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第3話 幼魔女との出会い 3

 「大丈夫だって!隷属の呪文っていっても主人と仲良くしようねっていう願掛け程度だからさ」


 椅子に唖然とした顔のまま座り込んでいるユーラスを励ますようにアビィはそう言った。


 「願掛け?」


 「隷属って響きがなんか怖いけど、わたしの故郷では親友どうしでかけたり恋人にかけたりしてたから!できるだけ長く一緒にいようねっていうおまじないなの。まあ、元は主人と奴隷の儀式なんだけどね」


 ユーラスは呪文や魔法に全く精通していないので本当かどうかわからない。ただ、もうかけられてしまったからには、アビィの言うことを信じるしかない。そう思いながら手の甲の不思議な文字を眺める。


 「その蛇みたいなうねうねしたマークはね、”平穏”を意味してるの。ね、なんか縁起いいでしょ」


 必死に慰めてくれるアビィを見てユーラスは腹を決めた。先ほど人生を変えようと決心したばかりなのだ。くよくよしていても仕方がない。


 「わかった。改めて、助手としてよろしく」


 「ありがとう、助手よ!!」


 アビィは背をすこし伸ばし、いったん深呼吸をして


 「それじゃ、出発するよ。持ち物はなにもいらない。わたしが全部なんとかする。…あ、なんか持っていきたいものでもあった?」


 ユーラスは即答する。

 

 「何もない。早くいこう」


 ユーラスは非日常へと歩みだしたくてうずうずするほどであった。


 「やる気があるのはいいことだねぇ」


 アビィもそれを感じ取り、パパっと自分の荷物を鞄にしまい、二人で外に出た。

 あたりを明るくする魔法の効き目が切れたのだろうか、真っ暗にもどっていた。


 「で、どこに行くんだ?」


 暗く静かな森の中、気持ちひそひそ越えでユーラスは尋ねる。

 

 「うーんとね、あっちかな」


 アビィが指さしたのはあの城壁のまさに反対側。日常の終焉を象徴しているように感じた。

 真夜中、しかし明かりをつけて歩くわけにもいかず、夜が明けるのを待ったほうがいいのだろうが、一秒でも早く歩み始めたいユーラスには関係のないことだ。早速やや足早に歩いた。

 意外と夜目が利く。明らかにいつもより見やすい。たしかに暗いが、どこに何があるかははっきりわかる。だから木の根っこに引っかかることは皆無であった。


 「あ!忘れてた~、そのまま歩いてて!戸締りしてくる」


 アビィが声を上げる。

 あの家?のドアに鍵がついていたか疑問に思ったがユーラスはそれを口にすることはなかった。アビィは走って戻っていき、ユーラスは言いつけ通り一定のペースで歩いた。


 数分間そのまま、鬱蒼とした森を歩いた。何か嫌な予感を感じた。アビィがそばにおらず心寂しいことが要因だろうか。


 しかし予感は的中する。前から人影が突然現れる。相当背が高い。巨漢だ。ユーラスの脳内には壁の向こうには巨人がいるだの、大蛇がいるだのそういった噂がフラッシュバックする。巨人や大蛇はいなくとも強盗やならず者はいくらでもいるだろう。


 (まともにやりあったら絶対殺される。…隠れよう)

 

 そう思い体の方向を変えたその瞬間、巨漢がこちらに走り出す。

 

 (絶対に見つかってる!これは絶対に見つかってる!)


 まともに戦えるわけがないと、ユーラスも全身全霊をかけて走り出す。もちろん、アビィのいる方向へだ。情けないが、アビィならなんとかしてくれそうという信頼がすでにあった。


 走りながら後ろを振り向くと、すでに距離が最初の1/3ほどになっていた。もうこちらは息が切れ始めている。ユーラスは死を予感した。が、こちらの予感は外れることとなる。


 ドサッと音が鳴る。

 何か物が落ちるような音だった。


 ユーラスは再び振り向く。


 暗い獣道に巨漢が倒れていた。首が切断された状態で。


 とんとんと背を優しくたたかれる。いつのまにかアビィがそばにいた。


 「ごめんねー怖かったねー、でも、ほらもう大丈夫だよ。最強のわたしが倒しておいたから」


 おどけたようにアビィは言ったがユーラスはそれを冗談ととらえなかった。


 巨漢を瞬殺。魔法、なのか?魔女を自称しているのだからおそらく魔法なのだろう。何かを飛ばしたのか?いや、そんなことをしたらユーラスに当たってしまう。だってユーラスは巨漢とアビィの間にいたのだから。それにそんな簡単に首の切断などできるのだろうか。まさに神業だと感じ、ユーラスはただアビィをじっと見つめる。

 やはり聖女なのかもしれない。聖女にだったら奴隷でもいいかなとすらユーラスは思ってしまった。


 「ほら!ほらほらー!いくよー!!ここの森って結構ごろつきいるから一人ひとりにビビってたらいつまでたっても抜けられないぞー…」


 いまだに茫然としているユーラスの手を引っ張っるアビィであった。


 一方そのころ、かつてのユーラスの職場であった城壁では、見回りをしていた兵士全員が眠らされていた。

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