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星と剣の英雄譚  作者: kit
王都編
2/22

第1話 『妖精の道案内』


 二人の少女が出会って数日が経った。


「ポルの実はネアムの実の隣に置いておく。ワグの実も減っていたから足しておいた」


「ん、ありがとね~!」


 シロンもすっかり小屋での生活に順応したようで、二人の食糧である木の実の整理をしている。

 レーアも、汲んできた水を大きな木の容器に注いでいた。


「その水、悪くなったりしないのか?」


「おっ、良いところに気づいたね!」


 ふふん、と鼻を鳴らし、容器の中が見えるようにシロンの方に傾ける。


 すると、水面が淡く光っているように見えた。


「これは……」


「星の光で汚れとか虫が入らないように保護してるの! すごいでしょ!」


 普段は表情の変化に乏しいシロンも、流石に驚いているのか、軽く目を見開いている。


「まあ、お前の力ではないような気もするが」


「うぐ……!」


 シロンの指摘に、レーアは痛い所を突かれたと言わんばかりに、大げさに胸を押さえて苦しんで見せる。

 そんな所作に大した反応も見せず、作業に戻ってしまったシロンだったが、レーアはどこか満足そうな様子であった。


「そういえば、シロン」


「どうした?」


 ふと何かを思い出したかのように声をかけるレーア。


「ずっと聞こうと思ってたんだけど、小屋での生活は窮屈じゃない?」


「特に不便は感じていないが」


「いやいや、そうじゃなくて! この森から出ないで生活するのってつまんなかったりしない?」


 唐突な質問に、その意図が掴めずシロンが困惑する。


 しばらくの沈黙の後、シロンがポンと手を叩き


「ああ、お前は外に出たいのか」


 と結論付けた。そして、そこで生まれた疑問も続けて追及する。


「しかし、お前はこの森でずっと生活してきたんだろう? なぜ急に外に出たいなどと考えるようになったんだ?」


「そ、それは……」


 もじもじとするレーアに、シロンが詰め寄る。




「シ、シロンと一緒に……冒険、とか……してみたくて……」


 観念した様子のレーアが、頬を赤く染めながら軽く俯いて、そう告げた。

 

 シロンは顎に手を当てて少し思案する様子を見せた後


「ふむ……良いと思うぞ。私も失った記憶を取り戻すきっかけが見つかるかもしれない」


 と、そう答えた。


「わーいっ! じゃあ早速冒険に行こう!」


 勢いだけで突き進まんとする様子のレーアを静止しつつ、シロンが聞く。


「冒険と言っても、森を出てどこへ行くつもりだ?」


「うーん……まずは一番近くにある、『王都エルガルド』に向かおうかな?」


 王都エルガルド。人間の王が治める人間国家、『エリシア王国』の主要都市であり、三大都市と呼ばれる大都市の一つである。


 長い歴史を持つこの国は、擁する軍事力も相当なもので、優秀な兵士を選りすぐって編成された『エルガルド騎士団』は、周辺国家でもトップレベルの強さを誇ると言われている。


「まあ、エルガルド以外知らないんだけど……」


 そう言って、ぽりぽりと頬を掻きながら目を逸らすのを見て、シロンが小さく溜息をつく。


 レーアは場を切り替えるようにパンッと手を叩き、


「まあ、冒険なんて知らないことが多い方が楽しいよ! そういう意味では、私たち冒険に向いてるかもっ!」


 どこまでも前向きな様子を見せるレーア。彼女は早速、置いてあった本を手に取り、道中で必要になるであろう水や食糧を準備し始めた。

 シロンも、壁に立てかけてあった自分の剣を取り、軽く身体をほぐす。


 二人は小さなポーチに水が入ったボトルと、多様な見た目の木の実を入れる。

 互いに準備が整ったことを確認し、レーアが小屋の扉を開けた。


「いざ、しゅっぱーつ!!」


 そうして二人は小屋を後にして、森を歩き始めた。



 紫の葉をつけた木々が並ぶ神秘的な光景に、シロンは未だ慣れない様子だ。


「そういえば、ここはどうして妖精の森と呼ばれているんだ?」


 二人で森を歩く中で、シロンが問う。


「あっ、シロンはまだ会ったことないんだっけ? 普段はたまに姿を見せるんだけど……シロンはまだ来てから日が浅いから、警戒されちゃってるのかも?」


「ふむ。すると、この森には本当に妖精とやらが住んでいるわけだな」


「うん! みんな小さくて可愛いんだよ!」


 レーアが妖精について語り始めようとした、その時。



「……そこか」


 シロンの視線が左の木に向けられる。何がいるのかと、頑張って覗き込もうとするレーアだが、シロンは視線を向けたまま微動だにしない。


 数秒後、木の裏からふわふわと、小さな羽根の生えた人型の生物が姿を現した。


「君、すごいね。どうして分かったの?」


「気配だ。ここは雑音も少なく、気配を読み取るのも容易い」


 ぽかんとするレーアだが、当の妖精はヒュ~と口笛を鳴らし、感心している様子だ。


「見つかっちゃったことだし、森の外まで案内してあげるよ」


「おぉ~! ありがとう、妖精さん!」


 妖精はレーアの言葉にウィンクで返し、ふわふわと先導するように飛んでいった。


「シロン、やるね! 私は全然分かんなかったよ!」


「何だか、そういった勘が研ぎ澄まされているような気がする。記憶を失う前は冒険者でもしていたのかもしれないな」


「きっと腕利きの冒険者だったに違いないね!」


 そうして談笑しながら歩いていると、行く先を木が塞いでいた。


 迂回すべきかと二人が思ったその時、妖精が声を張り上げた。



「ダムセルーっ! 根っこ邪魔ーっ!!」


 唐突な叫び声に二人は驚くが、さらに驚くべきことに、妖精の声に呼応するかのように、目の前の木が動いて道を開けたのだ。


『ふぉっふぉ。すまなかったの』


 続いて頭の中に響いた声に不思議な感覚を覚えながら、レーアが妖精に質問する。


「よ、妖精さん? 今のは……」


「妖精の森の中心に生えてるでっかい木、ダムセルの根っこだよ。森中に張り巡らせてるもんだから邪魔で仕方なくてね」


 愚痴っぽく吐いた妖精だったが、


「でも、私を含めて妖精たちはみんなダムセルに感謝してるんだ。あいつのおかげで安心して暮らせるわけだからね」


 と、すぐに声色を柔らかいものにした。

 妖精の森の平和の秘密を知って、レーアが満足げに微笑んだ。


「ここからでも見えるほどの大木だが、お前は森で暮らしていて存在を知らなかったのか?」


「わ、私は小屋の周りしか行ったことなかったし……あそこは空も葉っぱで覆われてるから大木なんて見えないもん……」


 段々と小さくなっていく声に、妖精が笑い声を上げる。


 そうして再び歩き続けていると、ようやく森の出口に辿り着いた。


「じゃ、私が案内できるのはここまでだから。何をするか知らないけど、頑張ってきなよ」


「はーい! 頑張ってきますっ!」


「感謝する」


 短い間だったが、小さな冒険仲間に別れを告げると、二人は森を抜けた先に広がる『エルガルド平野』に目を向けた。



 この世界にはモンスターと呼ばれる化物が存在しているが、脅威はモンスターだけではない。

 

 少女たちは、身をもってそれを知ることになる。

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