第1話「再生と復活」
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暗闇の中、俺は目を覚ました。いや、正確には“視界が遮られている”という感覚だった。
前が見えない。動けない。音だけが、やけに鮮明だった。
「ようやく手に入れた…ファラオのミイラ……」
「これを我が死霊術で蘇らせれば…!」
……なんだそれ。
物騒な単語が耳に刺さる。死霊術?
それって、ゲームとかで出てくるやつだろ……?
――ていうか。
俺、やっぱり……死んだのか?
周囲のざわめきとともに、空気が震えた。
次の瞬間――燃え盛る砂嵐が血管を逆流するような感覚に襲われた。
ザラッ……骨の奥で、何かが砕けるような音。
そして俺は……呼吸を始めた。
いや、違う。俺は呼吸を“していない”のに、生きていた。
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硬い石台の上。周囲には燭台が灯され、影を長く引いていた。
「蘇ったか……」
黒いローブを纏った中年の男が俺を見下ろしていた。目はぎらぎらと輝き、まるで発掘者が至宝を見つけた時のようだった。
「自我はあるか? 貴様……自分の名は分かるか?」
……話せない。
俺は「モガ……ゴモガ」と、ひどく間抜けなうめき声を発した。
「ふむ、意思は通じているようだな。ひとまずはよしとする。」
男はうれしそうに頷いた。
体を起こす。重い。包帯がきつく巻かれている。
指の一本一本まで、びっしりと。
それでも、俺は動けることに安堵した。
重さも、ぎこちなさもある。けれど、生きてる――それが嬉しかった。
男は、古ぼけて欠けた鏡を持ってきた。鏡面には小さなヒエログリフが刻まれていて、縁にはスカラベの意匠。どこかで見たような……いや、まさか――。
そして俺は、その鏡の中で、“自分”を見た。
そこに映っていたのは――
くすんだ包帯をぐるぐる巻きにされ、くぼんだ眼窩に赤い光を宿した……まぎれもなく、“ミイラ男”だった。
「……嘘だろ」心の中で呟く。
包帯が微かにほつれ、破片がはらりと落ちる。乾いた音が石床に吸い込まれていく。
思い出す。博物館のガラスケースの中で眠っていた、あのレプリカ。
ハロウィンの仮装の方がまだ近いのかもしれない。
包帯のほつれや裂け目から覗く肌は、すでに人のものではなかった。ひび割れた指先、黒く濁った爪、乾ききった筋肉が骨に張りつき、まるで時間の中に封じ込められた彫像。
じっと見つめているうちに、不思議な感覚が湧いてきた。
恐ろしいはずなのに、どこか、見惚れていた。
「成功だ……王の魂を宿す器……これが、どこまでの力を秘めているか……」
男の声は、恐怖とも渇望ともつかぬ響きを帯び、石室に反響した。
俺は、右手を挙げた。鏡の中の“それ”も同じ動きをする。
そうか――これが、俺なのか。
未来、という名を持ちながら、俺は今、過去そのものになってしまった。