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異世界の法則と貴族との対面

バスの窓から異世界の景色をぼんやりと眺めていると、急にバスが停車した。外に広がるのは、見たこともない森と、どこか異質な空気を感じさせる景色。生徒たちは驚き、騒ぎ出している。


「なんだ、ここは……?」


拓哉は運転席に座りながら、少しずつ状況を把握しようとする。その時、後ろから橘先生の声が聞こえた。


「運転手さん! これは……一体、どういうことなのでしょうか?」


拓哉は深く息を吐きながら、バスの外を見つめる。目の前に広がる異世界の景色に、心臓が速く打ち始める。森の奥からは見慣れない建物がうっすらと姿を現し、空気自体がどこか異質だ。周りの生徒たちはパニックになり、騒ぎ声が響く。だが、拓哉の心は焦りと不安でいっぱいだった。しばらく沈黙が流れる中、バスの外から足音が近づいてきた。大きく、重く、鉄のような音が地面を踏みしめるたびに響き渡る。


拓哉は一瞬、体が硬直しそうになったが、すぐに軽く肩をすくめて、運転席から振り返った。


「おいおい、これはもしかして、映画『インディ・ジョーンズ』の冒険にでも突っ込んだのかと思ったけど、どうやらもっと中世ヨーロッパっぽいな」


橘先生が困惑した表情で拓哉を見つめる。拓哉はニヤリと笑って続けた。


「まあ、今は現実だからな。次の観光地、異世界ツアーのスタートだ。とりあえず、みんな落ち着こうか」


生徒たちは少し驚きながらも、拓哉の冗談に少しだけ心が和んだように見えた。その時、バスの外から金属の擦れる音がさらに近づいてきて、拓哉は再び運転席の窓から外を覗き込んだ。


「何者だ!」


突然、バスの前に現れたのは、鎧を着た騎士たちだった。先頭に立つ騎士は、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。


拓哉は運転席で体を硬直させ、外の足音が近づいてくるのを聞きながら、ゆっくりと橘先生の方を振り向いた。


「橘先生、少しまずいかもしれませんね。」


先生は驚いたように拓哉を見つめ、何かを感じ取ったようだった。


「え? 何か、異変でも?」


拓哉は窓から外を一瞬覗き、迫る足音に耳を澄ませる。金属音が近づいてきて、地面を叩く重い足音がどんどん大きくなっていく。


「どうやら、騎士のような連中が近づいてきてる。今、バスの中にいたら、こっちが何もしなくてもターゲットになるかもしれません」


橘先生の顔色が一気に険しくなった。後ろでは生徒たちが不安そうに騒ぎ始めている。


「でも、どうすれば……? 外に出るのは怖いですわ!」


拓哉は冷静に答える。


「外に出てもすぐに攻撃されるわけじゃないだろうけど、バスにこもっているとすぐに標的になる。それに、俺たちだけじゃなく、生徒たちも守らないといけないからね」


「では、外に出るべきなのでしょうか?」


拓哉は少し肩をすくめて、冷静に言った。


「今すぐ外に出て様子を見に行く。だけど、生徒たちにはバスに待機してもらおう。もし何かあったら、すぐにバスを守れるようにしないとね」


橘先生は驚きつつも、拓哉の落ち着いた様子を見て、少し安心したようだ。


「生徒たちにはどう伝えればよろしいでしょうか?」


拓哉は力強く頷きながら、バスの扉を開けた。


「すぐに説明する。みんなに『バスの中で待機して、外に出るな』って言うから、何があっても動かないように伝えてくれ」


橘先生も頷きながら、バスの後ろに向かって生徒たちに指示を出す準備をする。


拓哉は外の音を耳にしながら、もう一度、目の前に迫る騎士たちを見つめ、心の中で決意を固めた。


「よし。俺が外に出て、状況を見てくる。バスの中にいる皆は安全を確保して待機しててくれ。絶対に無理して外に出るなよ」


生徒たちの方へ向けて大きな声で伝える拓哉。生徒たちは少し戸惑っていたが、拓哉の落ち着いた声に、少しずつ安心していく。


「分かりました……拓哉さんが言うなら、私たちもバスで待っておりますわ!」


「私たちも待機します!」


拓哉は生徒たちに微笑みかけ、すぐに外へ足を踏み出した。


「じゃあ、行ってきます。もし何かあったら、すぐに戻りますので」


拓哉はバスを後にし、騎士たちが近づいてくる音を聞きながら、一歩一歩外に進んだ。生徒たちはバスの中で待機し、拓哉が戻るまでその指示を守ることを誓った。


「……やばいな。変に動けば切られるか?」


拓哉は冷静を装いながら、ゆっくりとバスのドアを開け、外に足を踏み出した。両手を広げて、無害であることを示す。


「俺たちは旅人だ。突然、この場所に来てしまった。何が起こったのか分からない」


橘先生も続いてバスを降り、拓哉の後ろに立つ。騎士たちはお互いに顔を見合わせ、何やら話し合っている。しばらくして、そのうちの一人が驚いた様子で言った。


「お前たち、もしかして……異世界から来たのか?」


「異世界……?」と、橘先生が驚きながら問いかける。


「そうだ。お前たちが異世界人だとすれば、間違いない」と騎士が答える。


その瞬間、生徒たちから驚きと興奮の声が上がった。


「異世界!? そんな……本当に?」


拓哉はしばらく考え込む。異世界人? そんな言葉を聞いたことはなかったが、この状況ではその可能性もあるのだろう。


「まあ、異世界とか言われても実感は湧かないけどな。とりあえず、どこに行けばいいんだ?」


騎士が一歩前に出ると、冷静に言った。


「まずは、城塞都市グラーデンに案内しよう。貴族様が君たちを迎え入れるだろう」


拓哉は一瞬ためらったが、今はそれに従うしかないと判断する。


「わかった。ついていく」


そう言って、拓哉は自信を持って足を踏み出した。バスはその場に残し、騎士たちと共に歩き始める。


都市の門をくぐると、そこには中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。石畳の道を歩き、木造の家々が並ぶ。商人たちが行き交い、市民たちが忙しなく動いている。道端の人々は拓哉たちの姿を見て、ヒソヒソと話しながらこちらを見ている。


「また異世界の人間が来たのか?」


「この前の者たちはすごい力を持っていたらしいぞ」


そんな声を耳にしながらも、騎士たちは我関せずといった様子で俺たちを大きな建物へと案内していく。


その建物は領主の館だった。中へ通されると、一人の貴族が優雅に椅子に座り、こちらを見下ろしていた。


「初めまして、異世界の者たちよ。私はこの都市を治めるアルフォンス・グラーデンだ」


壮年の男で、金髪に青い瞳を持ち、豪華な衣服を身にまとっている。


「俺は桐島拓哉。こいつらは修学旅行中の高校生と先生だ」


アルフォンスは少し考えた後、口を開く。


「高校生……なるほど。貴様は彼らの指導者か」


拓哉は少し苦笑しながら答えた。


「まあ、運転手だが、まとめ役みたいなものだな」


アルフォンスは満足そうにうなずき、次に話を続ける。


「異世界人がこの世界に来るのは珍しいことではない。数年に一度、不定期に訪れる者がいる」


「なっ……? そんなことがあるんですか?」と、橘先生が驚きの声を上げる。


「そうだ。異世界の者たちは例外なく、特別な力を持つことが多い」


「特別な力?」と拓哉が疑問の声を上げる。


「そうだ。異世界人にはこの世界の者とは異なる才能が宿ることがある。それが**『異能』**と呼ばれるものだ」


その言葉を聞いて、橘先生が思わず息をのむ。


「まるでゲームや小説みたいですね……」


アルフォンスは微笑んだ。


「実際、この世界の人間からすれば、異世界人は英雄にも悪魔にもなり得る存在なのだ」


その言葉に、拓哉は黙って考え込む。どこか現実味を感じるような、感じないような。


「異能の力を持っているかどうかは、『能力判定の儀』を受ければ分かる。お前たちにも受けてもらうぞ」


案内されたのは、館の一室。そこには、魔法陣が刻まれた石の台座があった。


「この上に手をかざせ。異能を持つ者は、その力が浮かび上がる」


最初に試すことになったのは、橘先生だった。


「わ、私から……?」


恐る恐る手をかざすと、魔法陣が淡く光り始める——が、それだけだった。


「異能なし、か」


「えっ……?」


「異世界人すべてが異能を持つわけではない。持たぬ者もいる」


生徒たちがざわめく中、次々と能力判定を受けるが、ほとんどの生徒には何の変化もなかった。


だが——


「おぉ! これは……!」


ある生徒が手をかざした瞬間、魔法陣が黄金色の光を放った。


「お、おい! 何だこれ!?」


驚く生徒を見ながら、アルフォンスが目を見開く。


「……どうやら、お前は強力な異能を持っているようだな」


次に、拓哉が魔法陣の前に立つ。


「まあ、俺はただの運転手だから、何も出ないだろうけどな」


そんな軽い気持ちで手をかざした拓哉。しかし、魔法陣は何も反応しなかった。


「……異能なし、か」


拓哉は何も感じなかったが、周りの反応が気になった。


「す、すみません、拓哉さん。異能がないんですね……」


生徒たちの目線が一斉に集まる。


「いや、大丈夫だ。俺は運転手だし、異能がなくても生きていけるさ」


拓哉は微笑んで言ったが、その胸の中には少しだけ寂しさが広がっていた。


異世界では、異能を持っていない者は不安を感じるものだ。どんなに冷静を装っていても、無能力者が異世界で生き抜くためには、異能者たちのように強力な力を持つことができないことが、時折つらく感じるのだ。


だが、拓哉はそれを気にすることなく、次に進む決意を固めた。


「俺は、みんなを守るために全力で頑張るだけだ」


その言葉には、無能力者としての自分を受け入れ、逆境に立ち向かう強い意志が込められていた。

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