無理。
ああ。今、自分がそれ(危険な何か)なんだったと思い出した。
よし。馬鹿なことを考えて時間を無駄にするより、安全な場所を探す方が賢明だろう。
だがどうやら、それには少し遅すぎたようだ。
俺が立っている巣が、不気味に揺れる。今度はなんだ?!
音と振動は上からだ。恐る恐る見上げると、空を覆う巨大な影が目に入った。
お、お母さん?それともお父さん?
どっちでもいいや。また混乱してきた。マジで、なんであんなにデカいんだ?!
あの飛んでいる生き物は、俺の何十倍も大きいはずだ。鷲の頭にライオンの体…グリフォンか?!ゲームで見たことあるぞ!
ああ。
グリフォンは近くの浮遊岩に素早く急降下し、翼の生えたトカゲのような生き物を鉤爪で捕まえ、まるでおやつでも食べるかのように丸呑みにした。
ご近所さん…なのか…?!
まあ、そういうのは後で考えよう。今の目標はただ一つ、隠れて生き延びることだ!
俺は全速力で巣の後ろに走り、乾いた藁の下に身を埋めた。
巨大な羽ばたきの音が遠ざかった時、ようやく落ち着くことができた。幸い、ちらっと見た限りでは、俺には気づいていないようだった。
ああ、死ぬかと思った。生まれて数分で死ぬなんて、最悪だ。
とにかく…少し落ち着きを取り戻した今、考えるべきことは山ほどある。
まず、俺はなぜ死んだのか?というか、よく考えてみれば、そもそも本当に死んだのかどうかすら定かではない。
俺は勝手に、死んで鳥に転生したと結論付けたが、死の瞬間をはっきり覚えているわけじゃない。最後の記憶が胸の激痛だったのは確かだ。もし死んだなら、それが原因だろう。
いずれにせよ、一番ありえそうな結論は、あの瞬間に死んで鳥に転生した、というものだ。そうでなければ、俺は生きていて、魂がこの鳥に憑依している、とかそんなところか。
まあいい。どっちにしろ、確かめる方法はない。ややこしい話はやめよう。証明されるまでは、俺は俺だと仮定しておこう。
というわけで、俺は今、鳥らしい。もはや疑いようもない。じゃあ、もし俺が鳥なら、さっき見たあのモンスターは何だったんだ?
うーん。状況からして、ただの腹ペコなご近所さんだったのかもしれない?ファンタジー世界の生物学の詳細は知らないが、自然界で動物が互いを食うのは珍しいことじゃないだろう。
もしこの世界がモンスターだらけなら、いつか俺も大きなモンスターになるってことか?そう考えると、少し気分が悪くなる。
実のところ、一つ特に引っかかっていることがある。俺がモンスターだという事実だ。「転生モノ」はネット小説で大人気だから、突飛な考えじゃないとは思う。
つまり、モンスターに転生したってことだ。
そこで問題は、俺は普通の地球のモンスターなのか、それともここは地球ですらなく、並行世界なのか?
さっき見た巨大なグリフォンからすると、後者の可能性が高いと思うが、そうなると生存難易度が跳ね上がるだろう。俺にとって何の得もない。
何が起きているのか分析するには、情報が足りなすぎる。
ああ、これが小説か何かだったら、お決まりの鑑定スキルでも持っているんだろうが…
<現在保有スキルポイント:100。スキル【鑑定 LV1】の取得に必要なスキルポイント:100。スキルを取得しますか?>
うおっ。は?…マジかよ。
感情の全くこもっていない、機械的な声が、突然頭の中に響いた。これは色々な意味で驚きだ。
まず、その声が頭の中で聞こえること。
次に、この「スキル」が存在すること。地球にこんなスキルシステムがないのは明らかだ。
ということは、ここは地球じゃない?多分、そうだろう。これで「俺は並行世界のモンスター」説が、ぐっと信憑性を増した。
いやいやいや。それより重要なのは、これが本物だってことだ。鑑定スキルが本当に存在する!やったぜ!こうでなくっちゃ!
ようやく、まともな異世界転生モノっぽくなってきたじゃないか!
答えはもちろん「イエス」だ!
<【鑑定 LV1】を取得しました。残りスキルポイント:0。>
どうやらスキルポイントを全部使い果たしたようだが、今は気にしないことにした。
そんなことはどうでもいい!早速、手に入れたばかりの鑑定スキルで周りを調べてみるぜ!
巣の近くの適当な岩を選び、意識を集中させながら【鑑定】と念じてみる。
成功した!情報がすんなりと頭に流れ込んでくる。
<岩>
…ん?待て、なんだ?これだけ?
いやいやいや。そんなはずないだろ?初めてだから失敗しただけかもしれない。もう一回…
<岩>
…は?マジでこれだけ?
いやいやいやいや。この石がただの石ころだから、価値のある情報がないに違いない!
今度は、巣の壁でスキルを試すことにした。これなら、俺がいる場所について何か教えてくれるかもしれない。
<巣>
……もう何も言うまい。
スキル名がわざわざ【鑑定 LV1】とレベルを明記している事実を、考慮すべきだった。要するに、レベル1のスキルでは、役に立つ結果は得られないということらしい。
レベルを上げれば改善されるかもしれないが、スキルポイントは全部使ってしまった。
くそっ!使えない能力に全部つぎ込んじまうなんて!
いや、別の見方をしよう。鑑定がレベル1でこの様なら、他のどのレベル1スキルも同じくらい役に立たなかったに違いない。そうだ、そう考えよう。じゃないと、やってられない。
うぐっ。ありえない。こうなったら、自分自身を鑑定してみるか。
<名無しのフェニックス>
……フェニックス?
んん?
「フェニックス」って出るとは思ってたよ。理論上、今の俺はそんな見た目だしな。炎のように燃えるオレンジの翼、くちばし、小さな爆発みたいな鳴き声…うん、納得だ。
でも「名無し」?
…は?
待てよ。
「名無しのフェニックス」?
目の前の画面にそう出てるのか?これって…俺のステータス画面か?!
前の人生では名前があったけど、今は鳥だから、名前がないってことか。
役立たずな鑑定スキルのことは、一旦置いておこう。何か役に立つことがあるとすれば、謎を増やすだけだ。使ったスキルポイントみたいに。
もっとポイントを貯めれば、もっとスキルが手に入るってことだよな?
だとしても、どうやって手に入れるのか、さっぱり分からないが。
レベルにスキルにスキルポイント、この世界はまるでビデオゲームみたいだ。
まあ、ちょっとは楽しいかもしれないな?今の俺に楽しむ余裕があるかは分からないが。
どうでもいい。腹が減った。
そしてこの感覚は、単なる思いつきじゃなく、腹の底からえぐられるような、本物の苦痛だ。
前の人生では、空腹は冷蔵庫まで歩くか、デリバリーを頼むことを意味した。
ここでは…唯一の冷蔵庫は眼下に広がる霧深い虚空で、唯一のデリバリーメニューは、俺を胃袋にデリバリーしたいモンスターのリストだ。
よし、大げさに考えるのはやめよう。この巣に何か食べるものがあるはずだ。だって、鳥の親が卵を孵化させて飢え死にさせるわけないだろ?…だよな?
限られたスペースを慎重に歩き始めた。巣は見た目より広く、絡み合った小枝や乾いた藁でいっぱいだ。俺の卵の殻の残骸以外、食べ物らしきものは何もない。死んだ虫も、奇妙な果物も、何もない。
どうやら俺の両親は、どっちも「スパルタ教育」派らしい。
となると…選択肢はない。
小枝を食う。
そう。これが今の俺の人生レベルだ。
スパイシーなカレーラーメンの味を知る人間から…
乾いた木の枝をかじる炎の鳥へ。
俺は恐る恐る、他より…汚れていないように見える小枝に近づいた。
小さなくちばしを開け、最初の一口をかじる。
…
…
うげええ。大惨事だ。
土に浸した段ボールを噛んだことがあるか?
それに冷たい灰の感触と、かすかな金属の風味を加え…それを千年間、石像の口の中で発酵させたような?
ない?
俺は今、それがどんな感じか知っている。
ただ不味いだけじゃない。
俺の過去の味覚細胞すべてへの攻撃だ。
喉が激しく拒絶しているのを感じた。まるで体がこう叫んでいるようだ。
「我らはフェニックス!灰の中から蘇る存在だ!木なんぞ食わんわ、このアホが!」
だが、俺にそんな贅沢を言っている余裕はない。
腹が減っている。
そして、木の毒で死ぬ前に、飢えで死ぬだろう…もしそんなものがあるなら。
だから、飲み込んだ。
苦労して。
多くの失われた尊厳と共に。
そして、震えるくちばしを舐めながら、自分に呟いた。
「これで死ななきゃ、俺は本当に永遠に生きるんだろうな」
希望を失いかけ、小枝の味のひどさを考えていた時、あるものに気づいた。
巣の隅、藁の山の下に隠れて、…苔があった。青白い緑色の苔だが、まるでホタルのゆっくりとした瞬きのように、ぼんやりと優しい光を放っている。
お?なんだこれ?
磨き上げられたばかりの俺の第一感は、明確だった。
「出番だぜ、役立たずスキル!【鑑定】!」
<光る苔>
…最高だ。説明ありがとうよ、キャプテン・オブヴィアス。
悔しさで叫びそうになったが、声を押し殺した。
自分の存在に注意を引いても意味がない。でも待てよ、光っている。ビデオゲームで光るものは、魔法的か放射性のどちらかだ。
俺が転生したフェニックスであることを考えれば、前者の方に賭けよう。
脈打つ苔をじっと見つめる。食い物か、毒か。どちらにせよ、空腹問題は解決する。他に選択肢はない。
近づいて、小さなくちばしで突いてみた。スポンジのようで奇妙な感触だ。
小さく一口かじる。味は…言葉にできない。9ボルト電池を舐めたような味に、刈りたての草の匂いを混ぜた感じ。美味しくはないが、不味くもない。ただ…奇妙だ。
小さな塊を飲み込み、待った。死ぬのか?余計な手足でも生えてくるのか?
突然、再びテキストが現れた。
【小霊苔を摂取しました。】
【HPとMPがわずかに回復しました。】
【経験値を1獲得しました。】
【スキル『鑑定 LV1』の熟練度が上昇しました。】
俺はその場で凍りついた。
最後の三つの言葉が頭の中で響き渡る。「スキル熟練度が上昇」。
ということは…?
鼓動する心臓を抑え、急いで同じ苔の別の場所に意識を集中させる。
【鑑定】!
<小霊苔>:マナが豊富な地域に生育する苔。魔法生物にとって食用可能。わずかなエネルギーを供給する。
やった!やったぞ!
説明文が出た!短いが、説明文だ!鑑定は全くの役立たずじゃなかった、ただ…レベル上げが必要だったんだ!まるで、誰もが最初はレベル上げを嫌がるけど、最終的には最強になるMMOの最悪のスキルみたいに!
静かで、くぐもった笑いが胸の内で爆発した。これで全てが変わる。俺には今、明確な成長の道筋が見えた!
全く新しい目で巣の中を見渡した。もはやただのゴミの山じゃない。経験値と熟練度の宝の山に変わった!小枝一本、葉っぱ一枚、塵一つが、潜在的なターゲットだ!
すぐに始めた。
小枝に【鑑定】。
<乾いた小枝>
…まあ、そうだろうな。でも熟練度は確実に上がった!
割れた俺の卵の殻に【鑑定】。
<フェニックスの卵の殻(残骸)>:伝説の生物の卵の残骸。わずかなマナの痕跡を含む。摂取可能。
摂取可能?!
一瞬もためらわなかった。俺は自分の殻のかけらを力強く突き始めた。驚くほど硬かったが、数回の試みの後、小さなかけらを割って飲み込むことができた。ザラザラして乾いていて、喉を引っ掻きながら落ちていった。
【経験値を2獲得しました。】
【MPがわずかに回復しました。】
これだ!これが俺の生存戦略だ!
絶望的な興奮の波が俺を襲った。この巣にあるもの全部、鑑定して食ってやる!レベル1から抜け出すために、ひたすらレベル上げしてやる!
俺は狂ったように巣の中を歩き回り、目につくものすべてを突つき、鑑定し始めた。
<古いグリフォンの羽根>…<天空の小石>…<鳥のフン(食用不可)>…
よし、それは知れてよかった。
鑑定するたび、一口食べるたびに、スキルの熟練度は上がり、わずかな経験値バーが満たされていった。俺は弱く、怯えていて、おそらくあと一分で誰かのおやつになるところだった。
だが初めて、絶望を感じなかった。
俺は「ゲームのループ」を見つけたんだ。
そしてこのゲームオタクは、それをとことんしゃぶり尽くすつもりだ。