第6話 はみ出し者の村 2
「おい!!これ、どうなってんだ!!」
「糸…!?そんな仕掛け…!」
「これは…魔法だな!お前、魔女だったのか!」
襲撃者が糸に拘束されながらもぞもぞと体を動かす。抜け出そうとしても、完全に絡みあった糸たちがそれを許さない。
アビィが眉間にしわを寄せる。そして言い放った。
「わたしは魔女じゃない!!! 私は、聖女様よ!」
襲撃者たちはみなそろってぽかんと口を開けていた。ユーラスがかつてそうしたように。
「で、あなたたちは何者なの?…って聞くまでもなさそうね。この村の人なんでしょ?ならず者で、はみ出し者。あの城壁の外へ追放されて、で、ここで、別のならず者からものを奪ってなんとか生きてる」
アビィは、拘束された男の一人に近づいた。そして顔をじっと見つめながら、
「そうでしょ?」
と静かに尋ねる。男が返事をする前に、
「うんうん。とっても可哀そうなのね。あなたたちは。うん、わかった。わかったわよ」
そうアビィがまくしたてる。男たちも、そしてユーラスもあっけにとられていた。
「わたしが赦し、そして救いましょう!!!!さあ、”新”聖教に入信して、わたしを崇めなさい!!!!」
アビィの大声の後、沈黙が訪れる。誰もが(といってもそこにいるのはアビィと襲撃者とユーラスだけなのだが)アビィにくぎ付けになっていた。
その沈黙を破るかのようにドアの方から音がした。
「おいおい、どうなってんだよ…」
相変わらず古い服を着ている大きな男。ディゼルクだ。
「おお!あなたでしたか!ええ、わたしたちにしようとしたことはわかってますよ!でも赦しましょう!そして入信しなさい!」
ディゼルクに対しても同様の勧誘をしたところで、ユーラスはやっとのつっこみを入れる。
「ちょっとアビィ様、少し強引すぎないですか?」
アビィは顔色一つ変えない。堂々と答える。
「いいかい、助手よ。こういうのは”押し”が大事なのだよ」
おいちょっと待て、とディゼルクが手を挙げる。
「ああ、まず、謝罪するよ。俺たちはお前らを寝かしてるうちに金目のものを奪うつもりだった。でも、お前らは起きてるし、こいつらは、糸に絡まっていやがる。しかも、これは魔法だな?こりゃ、たまげた…」
「正直ですね…」
ユーラスが睨みながらそう言った。このディゼルクという男はユーラスとアビィを騙したのだ。まだ何かしてくるかもしれない。
「そりゃ、勝ち目がないからな。強い奴に喧嘩売るやつがいるか?俺は全く魔法の心得がない。魔法使えねえ人間は魔法使いに敵わない。だから降参する。それだけだ。…で入信だっけ…?」
「そうですそうです!この村の人みんなまとめて、新聖教、いや、アビィ教に入信しなさい!さすれば救われます!といっても入る気にはなりませんよね…?よし、皆さん外に出ましょう!奇跡を見せてあげましょう!」
アビィが手をパンと叩くと、糸が見る見るうちに細くなり、緩まりやがて消えていった。
男衆も完全に開放されたわけだが、ディゼルクがおとなしく外に出たのを見て、混乱しながらではあるが、文句も言わず外に出た。
アビィはユーラスのほうを向き、
「助手よ!家の中にいる村人に声をかけて外の広場に集めなさい!」
と指示を出した。ユーラスとともにアビィも外に出た。
結局ユーラスはすべての家(といっても7軒しかなかった)を回り声をかけた。村人は一人で暮らしている男が大多数であった。独身でない家は、4人家族の1軒だけだ。ただどこの住人も共通点があった。
みな、痩せていてそして疲れ切った顔をした。反抗する気も起きないのか、従順に外に出た。
「さぁ、ベルル村の皆さん!」
広場、というか空き地に村の全員がそろったところでアビィが大きく声を張り上げた。
アビィを中心に半円状に人が並び、皆アビィの様子をうかがっている。
「あなたたちを直ちに救いましょう!!奇跡を起こしましょう!!」
アビィが指を鳴らす。
すると、広場の、微塵も栄養のなさそうな土からにょきにょきと草が生え始めた。少し時間がたつとそれが草ではないことに皆気が付く。木が1本2本と生えそして実がなった。大きなリンゴの木だった。
「おいおい、リンゴじゃねえか…?こんな魔法も使えるのかよ」
「ええ、もちろんちゃんと食べれますよ!」
村人が木により、一人二人と実を手に取った。そして口にすると…
「うまい!!!」
「おいしい!!」
あちこちで歓声が上がる。村全体が大変賑やかになった。普段の疲れた顔も幾分晴れ朗らかな雰囲気が村を満たす。期を見計らって、アビィはユーラスに目配せをする。
「皆さん!注目!!」
ユーラスは助手らしく声を張り上げる。そしてアビィが口を開く。
「どうでしょう!これがアビィ教の力なのです!!信じれば、救われる!!」
一瞬の沈黙。しかしそれを打ち破ったのは少年の声。
「入信、させてください!!!」
この村で最少年の男の子だ。アビィと同年代のように見える。
すると彼に続いて、
「おう、俺も入信するぜ!」「入信させてくれ!」「こんな魔法が使える聖女様のいる宗教、入らなきゃ損だ!」
入信を望むものの声があちこちで上がった。そして多数派になり、やがて全員が入信することとなった。
「皆さん!わがアビィ教への入信に心から感謝します!」
アビィはゆっくり見まわし、村の全員と目を合わせた。
「アビィ教徒のすべきことはただ一つ!このアビィ様のことを常に想像し、そして褒めたたえるのです!!」
うおおおという歓声が上がった。完全にアビィ教に染まったようだ。
「ふふん、どうですか、助手!これがわたしの力よ!」
アビィはやや小声でユーラスに自信気にいった。
「うまくいきすぎですよ…」
アビィはにやりと笑うとすぐに真剣な顔になり、また村人に向き合って言葉を発した。
「一つ、予言をしましょう。近い未来、いや明日かもしかしたら今日かもしれない。騎士が、この村に送られてくるでしょう!!」
村の雰囲気がまた変わる。この村は叩けばほこりが出まくる。一斉討伐の日が来たのだと村のだれもが思った。
「しかし安心しなさい!私が守り抜きましょう!!!この村を!!」




