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第11話 港町にて、犬好きの少女は。 3

 「助手!!起きなさい!」


 頬に違和感を感じ、ユーラスは目を覚ました。右を向くと、アビィがベッドに乗ってユーラスの頬をつんつんと突いていた。


 「起きなさい!!布教にいくわよ!!」


 「は、はい…わかりました…」


 まだ完全には明るくなっていない早朝。ユーラスは重いまぶたをこすりながら起き上がり、身支度を始める。その間、アビィはベッドの上に立ち昨晩考えたアビィ教の宗旨を発表し始めた。

 

 「まずアビィ教は、アビィ、つまりこのわたしのみを唯一の神として崇める!これが中心よ。 まあ、これじゃあ聖教と神が違うだけで同じになっちゃうでしょ? でもね、我が宗教はね、似非宗教と違って献金とか儀式とかそういう胡散臭いものはないの!これがアピールポイントね。わたしは信徒を平等に扱うの!」


 「確かに、善良な宗教な感じがありますね。でも、少しアピールポイントが弱くないですかね…?聖教を否定しているのはインパクトがある気もしますが、それじゃあただの反宗教な…」


 「ええ、アビィ教は確かに反宗教よ!ただし”アビィ教”以外の宗教に対して反宗教なだけよ。とにかくわたしを崇めればいいの!はい!おしまい!!あなたたちは、布教しなさい!!」


 結局、あまり腑に落ちなかったが、アビィに催促されたので、ユーラスはテルとともに布教活動をすることにした。


 2日目の布教活動も初日と同様、立ち止まって話を聞いてくれる人は皆無だった。それでお、アビィからの命令なのでユーラスは仕方なく一人で声を張り上げる。


 「アビィ教入りませんかー?献金不要ですよー!聖教からの改宗も大丈夫です!」


 ユーラスは自分でも宣伝文句が意味不明だなと感じた。これじゃ完全に邪教だ。いや実際に聖教からしたら完全に邪教なのだが…。

 

 海が目前、そして船が目前。人通りも少なくない。主に漁師や貿易の商人だろう。誰一人として勧誘に乗ってくれる人がいないので別の場所に移ってみようかと思ったその時、立ち止まる少女がいた。


 「あ、昨日あった人だ!」


 昨日会った、犬のような少女---チャルだった。そのチャルの周りには犬が、10匹ほど。チャルにぴったり体を密着させている犬や撫でられてうれしそうに尻尾を振っている犬を見ると、チャルは相当なつかれているんだなと、ユーラスは感じた。


 (やはり犬になつかれる魔法を使っているんだな…? でも自然な感じがする) 

 

 「うーん、何してるの?」


 チャルは犬を撫でながらそう尋ねた。


 「えっと…」 


 こんな幼い少女に宗教の勧誘しているんだ、お前も入らないか?なんてとても言えないとユーラスは考え、適当に話を逸らすことにした。


 「と、ところでさ、もしかして魔法使ってるよね」


 「うーん?」


 唐突な質問をしてしまったとユーラスは恥じる。


 「ううん、わたし魔法使えないよ」


 チャルの解答は予想外のものだった。ユーラスとチャルの間に気まずい空気が流れる。


 「あ、え、そうなんだ。急に変なこと言ってごめんね。それじゃあね」


 ユーラスはその気まずさから逃げるかのようにその場を後にした。


 「変なのー」

 

 次の日もその次の日も全く同じだった。

 宣教活動をしていても、立ち止まってくれるのはチャル一人。港町が小さいからか毎日チャルには会った。ユーラスのコミュニケーション能力が低く結局適当に話を切り上げたのだが。

 ただ一つ、異なることがあるとすれば、チャルが連れている犬の数だろう。

 初日は5匹。次の日は10匹。その次は20匹ほど。その次はもう数えきれないほどいた。 

 その数が一斉に吠えたり牙をむいたりしたら、もうそれは地獄絵図になるだろう。しかしチャルが連れている犬は一匹として吠えなかった。ただただ、チャルに懐き、そばで寝ているか静かに遊んでいた。

 噂が噂を呼び、チャルは港の有名人になった。どこからか犬が湧き出てチャルに懐く。そしてチャルの家に大量の犬を住まわせるわけには行かないので家の外に犬がたまる。溜まった犬は、夜は静かに寝て、朝になると家から出てきたチャルを先頭にして行列を作り散歩をする。

 明らかに異常な光景だったが、人に害を全くなさないので、観光名所と化しただけであった。


 夜、特に意味のない布教活動が終わり、明日の作戦を練っているときにこのチャルの話題になった。もちろんアビィもこのことを知っていた。ユーラスが何かした方がいいのでは、と進言するも、実害が出てないならいいじゃない、とはねつけられてしまう。

 しかし、ユーラスは”あること”を思い出した。


 「アビィ様。チャルは魔法を使っていないと言っていました。」


 「え?」


 アビィは少し顔をこわばらせる。


 「いや、確実に魔法を使っているわ」


 「でも本人が…。嘘はついていないと思います」


 「そう…。じゃあ話は変わってくるわ…」


 ここでテルが手を挙げる。


 「つまり、ほかの人魔法をかけられている、ということでしょうか?本人の意思関係なく魔法を使わせるような魔法…」


 「これは…」


 その時、地鳴りのような低い音。

 何がこちらに迫ってくるような音。

 少し遅れて叫び声。


 「まずいことになったみたいね」


 ユーラスたちは急いで宿舎から飛び出す。

 黒い闇の中に、大量の光る点。


 目だ。

 魔犬が、通りを埋め尽くしていた。

 宿舎の前だけじゃない。

 この港町は、魔犬に埋め尽くされていた。

 

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