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第9話 港町にて、犬好きの少女は。 1

 新たな同行者の名は”テル”というらしい。次の町への旅路での主な話題は、当然テルに関することであった。

 

 「でさ、わたしが一番気になるのはね、やっぱり君の魔法だよ!わたしが持ってる魔法でもないし、ユピテルが使った魔法でもないみたいだねぇ。さあ、どんな魔法なんだい?」


 テルは少し恥ずかしそうに眼を伏せながら口を開く。


 「アビィ様はすでにご存じなのでしょうが、そうですね、自分の口から説明します」


 するとテルはユーラスのほうを向いた。少しニコニコしている。


 「ユーラス様、ちょっと強めで僕をたたいてくれませんか?」


 「え、えー?」


 ユーラスは困ったように頭を掻いた。


 「肩を押す、とかでもいいです。とにかくやってみてください!」


 テルはユーラスの手首を握り、持ち上げた。そして、さあ、と催促した。


 「そこまで言うなら…」


 そう言ってユーラスはテルの肩を押した。やや弱めに押したが、確実に違和感があった。テルの肩は鉄の塊のようにびくともしなかったのだ。


 「防御の魔法?」


 ユーラスがぼそりとつぶやく。が、それは否定された。


 「ユーラス君、またまた半分正解で半分不正解だね。確かに防御もできる。がこの魔法の本質部分はまだこの先にある。そうだろう?」


 アビィが意気揚々と解説しだした。そこまでわかってるんだったらアビィが説明すればいいのにと思ったユーラスだったが、一方のテルは嬉しそうに”魔法の続き”をしだした。


 パチン、と指の鳴る音。


 そして肩を押される感覚。ユーラスはまるで誰かに肩を押されたかのように感じたのだ。


 「僕の魔法はですね、人から受けた攻撃をためて、お返しするっていうものです! これと言って名前はついていないのですが…」


 「強力な魔法だね。 生まれつきかな?」

 

 またもテルは恥ずかしそうに答える。

 

 「ええ、たぶん赤ん坊の頃からですね。おそらく両親も気が付いたと思います。ほら、尻を叩くときとか…、ってどうでもいい話ですね」


 アビィは今までになく上機嫌であった。魔法のことが好きで魔法の話だから、というのもあるだろうが、テルが弟のように感じられているのではないかとユーラスは考察した。


 「天才、ですね」

 

 ユーラスはそうつぶやいた。


 「ああ、助手よ。これは大変な逸材だな。 ふむ、じゃあ一つ聞きたいのだがいいかな」


 テルは背を伸ばし、質問に臨もうとする態度になった。


 「”攻撃”っていうのはどこからどこまでが入るのかな? ほら、例えば素手のパンチは攻撃として処理されて、”お返し”できるんでしょ? でもさ、弓矢はどうなのかな? 魔法とか物理的じゃない攻撃は、"攻撃"とみなされるのかな? どう”お返し"するのかな? 」


 突然の質問攻めに、テルも(いつものようにユーラスも)圧倒されていた。


 「ちょっと、ユーラス君、君いつもびっくりしっぱなしじゃないか?たまにはわたしをびっくりさせてほしいけどね! で、テル君、解説してほしいな」


 すると、テルはすこし寂しそうな、恥ずかしそうに言う。

  

 「実は、素手しかカウントされないんですよ。あとは蹴りとかもいいんですけど。とにかく魔法とか武器とかを使わず肉体による直接の攻撃だけが対象なんです。さっき、なんか強い雰囲気出しちゃってすみません。…でも、そうですね…。さっきの魔犬とかに対しては効果的ですよ。だって、魔犬は”素手”ですから。でもやっぱり汎用性低くてそんなに強くないかなって」


 「いいや、君の魔法は強いよ。だって…」


 アビィが何か言おうとしたその時、それを遮る者がいた。


 「おお、これは、これは魔女様」


 どこから現れたのか。ユーラスはその声がするまで全く気が付かなかった。

 そしてその声の主は今アビィに膝をついている。状況が呑み込めない。

 黒服で黒髪で長髪で長身。服をよく見てみると、聖職者のようにも見える。


 「む、わたしは魔女じゃない! で、あなたは誰!?」


 「私は、魔女教司教のヨゼフというものです。そして貴方に仕えるものです」


 「いやいや、そんなこと知らないですよ!…あ、そっか!そうだ、ヨゼフさん?アビィ教に入りなさい!改宗すれば正式にわたしに仕えることができますよ!」


 ヨゼフはすくっと立ち上がる。やはり長身だ。30代ほどに見える。目じりの皺は優しそうな印象を与える。そしてにこやかに言う。

 

 「あはは、面白い冗談をおっしゃる。わたしは、魔女教であなたたちをお持ちしています。そうそう、ちょっとしたお土産があります。きっと面白がって下さることでしょう。それではまた、近いうちに…」


 それだけ言ってユーラスたちに背を向け歩き出していった。

 会話の主導権を握られて、アビィは不満そうに頬を膨らます。


 「ああいう変な人もいるから注意しようねぇ。初対面に魔女って、失礼極まりないわ…」

 

 少し歩くと下り坂になり、海が見えてきた。そして港町リッツ・ポートも。


 『リッツ・ポート』


 そう書かれた看板が道のわきに掲げられていた。

 そしてその看板のそばに、少女がすわっていた。その少女は5匹くらいの犬に囲まれていた。

 子犬もいるし、毛の長いもふもふとした大きな犬もいた。

 その少女はにこやかに言った。


 「旅人さん。リッツ・ポートへ、ようこそ!」

 

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