第7話 『亡国の秘密』
図書館に入ると、二人は周囲を見回して驚く。
天井がかなり高く、図書館内が一つの豪邸のようになっていた。
両側に設置された階段の先を目で追えば、三階まであることが分かる。
身体の小さな二人からすれば、この図書館が途轍もない広さに感じられるのも当然である。
「ほあー……」
ぽかん、と口を開けて気の抜けた声を漏らすレーア。
「すごい広さだが、どんな本を探すんだ?」
「えっ? えっと……考えてなかったかも……」
考えなしの行動はいつものことだと溜息をつき、シロンは近くにあった看板に目をやる。
「どうやら、本の色で種類が分けられているようだ」
シロンに続いて、レーアも看板を読んでみる。
「ふむふむ……緑表紙の歴史書なんて良いんじゃない? 星の力について何か分かるかも!」
「お前は赤表紙の童話でも読んでいた方が似合っていると思うが」
「ちょっ、ひどくない!?」
声を荒げるレーアの口に、シロンが手を当てる。
「図書館では?」
「し、静かに……」
人も少なく、騒ぎの元が幼い少女だったこともあり、周りは特に気にしていない様子だった。
「緑表紙は二階左側だな。行こう」
そう言って、シロンは左側の階段を上っていく。
二人が二階に着くと、一面緑表紙の本棚が並んでいた。
「こ、この中から探すの? 大変そう……」
「似たようなタイトルの本も多いようだし、見た目ほど苦労もしなさそうだな」
二人は一旦別行動になり、それぞれ興味を持った本を探してきてから、またこの場所に集合しようと決めた。
「んー……何かあるかなぁ……?」
「この辺りに目ぼしい本は無さそうだな。奥の方も見てみるか」
しばらくして、二人は見つけた本を抱えて先程の場所に戻って来た。
「どう? 何か見つかった?」
「二冊だけだ。読んでみるまで分からないが、あまり収穫があったとは言えないな」
シロンは、近くにあった机に持ってきた本を並べる。タイトルを見ると、
『亡国ラステアの謎』
『技術都市ラステアの衰亡』
二冊とも、ラステアという国についてのものだった。
「ラステア……亡国ってことは、今はもうないってことだよね?」
「そういうことだろう。お前の方は?」
すると、レーアは申し訳なさそうに一冊の本を机に置く。
「ご、ごめん……一冊しか見つからなくて……」
「問題ない。手がかりすら無かった現状、収穫があっただけでも上々だ」
レーアが持ってきた本のタイトルは『星追いの国』というものだった。
「星って文字を見た瞬間に、無意識に手に取っちゃったの」
「タイトルから察するに、間違いなくお前と何かしら関係性はあるだろうな。少し時間を取って、読んでみるとしよう」
二人は椅子に座って、それぞれ持ってきた本を読み始めた。
「あれっ? こっちの本もラステアって国の話みたい」
本を開いてから数分、レーアが困惑しながらそう言った。
「……貸してくれ」
レーアから『星追いの国』を借りたシロンは、彼女が持ってきたラステアについての本と並べて読み始めた。
「どう? 何か分かった?」
しばらくして、レーアが声をかける。
「ああ。色々とな」
レーアの問いに対し、シロンは本を閉じながら答える。
二人は本を戻すと、再び椅子に座った。
「さて」と前置きした後、シロンは読み取った内容をレーアに伝える。
「結論から言うと、技術都市ラステア……今はラステア跡地と呼ばれているそうだが、そこへ行けばお前の星の力に関する手がかりが得られるだろう」
「えっ!? ど、どういうこと……?」
「お前が持ってきた『星追いの国』だが、あれはラステアのことで間違いないだろう。技術都市ラステアは、多くの優秀な研究者たちによって高度に文明を発達させた国だったそうだ」
レーアは静かに耳を傾け、話を聞いている。
「強大なモンスターを一撃で屠る機械、飲むだけで人間離れした力を得られる薬品、魔法を使わず空を飛ぶことのできる乗り物……ラステアの栄華は永遠に続くと思われた」
小声で話してはいるとはいえ、ここは物音一つしない図書館だ。シロンの綺麗な声が響く。
「だが、ある日ラステアは滅びた。これほどの文明を誇った都市が一夜にして、だ」
突然の出来事に、レーアは声こそ上げないものの驚いた表情を見せる。
「三冊とも読み込んだが、どうにも滅亡の原因だけがはっきりしない。直前に、何かの研究をしていたことは分かったのだが」
「何の研究……?」
「明確な記述はないが、『星追いの国』というタイトルと星の力を求めたという内容。そして、そのような話は都市建国から滅亡までを記した『技術都市ラステアの衰亡』にも書いていなかったこと」
シロンが軽く口角を上げると、
「つまり、滅亡の原因となったであろう研究の内容は、お前のその星の力に関することだというわけだ」
と、そう告げたのだった。