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第10話 港町にて、犬好きの少女は。 2

 周りにたくさんの犬がいるからか、その少女の印象はやはり”犬”そのものであった。ふわりとした茶色の長い髪の毛。服装も地味な色ではあったが、綿か何かが入っていてふわふわしていた。

 

 「わたしは、アビィよ。あなたは、ここの人?」


 その犬みたいな少女は座ったまま答えた。


 「わたしはチャルだよ!もちろんここの人です!」


 「あなた、犬が好きなの?」


 「見ての通り!!大好き!!」


 アビィが大人ぶっているだけかもしれないが、アビィに比べると、チャルという少女はより幼く見える。

 ユーラスがそんな風に思っている間にも、チャルは犬と戯れ始めていた。


 「アビィ様、そろそろ…」


 「ええ、そうね。わんちゃんとの遊び邪魔してごめんねー!じゃあね!」


 「またねー!」


 そんなこんなでチャルとは一応別れ、港町の中心部へと行くことになった。その道中、テルが申し訳なさそうに声を上げる。


 「あの、いや、やっぱ僕の気のせいかも…」


 「言いなさい!気になったことはすぐ言う!これはこの教団のモットーの一つよ!」

 

 そんなモットー?初耳なのだが、という小言をユーラスは飲み込んだ。そしてテルがこれまた申し訳なさそうに口を開く。


 「あの子、魔法を使ってる、ような気がします」

 

 それを聞いたアビィが軽く拍手した。すこし背伸びしてテルの頭を撫でている。年の近い姉弟のように見えた。 

 

 「よくわかったわね!!あなたやっぱり才能があるわ!」


 「あ、ありがとうございます… でも、アビィ様も」


 「わたしは全知全能だから、当然よ!とにかくあなたが気付けたことがすごいのよ!ユーラスもテルを見習って日々精進しなさい!」


 (そんなこと言われても、見えないものは見えないし…)


 アビィはまた歩きながら彼女の魔法について解説しだした。潮の匂いが強くなってきた。人の騒音もそれに比例するように大きくなった。


 「あれは、犬を引き付ける魔法ね。犬好きにぴったりじゃない!人畜無害!結構なことよ」


 「だから、あんなに犬がいたわけですね」


 「そうよ!あ、ほら、もう海ね!って入れないじゃないの!」


 アビィの言う通り砂浜はなく、船が出入りできるようにすぐ深くなるタイプの海であり一般人が気軽に入れるようなものではなかった。


 「まあ港町ですから…」


 「ぐぎぎ…、こんなに近くに海があるのに入れないなんて!」


 アビィは悔しそうに海面を眺める。


 「で、どうします?まずは宿屋に行きましょうか?」


 「そうね、まず態勢を整えましょう!そのあとに布教よ!」


 アビィの言うとおりになった。つまり、宿舎に荷物を適当に置いて、そのあとは3人で街中に出向き布教活動を行った。布教活動といっても、大声でアビィ教入りませんか?と叫ぶだけである。ユーラスは、アビィ教の趣旨を”アビィを崇める”とだけしか認識していないため詳しく勧誘することなどできない。そして、アビィ自身もアビィ教の目的や行動を練り切れていないようだった。


 「アビィ様、誰も耳を貸してくれないですね」


 「ふん、全く見る目の無い愚民たちめ。そのうちわたしに畏怖することになるわ!」


 結局その日は一人も入信しなかった。それどころか話を聞く素振りを見せたものもいない。

 アビィは一旦撤退し教義をしっかり練ると宣言し自分の部屋に帰っていった。


 「さ、僕たちも部屋に入りましょう」

 

 テルとユーラスは同室であった。ユーラスは、テルとの間に会話が生まれるのか少しどぎまぎしていたが、意外なことにテルのほうから話題提供があった。


 「ユーラス様、突然ですが、アビィ様にとってあなたの意義って何かご存じですか?」


 がつんと殴られたかのような衝撃を感じた。ユーラスの価値は無い、そうテルに言われている気分になった。確かに、アビィはなんでも自分で出来るくらい強力な魔法使いだし、テルはそのアビィに一目置かれるほどの才能を持っているのだ。対して、ユーラスはどうか?半ば責められているのではないかとユーラスは考え、少し自虐気味に答えた。

  

 「うーん、無いかな」


 しかしそれは杞憂であった。


 「いいえ、確かに存在します」


 テルがこれまでにないくらいはっきり答えた。


 「アビィ様は確かに最高の魔法使いです。しかし、アビィ様の魔法は準備が必要なんです。ある程度の準備があって強大な魔法を発動する、というのがアビィ様のスタイルです」

 

 確かに、今まで見せてもらった魔法はほとんど”準備”が必要なものだった、とユーラスは振り返った。


 「とっさの攻撃を防御したり、逆にこちらからすぐに攻撃する際にはそのスタイルは向かないわけです。恐れ多いですが、ここがアビィ様の弱点とも言えます」


 テルが淡々と話すその内容に、ユーラスはやや衝撃を受けていた。”アビィ”と”弱点”という単語が並んで用いられるとは思わなかったのだ。


 「そこを補う、それがユーラス様の意義なのです、と僕は考えて、います…」


 テルの口調が突然歯切れの悪いものになった。今までの淡々とした態度を恥じたのだろうか。

 

 「補えるのか…?」


 「補えるかどうかではなく、補うことが意義であり、アビィ様からしたらユーラス様に課した義務なのかもしれません」


 「なるほど…」


 まだまだ、力不足だなと率直に感じた。


 「他にも、ユーラス様には役割があります、というかあると思います… 僕は知らないし推測もできないのですが、おそらくアビィ様がユーラス様の何かを見抜いたのは確かです! だから、」


 「だから?」


 「ゆ、ユーラス様は自信を持っていいと思います!!」

 

 「お、おう。わかったよ」

 

 後輩に励まされてしまうユーラスであった。

 

 こうして港町の夜が更ける。

 すぐに惨劇の舞台になるなど、ユーラスは知る由もなかった。

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