表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星と剣の英雄譚  作者: kit
王都編
4/22

第3話 『星空の下で』


 初の戦闘を終えてしばらく後、二人は王都が見える所まで来ていた。


「でっかいなあ~! すごいなあ~!」


 周囲の警戒をするシロンの横で、レーアが子供のような感想を述べている。

 だが、その言葉も間違いではなく、王都からはまだ離れたこの場所からも見えるほどの、何十メートルはあろうかという城壁。


 さらにその中に街や城があるというのだから、初めて見る者の中には、レーアのような反応をする者も少なくないだろう。


「ふむ。この辺りには冒険者も騎士団も見えるようだ。多少、警戒を緩めても良いだろう」


 そう言ってシロンは肩の力を抜いた。


 結局二人はモンスターに出会うことなく、道中のトラブルと言えば先の三人組との交戦だけであった。


「えへへ、みんなにはこれからもお世話になりそうだねっ!」


 見ると、レーアが淡い光に囲まれている。いつものように星と会話しているようだ。


「もちろん、シロンも頼りにしてるよっ」


 顔を覗き込んできて笑顔を見せるレーアに、シロンも軽く頷いて返す。



 王都に向かって歩いていると、辺りの色が変化し始める。

 空を見れば、太陽が沈もうとしていた。


「もうこんな時間かぁ……」


 レーアが呟き、辺りを見回していたシロンがスッと指をさした。

 指の先には冒険者と騎士団が入り混じった人だかりと、立ち上がる煙が見える。


 見た感じ、キャンプのようなものだろうか。


「暗い中で夜を過ごすのは危険だ。私たちも向かおう」


「明かりなら、この子たちで大丈夫じゃないかな?」


 レーアが小さく両手を広げると共に、パッと星の光が溢れる。


「……この世界に疎い私でも分かるが、それはお前だけの力だろう。無闇に人前で見せるべきではないと思う」


 シロンの指摘に、何を想像したのか、レーアが顔を青くする。



「も、もしかして私、変な人たちに連れて行かれて研究対象にされちゃったり……!」


「……あり得ない、とは言えないな」


 レーアの反応が面白く、軽くからかってやろうと答えるシロン。

 しかし、普段通りの雰囲気である彼女のイタズラ心には気づかず、レーアが身体を震わせる。


 彼女の気持ちと共鳴するように、慌てて本や服の中に隠れていく星の光たち。


「あ、危ないところだった……っ!」


 ふぅ、と一息つくレーアを連れて、シロンがキャンプの方へ歩いていく。



「私たちも、邪魔して構わないだろうか?」


「こ、こんばんは〜……」


 いまだに怯えているレーアを横目に、シロンが尋ねる。


「おや、家族とはぐれてしまったのか?」


「あっ、いえ、迷子じゃないです!」


「まあ何でも良いじゃねえか。ゆっくりしてけ!」


 優しく声をかけてきた騎士の男と、酒を飲みながら声を荒げる冒険者の男。

 ともあれ、周りの皆も歓迎ムードのようである。


「わーいっ! ありがとうございます!」


「失礼する」


 他の人を見習って、二人も焚き火を囲むように座る。

 皆、一日中モンスターと戦闘していたようで、食事や談笑をして疲れを癒しているようだ。



「いやぁ、こんな小さい子が二人で冒険なんてなぁ」


「全くだ。この辺りは大した脅威もないとはいえ、危険すぎる」


「でも、そっちの白髪の子はなかなか腕が立ちそうね」


 特徴的な見た目と、それ以上に年齢が若いこともあって、二人に興味を持った者が口々に言い放つ。


 ジロジロと見られる視線に耐えかねて、シロンが助けを求めるようにレーアの方を見るが、





「えーっ!? ほんとにー!?」


「ああ、嘘じゃないぜ? こんなでっけえ熊のモンスターでな、鋭い爪の一撃は俺も避けるので精一杯で……!」


「俺たちが戦った蛇のモンスターも手強かった。これがまた凶暴なモンスターでな、接敵するや否や牙を剥いて咆哮を……」


 既に見知らぬ冒険者たちと仲良くなっていて、次々と語られる冒険譚に目を輝かせていた。


 その後は、持ってきた木の実を振る舞ったり、レーアが歌を歌ったりして過ごしていた。


 少しずつ夜も深まっていき、見張りの騎士を残して全員が寝静まった頃。



「……ねえシロン、起きてる?」


「ああ。どうした?」


 隣で横になるシロンに、レーアが小声で話しかける。


「ほら、見て!」


 そう言ってレーアが指差したのは、空だった。


「これは……すごいな」


 広がっていたのは、世界を照らすような美しい星空。

 大の字で寝そべり、空を眺める二人。


「ほんと、綺麗だよね〜!」


 返事がないのでシロンの方を見てみると、小さく口をあけて星空を眺めていた。見惚れているようだ。


 しばらくして、シロンが問いかける。


「ところで……お前の星の力というのは、生まれつきの物なのか?」


「……ううん」


 言いながら、星を掴むように空に手を伸ばす。


「星が、私を選んでくれたんだって」


 どこか遠くを見るような目で、語り始めた。


「変だよね。私は別に、星について研究してたわけでも、星が特別好きだったわけでもないのに」


 シロンはそれを、黙って聞いている。


「でも、この子たちが言うには、私は選ばれたんだって。聞いてもそれ以上は教えてくれないんだ」


 いつの間にか、レーアの身体が光に包まれていた。


「お前の力にも、まだ謎は多いということか」


「そうだね。……シロンはさ、この旅の中で、失った記憶の手がかりが見つかるんじゃないかって言ってたよね」


「言ったな」


「それを聞いて、私も旅の中でこの力について何か分かるかな?って思ったんだ」


 言い終わると、レーアがあくびをする。



「ん……流石に眠くなってきちゃった」


「では、そろそろ眠るとしようか。なかなか興味深い話だった」



 そうして、二人の少女は眠りについた。これからの旅路に想いを馳せながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ