第2話 幼魔女との出会い 2
「……え?」
ユーラスは首をかしげる。何もかも唐突すぎて頭が処理しきれていないのだ。
(この子は何を言ってるんだ?)
「ん?この魔法が気になるのかな!すごいでしょ!暗かった森が一瞬でお昼に!でもね、お日様を出すなんてことはしてないよ。実際に”外”は暗いままだからね。この辺だけ明るくする魔法だよ!」
そう言って少女はそばにあった木の後ろ側に回った。ユーラスも後を追う、と既に少女は消えていた。どこに行ったのだろうときょろきょろ周りを見ると、その木の根元のあたりから腕がにょっきっと出てきた。
「こっちだよ、こっち!!ここの穴が入り口!」
よく見てみるとたしかにそこには人が入れる大きさの穴があった。この子はこんなところで暮らしているのかとユーラスはまた混乱しながらも、足から穴の中に入っていく。穴は緩やかに下っていたし、さほど深くなかったので安全に着地できた。
「じゃじゃじゃーん!ってね。ここがわたしの家~」
木の下の家。地下とは言え、あちらこちらにあるランタンのおかげでだいぶ明るい。簡素なベッド、木製のテーブル、椅子(もちろん一個しかない)、タンス…。狭いため、無駄な物が何もない。それでも、同じく何もないユーラスの部屋より洒落ていると感じた。
「よいしょ。あ、君はそこらへんに座ってね。お客さんが来るなんて、なかなかないから椅子は一つしかないの」
少女は椅子にちょこんと座った。身長差があったのであまり少女がどのような様子かよく見ることができなかったが、今ならだいぶはっきり見える。まず、白い髪。白というよりは銀色かもしれない。一般的な白髪とは違うとユーラスは思った。さっきは光の加減で茶色に見えていてその特殊性に気が付かなかった。そして目はやや赤に近い茶色。この国では茶色の目の人が多数派だが、やはりそれとは違う何かがあるように感じられた。
「どうしたの~そんなに見つめちゃって~~」
ユーラスは引き込まれていたことにやっと気づきすぐに目を逸らす。
「いっいや、別に…」
「んまぁ~わたし可愛いし~、しょうがないから、もっと見ていいわ~」
このまま目をそらし続けているのもおかしいと思い、結局少女の言う通りになってしまうユーラス。
ユーラスは目線を下げる。瞳や髪以上に奇抜なのがその服装だ。特に存在感が凄まじいふわふわのフレアスカート。上下でワンセットだからドレスか?とにかくボリュームたっぷりだ。リボンやら帯やら大量の装飾がなされているのにも関わらず、ちゃんとまとまっていると、素人ながらユーラスは思った。相当暗めの緑と紫と黒の3色で彩られたそれは、まさに貴族が着るかのような高貴な服だ。いや貴族ではなく、どちらかというと魔女に近い。
「どう、この服?可愛いでしょー!」
「え、う…うん」
「なんか反応、微妙だなー。……あ。自己紹介!まだだったね!」
そう言って少女はすっと立ち上がった。逆に立ちっぱなしだったユーラスは椅子をすすめられて座った。先ほどと位置関係が真逆になったところで、少女はピッと背を伸ばした。そして片足をやや後ろに下げ、両手でスカートのすそを持ちつつ、膝を軽く曲げて、お辞儀した。
された方のあたふたしたユーラスを置いておいて少女は言った。
「改めてはじめまして。魔法使いのアビィよ」
「やっぱ、魔女だったのか…」
ここでアビィは突然仁王立ちになり、
「わたしは魔女なんかじゃないわ!!!聖女様よ!!」
(??? 聖女様…? )
ユーラスの脳内にはますます?が浮かんだ。
「聖教に入っているようには見えないけど…」
「わたしは、”新”聖教の聖女で伝道者で今のところ唯一の信徒よ。で、君は?もちろんしてくれるよね?」
迫られてユーラスもあわてて、座ったままで口を開く。
「えっと、名前はユーラス。近くの、城壁で傭兵やってます。……」
「そして、今日からわたしの助手でーす」
「へ?」
ユーラスはここに入る前にアビィから言われたことを思い出した。
「どっどういうこと?助手?」
アビィがじれったそうに答えた。
「うーん、もう!!そのままの意味だよ!!君は助手になるの!あと、新聖教の二人目の信徒」
「いや、どうして急に?」
「そういうのいいから!なりたいの?なりたくないの?どっちなの?なりたくないなら帰っていいよ」
(何を言っているんだこの子は…)
ユーラスは心の中で呆れた。一方で足は部屋を出ていこうとしない。そう、これは入り口だったのだ。
非日常への。
あのつまらない10年間を振り返る。来る日も来る日も目覚め、出勤、勤務(ただ、ぼーっとする)、帰宅(独身寮へ)、一人で食事を取り一人で眠りにつく。ここ数十年は平和だから命の危険はまったくない。そんな安全の確保された生活でも、いやそうだからこそ、自分の命が無駄に消費されているかのように感じるのだ。何もせず、ずっと変わらないそんな嫌な安定……。ぶち壊したい。
「うーん迷ってるなら、一つお得なことしちゃう!!なんと今なら、わたしの料理が付いてきます!!」
「助手になりたいです、よろしくお願いします」
「君は大人なのに、飯につられるのか…」
あまりの即答にとまどうアビィ。
「あ、いやっ……まぁ、はい。助手になりたいです」
ユーラスは完全に決心したのだ。それに非日常を求めていたユーラスにとって、改めて考えてみると、アビィは女神のようなものだった。ここでおさらばっていうのは悲しい気がしたのだ。なれるならなりたいし、なれないにしても彼女との出会いは非日常だ。
「……じゃあ契約成立ってことね。手短にやるわ」
契約という言葉がやや引っかかる。が、ユーラスの気持ちは確固たるものであった。
「手、出して」
指示に従い手の甲をアビィに向ける。
アビィはごにょごにょと呪文を唱える。
すると、今まで見たことのない文字のような記号のようなものが(おそらく)一文字皮膚の上に黒く浮かび上がってきた。
「これって…」
「隷属の呪文だけど…?」
「隷属…?」
無邪気そうなアビィの前で、ユーラスは茫然としていた。




