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第7話 はみ出し者の村 3

 「アビィ様、来ましたね」

 

 日が昇り森にちょうど光が差し込んできたときのことである。

 アビィの予言の通り、馬に乗った甲冑姿の騎士が10人ほど、ベルル村の門の前に現れた。

 それを出迎えるような形で、アビィ、ユーラスそして村の男たち数人が横に並ぶ。  

 

 「おはよう!!騎士たちよ!!」


 アビィが即席の椅子に乗って、声を張り上げる。


 「目的はわかっている!!この村を潰しに来たな?」


 騎士たちは何も答えない、と思ったが後ろの方にいた騎士が馬を前に進めた。


 「ああ、よくわかったな。投降しろ。黙って牢屋にぶち込まれれば罪は軽くなるぞ」


 「その前に、自分の名前くらい名乗りなさい!!」


 アビィの声が反響する。それくらい静かだった。その後には沈黙が続き、突然沈黙は破られた。


 どすんと鈍い音。何かが落ちる音。


 ユーラスはその音がすぐ横から鳴ったと気付く。嫌な予感がした。

 視線をそちらに向ける。


 アビィの首から上がなかった。

 いや、正確にはあったのだが。

 アビィの首は地面の上にあった。転がっていた。


 アビィは殺された。そのことに思考がいたるまでユーラスはしばし時間が必要だった。

 叫び声が上がる。住人がアビィの死に気付いたのだろう。

 

 「名乗ってなかったな。俺はテリス帝国騎士団副団長ユピテルだ。見ての通り俺は魔法が使える。お前らに勝ち目はない。さあ、さっさと投降しろ」


 突然殺されたアビィのことで頭がいっぱいであった。ユーラスもほかの住民も。ユピテルの言葉は全く耳に入らなかった。

 ユピテルが言ったように彼は魔法を使える。そして、その魔法でアビィを殺した。直接触れることなく、十分遠くから音もなく首を切り落としたのだ。


 「俺は今、大変疲れてるんだ。こんな弱小の王国に別用で派遣されて、ついでにちんけな村の後処理を任されるなんてな」


 冷静に考えれば、勝ち目がないのは誰の目にも明らかだろう。彼の言うように黙って従うのが良い。しかし、一向に静まらない泣き声。叫び声。死を悼む声。家に隠れていた住民もわざわざ出てきてその輪に加わる。

 

 「本当は全員殺してもいいんだ。国王様もそう言ってたよ。だがな、俺はあくまで平和的解決を心から望んでいるんだ。人数も少ないから牢屋が足りなくなることはないだろうな。さあ俺が優しいうちに投降しな」


 そして、村人とユーラスの感情が徐々に怒りへと変わる。


 「一つよろしいでしょうか?」


 ユーラスが声を出す。ユピテルは顔をややしかめるが、その先を促した。


 「新聖教、アビィ教に入る気はありませんか?」


 予想外の質問にユピテルはさらに顔に皺を増やした。


 「戯言を…」


 質問にノーと答えるのが分かった瞬間、ユーラスや村人が一斉にユピテル目掛けて走り出す。

 目は怒りに燃えていた。殺意に燃えていた。

 

 「はぁ…馬鹿め」


 ユーラスは、そして村人たちは、突然の浮遊を感じた。そして首から上と下が分離していたと気付く前に絶命した。

 一斉に、地面に十数個の首が落ちる。 


 「結局全員殺してしまったな」 


 そう言い放つユピテルも、浮遊感を感じた。

 

 「は…?」


 どすんと音が鳴る。

 他の騎士たちと同時に、ユピテルの首が地面に落ちた。


 「くっくっく!!馬鹿め…!!」


 勝利宣言をしたのは、アビィだった。その声を聴く前にユピテル他は絶命したのだが。

 アビィは生きている。ユーラスも、ほかの村人も全員元気である。一方で騎士は全滅した。


 「さあ、皆さんこれが二つ目の奇跡です!もちろんわたし一人では成し遂げることができませんでした!!みんなで作り上げた奇跡なのです!」


 アビィはこの村全体に、魔法をかけていた。数時間かけて念入りに様々な魔法をかけていた。結果として予備の魔法は一つも使わず、本命の魔法にユピテルは引っかかった。


 その魔法は「幻影を見せる」というものである。用意するべきものは人形のみである。人形といってもほぼ丸太同然の粗末なものであったが。その人形が、本物そっくりに化けるのだ。アビィが指定した、「魔法が届く範囲」の内側にいる人間はそのように見えてしまう。

 作戦としては、その魔法にかかり夢中になっているうちに、不可視の場所から首を切り落とす魔法をかける、というものだ。


 確かにこの作戦はアビィ一人では不完全なものであった。

 幻影を見せる魔法というのは、視覚のみを惑わす。つまり音を偽造しなければならない。話し声やそのほか一つ一つの所作への音を当てる行為は、その場で皆で協力しながら偽装したものだ。

 

 「うおおおおおお!!」


 歓声があがる。皆で勝ち取った勝利。その中心にアビィがいる。

 ユーラスは感心していた。もはや感動していた。アビィの魔法のすさまじさにはもちろんのこと、統率力にも、そして村人の団結力にも。


 その場にいた誰もがアビィに、そしてアビィ教に従うと心の底から思ったのだ。そんな勝利だった。

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