第41話 なあ、他の女の匂いがするんだが……?
保健室から戻った後は引き続き球技大会の試合に参加している。入奈と一緒に保健室へ行っていた姿は色々な人に見られていたためいじられたがそこは適当に受け流した。
待機と試合を繰り返しているうちに気づけばお昼だ。チャイムの音を聞いて教室に戻ろうとしていると後ろから聞き覚えのある声で呼び止められる。
「有翔、ようやく見つけたぞ」
「相変わらず後ろ姿だけでよく分かりますよね」
「視界にさえ入ればすぐに気付く」
これだけ多くの人がいる中からよく俺を見つけられるよなと感心してしまう。てか、視界に入ったらすぐに気付けるのは中々の特殊能力だと思う。
「それで今度はどうしたんですか?」
「球技大会でお腹も減ると思ったから気合いを入れてお弁当を作ってきてな、せっかくだから今日は一緒に食べないか?」
「分かりました、付き合いますよ。場所は俺の教室とかどうですか?」
「悪いがそれは無理だ」
俺が面白半分に入奈を揶揄うとそうガチトーンで返してきた。まあ、教室なんかで一緒に食べたら死ぬほど目立つため俺も普通に嫌だ。
「流石に今のは冗談として、中庭とかどうですか?」
「あそこなら落ち着けるし良さそうだな、お弁当箱を持ってくるから先に行って待っててくれ」
「分かりました」
俺は教室に戻らずそのまま中庭へと向かい始める。その間に島崎達にメッセージを忘れずに送っておく。入奈と一緒にご飯と伝えると揶揄われそうな気しかしなかったので違和感を感じさせない適当な理由をでっち上げておいた。
それから中庭の端っこにあるベンチで座って待っていると見覚えのある姿が目に入ってくる。それは今世では先日知り合ったばかりの黒瀬さんだった。向こうもこちらに気付いたらしく話しかけてくる。
「あっ、佐久間君だ」
「黒瀬さん、こんにちは。もしかしてここでお昼ごはんか?」
「うん、友達と一緒にね」
「今日みたいに天気が良い日にはいい場所だよな」
中庭はお昼ごはんを食べる場所としてはそこそこ人気のあるスポットとなっているため黒瀬さんもここを選んだのだろう。
「そういう佐久間君もここで食べる感じなのかな?」
「ああ、先輩と食べる予定だ」
「へー、一緒にお昼ごはんを食べるって仲がいいんだね」
「まあな」
もっとも、黒瀬さんは多分男の先輩と一緒に食べると思っているに違いないが。
「あっ、友達が来たから私は行くね」
「ああ、またな」
黒瀬さんはそのまま友達と合流して中庭の中心へと歩いていく。それから少しして入奈がやってきたわけだが何故か警戒したような表情を浮かべている。
「なあ、他の女の匂いがするんだが……?」
「いやいや、何で分かるんですか!?」
他の女の匂いがするっていうアニメや漫画の中でしか聞かないセリフを生まれて聞いて驚いた俺は思わずそう声をあげた。
「私は匂いには敏感だからな、それでどこの誰と一緒にいたんだ?」
「ただ知り合いと話してただけですよ。ほら、この間絡まれてたところを俺が助けた」
「なるほど、あの時の……やはりあの女は危険な気がする。何故かは分からないがそんな予感がして、嫌な胸騒ぎすらするぞ」
聞かれた事を答えたというのに入奈はあまりすっきりした様子ではない。それどころかいつものように自分の世界に入ってしまう始末だ。
「……とりあえず食べませんか? 昼休みもそんなに長くありませんし」
「そうだな、そうしようか。ほら、これが有翔の分だ」
俺の言葉を聞いて入奈は我に返ったらしくお弁当を手渡してきた。蓋を開けると中に入っている色とりどりのおかずが目に飛び込んできたため食欲をそそられる。箸を取り出して早速唐揚げを一口食べてみると口の中にジューシーな鶏肉の味が広がってきた。
「相変わらず美味しいですね」
「そうだろう、今日は特に気合いを入れて作ったからな」
お弁当の味を褒めると入奈は一瞬で上機嫌になってくれたためひとまず安心だ。ピリピリしたままだと流石に食べずらい。
それにしても毎回思っていたが入奈のお弁当は見事なまでに俺の好物ばかりだよな。特に話した記憶がない好物までしっかり入っているため驚きだ。
もしかしたら母さんに聞いたのかもしれない。いつの間に連絡先を交換したのかはしらないが入奈と母さんはLIMEでやり取りをしているみたいだし。何はともあれ美味しいお弁当も食べられたわけだし昼からも頑張れそうだ。




