第2話 『星と剣と、三人組』
生息するモンスターは比較的弱いものが多く、治安もそこまで悪くはない。
それはひとえに、エルガルド騎士団の巡回や討伐活動等の賜物であると言われている。
そのため、見習い騎士が戦闘経験を積んだり、駆け出しの冒険者が戦闘に慣れるために使われたりすることが多く、一般にもそのような認識がされている。
それが少女たちが現在歩いているエルガルド平野だ。
「強いモンスターがいないってだけで、モンスターは普通に生息してるからね。気を抜かずに行こう!」
「ところで、お前は戦えるのか?」
シロンの問いに、待ってましたと言わんばかりに持ってきた本を見せる。
「じゃん! 私の武器はこれ!」
「角で殴るのか?」
「!? 殴らないよ! そんな物騒な戦い方しないってば!」
弁明するように、レーアが自らの戦闘方法について説明し始める。
「私はシロンみたいに身体が強いわけじゃないから、基本はこの子たちに頼ることになるかな」
言いながら、掌を上に向けて体の前に出すと、そこに星の光が集まって来る。
「本に魔力を込めれば、その魔力を吸ってこの子たちの強度が上がる。それを飛ばして攻撃もできるし、周りに集めて防御もできるって感じ!」
「なるほど……面白い力だな」
シロンは、集まった星の光を指でつんつんと突いてみたり、まさぐるように手を突っ込んでみたりと色々試しているようだった。
「ところで、一般的な魔法使いは杖に魔力の込めやすい魔力石を合成して、そこに魔力を流して魔法を放つと、小屋にあった本に書いてあったが……お前はなぜ本を使っているんだ?」
それに対して、レーアは指を立てて説明する。
「魔力っていうのはね、慣れ親しんだ物に対しては込めやすく、魔力も強くなるんだ。私の場合は、小屋に住み始めた時からずっと読んでたこの本が、魔力石より扱いやすかったってわけ!」
「ふむ……つまり、魔力石というのは誰でも簡単に強い魔力を込められる媒体として存在しているわけだな」
「そういうことっ! 流石、賢いね!」
二人で話していると、道の先からガラの悪い三人組が歩いて来る。
そして、気にせず通り過ぎようとした少女たちの前を、三人が塞ぐ。
「おいおい、テメェらみてえなガキがこんなとこで何してやがんだ?」
「アニキ、こいつら装備は良いモン付けてるみたいですぜ!」
「よく見ると顔もキレイだなぁ……こりゃあ、高く売れるかもしれんぞ」
息を合わせたように三人が次々と言葉を発し、少女たちに絡んできた。
「周りに……騎士団はいないようだ」
「この人たち、誰も見てないって分かってるから声かけてきたんだ……!」
シロンが周囲の状況を確認し、それを聞いたレーアが今の状況に納得の声を上げた。
そして、シロンがゆっくりと剣を抜く。
「初めての戦闘はモンスターが相手だと思っていたが……冒険とは得てして、予想ができないものだな」
「わ、私たちで何とかするしかないんだね……っ!」
レーアも本を広げると、周囲の光が強くなる。
戦闘態勢に入った二人を見て、三人組はヘラヘラと笑い始める。
「何だこいつら。オレらと戦ろうとしてんのか?」
「へへ、大人の怖さってヤツを教えてやりましょうや……!」
「顔は傷つけんなよ? 値下がりしても困るからな」
広い平野の誰も居ない辺境で、人知れず少女とチンピラの戦闘が始まろうとしていた。
先手を取ったのはシロンだ。
今までは、高所の木の実を取ったり、短時間で水を汲んできたりと、人知れず発揮されていたために埋もれていた彼女の身体能力が、初めて日の目を見ることになる。
油断していたチンピラの懐に潜り込み、素早く刃を振り抜いた。
「!? ぐぁっ!」
胸を斜めに斬られ、何が起こったか理解する前に一人が倒れた。
「ア、アニキ!? な、何が起こって……」
「隙あり! 『スター・ショット』っ!」
続いてレーアが攻撃する。開いた本から放出した魔力を纏い、星の光が弾丸のようにチンピラに飛んで行った。
「ごっ!? ぐぇっ!」
射出された星弾は、チンピラの顎と腹部に命中し、強い衝撃を与えて気絶させた。
それを見たもう一人のチンピラが、顔を引きつらせて悲鳴を上げる。
「な、何なんだこいつら……!? ひっ!」
背後から音もなく近づいていたシロンが、チンピラの首に刃を当てる。
戦意喪失どころではない。必死に助かる道を模索している。
「ちょ、シロン!? そこまでしなくても……!」
「……お前は少し甘すぎる」
そうは言いながらも、慌てるレーアを見てシロンも躊躇っている様子だ。
「はぁ……金を置いて行け。そうすれば命までは取らない」
「は、はいっ! はいぃ!!」
どちらが被害者なのかよく分からない構図になってしまったが、とにかく少女たちは無事に危機を乗り越えた。
気絶した二人を放ってチンピラが走り去って行くのを見届けて、二人もその場を後にする。
こうして、初の戦闘は大勝利に終わったのだった。