第6話 『少女たちの王城訪問』
城下町の活気を肌で感じながら、スイーツを食べ終わった二人。
しばらくベンチで足をぷらぷらさせながらぼーっと通行人を眺めていると、二人の騎士が通るのが見えた。
それを見てハッとしたようにレーアが声を上げる。
「あっ、そうだ! お城に行ってみない?」
「私もそう言おうと思っていたところだ。フィース曰く、私たちでは一階までしか入れないらしいが、それでも行く価値は十分にあると思う」
シロンも頷いて賛成の意を伝える。
「そうと決まれば早速っ!」
ぴょん、とベンチから飛び降りて、城の方へ歩き始めた。
今、二人がいるのは南城下町だ。
城の入り口は南側にあるため、他の城下町を見に行く前に、先に城を見て回ろうという判断である。
城の特徴は、何といってもその高さだろう。建てられている土地が高台であることを除いても、城壁を優に超える高さを誇っている。
「い、威圧感があるね……」
城に入るためには長い階段を上る必要があり、二人は今その階段の前に立っている。
フィースの言っていた通り、城には誰でも入れるようで、騎士だけでなく冒険者であろう人も階段を歩いているのが見えた。
「よーし、登るぞ……っ!」
レーアは両足に星の光を集中させる。
要は、星に持ち上げてもらって歩くということだ。移動するといった方が正しいかもしれないが、ともあれ、これで足にかかる負担を減らすことができる。
「そんなこともできるのか」
シロンが感心したようにそう漏らした。
「全身持ち上げてもらえば空を飛んだりもできるんだけど……色んな人にじろじろ見られるの想像したら恥ずかしくて……」
「間違いなく注目されるだろうな。正しい判断だ」
しかし、足だけ持ち上げるといった使い方はしたことがないのか、ぎこちない歩き方になっている。
そうして階段を上り切った二人は、今度は城門の大きさに気圧されることになった。
「で、でかい……!」
「妖精の森の大木と良い勝負だな。これが人工物というのは驚きだが」
見上げても、なお頂点が見えないほどの高さという点で、妖精の森の喋る大木を二人に思い出させる。
城門の両端には騎士が立っているが、二人が城に入るのを止める素振りはない。むしろ、レーアが手を振れば、振り返してくるくらいの気さくさである。
「いざ、王城へ!」
レーアは拳を突き上げながら意気揚々と城へ入っていき、いつものようにシロンが後を追う。
城下町とは打って変わり、城の内部は気品溢れる雰囲気が漂っている。城下町の喧噪に慣れた二人は、その変化に戸惑いを隠せない様子だ。
入って正面には二階へ続く階段、その左右には通路がある。他にも見渡せばたくさんの物が見える。
中でも特徴的なのは天井から吊り下げられた大きなシャンデリア。それを視界の端に捉え、好奇心のままに見上げたレーアは、その光を直視してしまい、身体をぐらりと揺らす。
「大丈夫か?」
「うう……目がチカチカする……」
レーアを支えながら、シロンも辺りを見回す。
二階へ続く階段の前には、階段を塞ぐように立っている騎士がおり、フィースの言葉を思い出す。
「ふむ……確かに、二階へ上がることができる者は限られているようだな」
また、城内を歩いているのも整った身なりの者が多く、ほとんどが貴族のようだ。
「私たちみたいに、友達とお城見学って人はいないのかな?」
「いないことはないだろうが、少数ではあるだろうな」
二人がどこへ行くべきかと考えていると、ちょうど巡回中で、二人の近くを通りかかった騎士が話しかけてきた。
「君たち、大丈夫かい? 先程から辺りを見回しているようだけど、もしかして迷子に?」
「あっ、いえ! 初めてお城にきたのでどこに何があるのか分からなくて……!」
「なるほど、そういうことだったか」
騎士は全身に甲冑を纏っているため顔も見えないが、優しい声色は二人を安心させた。
「階段の横、左右に分かれて通路が見えるが、それぞれどこへ通じているか教えてもらっても良いだろうか」
シロンが尋ねると、騎士は膝をつき、目線を二人に合わせて通路を指差しながら説明する。
「あの通路だね。右側を進めば図書館、左側に進めば教会がある。行くのは自由だけど、あまり騒がないようにね」
「はーい!」
「それで、他に質問はないかな?」
念のため騎士が聞くが、
「私は大丈夫だ」
「私も!」
と、二人が返した。
それを聞いた騎士は立ち上がり、去って行った。
「騎士さんってみんな優しい人ばっかりだよね~」
「王都の治安は見るからに良好だからな。皆、心に余裕があるのだろう」
シロンは城内の時計を見て、夜まではまだ時間があることを確認する。
「それで、図書館と教会。どちらから先に行くんだ?」
「うーん……図書館かな! 色んな本が見れるのは楽しそうだし!」
レーアの決定に従い、二人は右側の通路を進むことにした。
通路を進むと、左側には扉が並んでおり、右側には庭園が見えた。手入れの行き届いた草花が咲き誇る様は、『平和』という二文字が最も良く似合う光景であると感じる。
「綺麗だなあ~!」
「人の手で、ここまでのものが作れるのだな」
二人も感嘆の声を上げる。
そのまま通路を進んで行くと、大きな扉が見えた。
「ここが図書館だね!」
「中では静かに、だからな」
「わ、分かってるってば……」
いつも騒がしいレーアに釘を刺し、シロンが扉を開ける。