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第5話 はみ出し者の村 1

 「静かですね…。こんなところに村があるなんて」


 「うん、不思議だねぇ。ここじゃあ、畑を作るのも木をたくさん切んないといけないねぇ。山の幸も海の幸にもたどり着けないし、食べれるのは木の実くらいかなぁ?なんで住んでいるんだろうねぇ」


 グラン王国の城壁の外側。森の中にひっそり存在するベルル村。

 ユーラスは以前からこの村の名前を知っていた。悪い意味で有名だったのだ。アビィの『なんで住んでいるか?』という疑問の答えでもある。

 城壁の内側にいられなくなった者たちが集まってできた流浪人、ならず者の集落。それがベルル村…という噂がある。あくまで噂だがいざボロボロの門を見ると、何か納得してしまうものがある。そうユーラスは感じた。

 森の中、門をくぐった先には木製の小屋が点々とあった。

 

 「すみません!!誰かいますかー!!」


 夜にも関わらず、アビィが大声を出した。すると小屋の中から男が一人出てきた。


 「やあ、お嬢さん。それにお兄さん。ベルル村へようこそ」

 

 古ぼけた服に、痩せてややこけた頬。そして、鋭い目つき。しかし口調や態度は柔和そのものであった。そんな30代ほどの男が目の前に立っていた。


 (あの噂は、やっぱり所詮噂だったのかもしれない。優しそうな人だな)


 ユーラス自身も痩せ気味であるし、古い服を着ているので勝手に親近感が湧いていた。


 「俺は、ディゼルクだ。よろしくな。よし、そうだ。一つ空いてる小屋がある。まずはそこで話そう。ついてきな」


 こちらの事情を深く聞くことなく、もうすでに歩みを始めている。さっぱりした人だな、とユーラスは感じた。それもまた好印象だった。


 村自体が小さいから、そんなに歩くこともなく、すぐに小屋についた。

 

 「おお、良い小屋ですね!」


 アビィが歓声を上げる。良い小屋…なのかは正直わからなかった。木組みの、そしてだいぶ古いであろう小屋。でも、あのいつもの独身寮と比べれば、やはり魅力がある。

 

 「さあ、入って入って」


 中にあったのは、(硬そうな)ベッドが2つのみ。


 「ごめんな、椅子とかテーブルとかはないんだよ。そのまま座ってくれ。そうだ、水を取ってこよう」


 そう言ってディゼルクは出ていってしまった。部屋に残されたアビィはぺたんと床に座った。

 

 「さ、座りましょう!そして耳を、わたしの口に近づけなさい!」


 不審に感じたが反抗する理由もないので、ユーラスは言うとおりにした。

 すると、アビィは小声で


 「助手よ、水を飲み込まないようにしなさい」


 「え…?」


 ユーラスは、アビィの忠告に絶句した。が、それを傍目にアビィは鼻歌を歌いながら床をこすったり、何かを描くかのように指を滑らせていた。


 (つまり、この村はやはり…?いやアビィの気のせいかもしれない)


 ただ、ユーラスは一応心にとどめておくことにした。

 

 そんなこんなしている間に、ディゼルクが帰ってきた。

 

 「お待たせ、思ったより時間がかかってしまった」


 そう言って、さっそく水を出した。木のカップになみなみと入れられていたそれは、一見すると澄んでいて綺麗な水なように感じられる。


 「いただきます!」


 アビィがごくごくと喉を鳴らして一気に飲み切った。

 

 (なんで俺には飲むなと言っておいて、自分はごくごく飲むんだよ…毒が入ってるとかじゃないのか?)


 ユーラスが安心して、水に口をつけたその瞬間、何か嫌な雰囲気を感じた。そのオーラを発していたのは、水ではなくディゼルクだ。ほんの一瞬ではあるが、にたりと笑うような、そんな顔がちらりと見えた気がした。

 結局ユーラスは水を飲むふりをした。やはり、アビィの忠告を守ろうという直観に従ったのだ。飲むふりといっても原始的な方法で、少量を口に含み、口を服で拭う際に少し吐き出すというものだった。


 「本当はごちそうでもてなしたいが、難しいんだ。とりあえず水とあとこの小屋だけで満足してもらうしか…」


 「ええ、大満足ですよ!こんな夜遅いのにありがとうございます!!」


 アビィが元気よく感謝すると、ディゼルクは申し訳なさそうに、おやすみとだけ言って部屋を出ていった。ユーラスは、その挨拶に対応するほど冷静ではなかった。ディゼルクが悪意を持っているかもしれないからだ。例のうわさもそこに結びつく。


 「さ、寝よう!」


 アビィがベッドに入る。 


 (そんなにあっさり!?何か策があるのかと…?)


 「もちろん、寝たふりね」


 アビィが小声で付け加える。ユーラスも何となく察し、ベッドにもぐることにした。

 数十分が経過した。まだ、眠気は訪れない。ベッドが硬いからだろう。


 ギィ…と音が鳴る。ドアが開く。客人…ではないようだ。

 ドカドカと入り込む。3人ほどだ。

 起き上がりたい、そして逃げたいという本能がこみ上げる。ただアビィが寝たふりをしろといったのだ。何か考えがあるのだろう。ユーラスはあくまでそれに従った。


 ベッドに近づく気配を感じる。

 体に手が触れるか触れないかの時、部屋が光に包まれた。


 「ふふん、馬鹿ね!相手が悪かったわね!!!」


 ここで初めて、ユーラスは体を起こす。

 いつの間にかアビィが仁王立ちしていた。そしてその向こうには、床や天井、壁から伸びた大量の白色の糸が体に絡まって動きを封じられた3人の大男がいた。

 彼らの手には斧やらナイフやらが握られていた。

 

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