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第12話 港町にて、犬好きの少女は。 4

  ユーラスたちに気が付き、魔犬が牙を剥く。そして、一斉に襲い掛かる。


 「下がって!」


 そう叫んで前に飛び出たのはテルだった。逆にユーラスとアビィは宿屋側に押し込まれた。

 その瞬間、時の流れが遅くなったかのようにユーラスは感じられた。魔犬が一斉にテル目掛けて、駆ける。テルは身を守ったり、攻撃しようとするそぶりを見せなかった。そのまま魔犬がテルの腹に歯を立てる。

 そして、十数匹の魔犬に囲まれながら腹を散々食いちぎられて…。

 

 とはならなかった。

 

 「僕は大丈夫です、ほら、あの魔法が使えますから」


 テルは全く無事であった。逆に魔犬たちは腹を引き裂かれた状態で絶命。受けた攻撃をそのまま返すという魔法をテルが使えることをユーラスは思い出した。

 やっぱり強いなとユーラスは感心したが、次から次へと押し寄せる魔犬の波に安心はできなかった。


 「どうします、アビィ様?」


 「あの子が、チャルが危ない。たぶんこの魔犬たちの目的は…」


 テルもユーラスも、この時脳内にあの景色が広がる。アビィが犬と戯れている景色。

 犬に好かれる魔法。犬を引き付ける魔法。それに魔犬が反応してしまったのか。

 本人の自覚はないようだった。チャルは制御できない。


 「…行きましょう」

 

 ユーラスは短剣を取り出す。


 「…僕も覚悟はできてます」


 「わたしも準備はできたわ!」


 アビィはさっきからずっと魔法の”準備”をしていたのだ。

  

 そしてアビィはパチン、と指を鳴らした。

 突如としてあたりは昼用に明るくなる。まぶしくてユーラスは目を瞑る。 

 

 「効果はまずまずといったところね!さ、行くわよ!」

 

 目を開けると、宿屋の前の通りから魔犬が消えていた。死体がごろごろ転がっているとかそういうものを想像していたが、完全に、跡形もなく魔犬が消えていたのだ。


 「まさに神業ですね…」


 「この町全体を浄化するつもりだったんだけど、やっぱり時間が足らなかったわ。たぶんチャルの家らへんはまだわんさかいるから、ほら、とにかく行くわよ!」


 ユーラスとテルは唖然としながらも夜道を急ぐことにした。

 アビィの浄化魔法により宿屋を中心にして100mほどの範囲では魔犬は完全に消えていたが、やはりチャルの家に近づくと、つまり海から離れれば離れるほど魔犬を見る頻度が高くなってきた。


 魔犬はこちらから刺激しなければ、噛みついたりすることはなかった。しかしそれは何も良いことではない、とユーラスは感じた。魔犬が進む方向は、決まってチャルの家の方だったからだ。


 一行はゆるやかな坂を上り、チャルの家がある野原につく。

 とてつもない悪臭。 


 「…これは、ひどいわね」   


 かつての野原は全く原型をとどめていなかった。血の池に浸かる無数の犬の死体。数日前からチャルに懐いていた犬たちだろうか。そしてその死体に乗る大量の魔犬。チャルの家を中心に魔犬の巣窟になっていた。物理的に近づくことすらできない。

 ただこちらに気づく魔犬は一匹もいなかった。生き残っている魔犬はどれもチャルの家に少しでも近づこうとしていた。

 

 「こっちには気づいていないみたいだね」


 アビィは先ほどやった浄化魔法の準備を始めた。

 そして、しばらくしてパチンと指を鳴らす。

 

 先ほどと同様光があたりを包み、魔犬を一匹残らず消した。


 「魔物にしか効かないのよ」


 それは一目瞭然だった。魔犬は完全に消えたが、ただの犬の死体は依然として残っていた。血なまぐささも。


 「行くわよ」


 すでに嫌な予感はしていた。


 (いや、魔犬とも仲良くなっているかもしれない…。チャルの魔法は犬を懐かせる魔法のはず)


 あの無数の犬に懐かれていたチャルが思い出された。少しでも良い方に考えようとした。しかし周りの大量の犬の死体、そしてチャルの犬に押し寄せていたあの魔犬の量を思い返せば、楽観的な想像は現実的でないと嫌でも分からされてしまう。


 扉は開いていた。壊されていた。それはそうだろう。だって大量の魔犬が殺到したのだから。


 「そんな…」


 家の中に入り、すぐに”それ”が目に入る。


 チャル一家の死体がそこにはあった。

 

 

 

 

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