第4話 『王都へようこそ』
暖かい陽の光を全身に感じて、レーアは目を覚ます。
「……んん」
空は晴れ渡っており、今日も一日良い天気になることだろう。
上半身だけ起こして辺りを見てみるが、昨晩の冒険者たちや騎士団、それにシロンの姿も見当たらない。
「シロン……?」
すると、辺りをふわふわと飛んでいた星が、レーアに語りかけた。
「えっ? あっ、先に起きてたんだね」
そこでタイミング良く、シロンが戻ってくる。
「起きたか」
「うん、おはようっ!」
元気に挨拶をして、レーアも立ち上がる。
そして手でパッパッと服を払い、簡単に汚れを落とした。
「それで、今日は王都に入るんだな?」
「うん! どんなところか楽しみだね~!」
草原を撫でるように吹く優しい風に、二人は心地良さそうな顔をする。
荷物が揃っていることを確認し、二人は王都に向かって歩き始めた。
しばらく歩いて、二人はようやく城門までたどり着いた。
「思ったより長かった……っ!」
「城下町も活気があるようだし、色々見て回ろう」
膝に手をついて呼吸を荒くするレーアに対し、シロンは一切の疲れを見せない。
そのまま二人は王都エルガルドの城下町へと足を踏み入れた。
「ねえ見てシロン! 見たことない果物が売られてる!」
予想通りと言うべきか、活気溢れる城下町の空気に熱されて、子供のように駆け回るレーアの姿がそこにはあった。
初めはシロンも変に注目を浴びるのではないかと心配していたが、見た目が見た目なだけに、周りのレーアを見る目は、好奇心旺盛な子供を見るそれであった。
「あっ!」
「おっと」
その時、歩いてきた白服の男とぶつかってしまった。
人で溢れる城下町をずっと走り回っていれば、当然の結果である。
「ご、ごめんなさいっ!」
「あっはっは! いやいや、大丈夫だよ。元気な子だね」
怒られると思い焦るレーアだが、男の方は気にしていない様子だ。
「危ないぞ。気をつけろ」
「はぁい……」
シロンに注意されて、レーアが身を縮める。
すると、男がレーアに声をかける。
「おや? 君のその髪飾りは……」
男が指したもの。それはレーアが常に頭に着けている、星形の装飾品だ。
「えっ? これが何か……?」
「いやあ、大したことはないんだけどね。僕の友達が似たものを着けていたから気になったんだ」
男は両手を広げ、飄々とそう言った。
その様子を見てレーアの緊張もほぐれていく。
「へえ~! そのお友達は王都にいるんですか?」
「いや、ここにはいないよ。僕も長いこと会ってないしね」
そこで、思い出したようにレーアが自己紹介をする。
「あっ、私レーアって言います! お兄さんは?」
「これはこれはご丁寧に………僕はフィース、しがない研究者さ」
フィースは名乗ると、レーアの後ろにいたシロンに視線をやる。
それに気づいたシロンが続けて名乗る。
「シロンだ。レーアと共に旅をしている」
「レーアちゃんに、シロンちゃんか。二人とも良い名前だね!」
名前を褒められて照れくさそうにするレーアだが、シロンはフィースの呼び方に不満そうな顔をする。
「二人は王都は初めてかい?」
フィースはその細い目を、さらに細めて二人に聞いた。
「はいっ! ついさっき来たばっかりで……!」
「今は色々と見て回っているところだ」
二人の返答を聞いて、フィースは何か閃いたような顔をする。
「そうだ! 僕が王都について、色々と教えてあげようか? 二人の旅についても聞きたいしね」
「あっ、旅と言ってもまだ始まったばかりで……っ!」
「あっはっは! それでも良いさ。君たちも王都のことは知りたいだろ?」
遠慮気味なレーアの言葉を笑い飛ばし、二人を誘うフィース。
シロンも怪しんではいたが、大勢の騎士が駐在する王都で、白昼堂々と事件を起こすことはないだろうと、レーアの意思に従うことにした。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
「よし、決まりだ。王都はかなり広いけど、僕の家はここから近いからね。ついでおいで!」
フィースはそう言って揚々と歩き出し、二人も後に続いて駆けて行く。
彼の言うとおり家は近く、歩き始めて数分で到着した。
「さあ、入って入って!」
「おじゃましまーすっ!」
フィースに招き入れられ、レーアが元気に飛び込んで行った。
「そんなに警戒しなくても大丈夫さ。僕はただの非力な研究者だからね」
「……」
家に入るのを躊躇っていたシロンに、フィースがそう告げる。
レーアの様子も気になるので、シロンも仕方なく家に入ることにした。
家の中だが、特に変哲のない普通の家といった様子だった。
「研究者っていうから、てっきり色んな道具が並んでたりするのかと……」
特に面白いものが見つからず、肩を落とすレーアに
「あっはっは! 生活スペースと研究所は分けてるからね! レーアちゃんは、普段から危険物に囲まれて住みたいと思うかい?」
と、フィースがいたずらっぽく言うと、レーアも納得した様子を見せた。
「なら、研究所は王都内の別の場所にあるということか?」
シロンの問いに、フィースは首を振り、床を指差す。
「地下だよ。家の地下室を研究所にしたのさ」
「ち、地下室……!」
地下室と聞いてレーアが目を輝かせる。彼女的に、心が躍るワードだったようだ。
「僕は特にやることもなく暇だからね! 後で案内してあげても良いよ」
そう言ってフィースは椅子に座り、二人にも座るよう促した。
そして二人が座ったのを確認すると、話を切り出した。
「それじゃあ、王都について聞きたいことはあるかな?」