第8話 はみ出し者の村 4
「僕も、一緒に連れて行ってくれませんか?」
ベルル村から出発しようとした、その時、少年が声を上げる。
その子は、たしか真っ先に入信を申し出た少年であるとユーラスは認識していた。あの時と同じ、意志の強い目線をアビィとユーラスに向ける。
しかし、他にもともに行きたいという人はいた。彼らの申し出をすべて断り、村人はあくまでこの村にとどまるべきだという判断をしたのはアビィ本人である。旅のお供が増えすぎて収拾が付かなくなることを避けるためであった。
「いいえ、ここに留まりなさい。そして祈りなさい。それがあなたの役目です」
アビィは、身長がほとんど変わらない少年の目を射抜くように見ながら、堂々言い放った。
少年は無言で見つめ返していた。半ば睨んでいた。
「さあ、行きましょう。助手よ!」
アビィが歩み始めた。それにユーラスも続く。
彼らの背後では村人たちが瞑目し、祈っていた。ただ一人を除いて。
アビィとユーラスは再び深い森を歩いていく。
しばらく歩いてベルル村が遠ざかると、アビィはふぅと安堵の息を漏らす。
「へへん!!どうよ!わたしの手腕は!」
「少し見くびっていたようです。凄まじかったです」
「でしょー!これがわたしの実力!でもねー、結構敵も強かったよ」
ユーラス視点では、ユピテルとかいう騎士は完全にアビィの手のひらの上のように見えた。それを察してかアビィはいかに敵が強いか解説し始めた。
「ユピテルの魔法はわたしの魔法と完全に違う。わたしが、人の首を切れるのはあらかじめ魔法をかけたのを後で発動した、っていうステップが必要。まあこれも、とってもすごいことなんだよ!!」
この段階式の魔法は、森の中での巨漢や、ユピテル含む騎士たちの首を飛ばす際に使ったものだ。確かに、幻覚を見せている最中に、アビィはユピテルらに魔法をかけた。この工程には10分ほどかかっている。
「ユピテルの魔法は、たぶん斬撃を飛ばすみたいなやつだったね。即時効果が発動する。わたしの魔法よりよっぽど強いし、使い勝手がいい」
ここで、アビィが突然止まる。前にも合った光景だと、ユーラスは感じる。
アビィはユーラスの目を射止めながら少し怖がらせるように言った。
「運が良くなかったら、死んでた」
ユーラスは固唾をのむ。するとアビィは途端に笑顔になり
「なんてね!…でも、聖女の魔法は万能じゃないってこと!確かに私は最強の魔法使いで聖女だけど、それでも苦戦することも、死ぬことだってある。…君に何が言いたいかわかるかな?」
「いえ…」
「助手よ!君の力が必要だってことだよ!!」
ユーラスはぽかんと口を開ける。
その時、鈍い音が森に響きわたった。声だ。人の声ではない、獣の声だ。
それはしばらく続き、そして突然途絶えた。静寂が訪れる。
「よし、行ってみようか」
アビィが音のした方向に歩き出した。さほど遠くないようだ。
一歩一歩近づくにつれ、異様な雰囲気を感じた。
匂いだ。血の匂いがだんだん強まっていく。
「これは、悲惨な現場を見ることになりそうね…怖いならここにいてもいいよ」
「いえ…大丈夫です」
あまりに醜悪な匂いに、ユーラスは服で鼻を塞いだ。アビィは特に気にせず、ずんずん進んでいく。
そして進んでいった先には、
「…これは、本当に、すごいことになってるね」
おそらく10匹を超えるであろう量の犬の死体が散らばっていた。ただ、普通の犬ではない。狼ほどの大きさ、とがった牙、3又に分かれた尻尾、ギラリと光る赤い目。魔犬だ、とユーラスは気付いた。
そして魔犬の死体のそばに一人の人間が立っていた。
「どうして、君がここにいるのかな?」
小枝で魔犬をつついている少年は、ベルル村で旅の同行を申し出たあの少年であった。
「僕も戦いの役に立ちます。僕は魔法が使えます。それを証明するために魔犬を殺し、アビィ様とユーラス様に見せに行くつもりでした。どうでしょう。連れて行ってくれませんか?精一杯献身します」
その少年は冷たく強い視線をアビィに向ける。
一方アビィはというと…
「何してるんですか?」
せっせと魔犬の体をナイフで分解していた。
「ああ、わたしはね、薬を作るのにも大変長けているんだよ。魔犬は良い材料だからね」
「あの、僕は…?」
少年が突然心配そうに声を上げた。アビィの突然の行動に困惑していた。
「うん、採用だよ」
「え?」
こんどはユーラスと少年が同時に困惑を表に出した。
「一緒に旅していいよ。君強そうだし、ついてくるなって言っても来るんでしょ?」
少年がすっと息を吸う。
そして、
「やっっっったああああああ!!!!!!」
先ほどまでの冷酷さはどこへやら、年齢相応に喜びを体で表していた。
アビィもにこりと微笑みながら立ち上がる。そして言った。
「じゃあ、3人で行きましょう!次の宣教の地、港町リッツ・ポートへ!」




